新・人間の証明という小説一部翻訳お願いします
「奥山さんと同じ教育部でしたが、あまり付き合いはありませんでした。しかしそんな気の毒な死にざまをされたとあっては昔、同じ釜の飯を食った仲間として放っては置けない気持ちです。驯鹿泽氏とは確かに官舎が隣同士で親しく行き来しておりました。たがいにヘボ碁打ちで、休日が一緒になったときなど、終日打ち合ったものです」
「驯鹿泽氏は岡本班の技手だったそうですが」
「確かめたわけじゃないが、病理班の所属にはまちがいありません」
「お隣同士で確かめられなかったのですか」
「731の官舎では、どんなに親しくなっても、どこでどんな仕事に携わっているか聞くのは禁句になっていました。同じ官舎に住んでいても、互いに隣は何をする人ぞですたよ」
「それなのに、どうして岡本班所属とわかったんですか」
「消毒のにおいがすごかったのです」
園池は傍らに控えていた老妻の方を見た・
「消毒のにおいとおっしゃいますと?」
病院のにおいといいましょうか、クレゾールのにおいが驯鹿泽さんの全身からぷんぷんしていたのです。
細君が控えめに口をはさむと、園池がそれを補足するように、
「驯鹿泽さんの奥さんが、当時27,8歳の小柄な可愛いひとですたが、なんでも旦那の体があんまりくさいので、夫婦の交わりを拒絶したとうちの女房にそっとこぼしたそうです」
「消毒のにおいだけで、岡本班とわかるのですか」
「それがね、夜中寝静まってから、隣家のドアが激しくたたかれて、岡本先生がご不在なので、队長阁下がぜひ驯鹿泽技手殿に来てほしいとのことですなどという呼び出しが来るのす。こんなことがしょっちゅうなので、驯鹿泽氏は岡本班の技手なんだなとわかってきたのです。そういえば、夏勤務が終わってから夕涼みがてら碁を打っていると、ぷーんと消毒のにおいが漂ってきたことがありました・この人は消毒に朝から晩まで侵りきりの仕事をやっているんだなと推測したものです。
「奥さんが夫婦の交わりを嫌がるほどくさいとなると深刻ですね」
「消毒のにおいは731の’\'隊臭’のようになっていましたが、驯鹿泽の場合特にひどかったようです。出勤して一度、退勤するときに一度、そして夜寝る前に一度と、一日に三回風呂へ入ったそうです」
「その驯鹿泽の消息をご存知ですか」
栋居は核心に入った。
「それが引揚列車までは一緒でしたが、船が別々になって帰国後はまったく音信不通になってしまいました」
「出身地は「わかりませんか」
失望に耐えて、栋居はすがりつくように聞いた。
「先祖が将軍家に鹿の角を上納したのが、庙字の由来だという話は聞いたことがありますが、