まさか、中日詩歌大会!?
よし、おもしろい...
石川丈山「富士山」
詩吟をやる人がはじめて接する詩としたら、この詩だと思います。これはど
この流派でも同じだろうと思います。
富士山 石川丈山
仙客來遊雲外嶺 仙客来り遊ぶ雲外の嶺
神龍棲老洞中淵 神龍棲み老ゆ洞中の淵
雪如丸素煙如柄 雪は丸素の如く煙は柄の如し
白扇倒懸東海天 白扇倒(さかしま)に懸る東海の天
作者の石川丈山は徳川家康に仕えた武士ですが、大坂の役で軍令を犯したと
いうことで退けられ、京都に隠栖し、文学の世界にのみ生きました。京都の叡
山の麓一乗寺村に詩仙堂を建てました。しかし、実は幕府のために朝廷を見張っ
ていた役割をしていたのが本当の姿だったとも言われています。
さてこの詩は必ず詩吟の世界では詠われるわけですが、内容はさしていい詩
とも思えません。龍が棲むという、洞中など、富士山のどこに見られるでしょ
うか。また白扇をひっくりかえしたとて、とうてい富士山の姿には似ていませ
ん。煙が雲のこととして、なんでそれが扇の柄なのでしょうか。あまりに作り
すぎた詩のように思います。実際の富士山とは似ても似つかない山を思い浮か
べてしまいます。それは中国の絵の中にあるような山のように思います。
初めてこの京都の詩仙堂に行ったとき、あまりにつまらない庭でがっかりし
ました(つまらないというのは、庭そのものはかなりなものなのかもしれませ
んが、私はあんな庭が好きになれないのです)。それでも私はまた何人かの詩
吟をやるおばあちゃん方のグループが、この詩を吟じているかななんて期待も
していたのですが、いたのは若いディスカバージャパン風の女の子だらけでがっ
かりしました。もっとも私も、そんな風な若者のアベック同士でしたが。
ちょうどそのころ(一九七一、二年頃、二年間とも)、武道館でこの詩を四
〇人位で合吟したことがあります。笹川良一が詩吟の世界を牛耳っていますか
ら(彼の奥さんが笹川鎮江という詩吟歌手です)、毎年大きな大会が開かれま
す。しっかり詰入の学生服着て、懸命に吟いました。武道館はいっぱいの人だっ
たものです。
思えば私はあの頃は、ある日はヘルメットかぶってデモに行き、ある日はま
たこうして武道館で学生服着て詩吟やっていたんだなと思い出しました。いや、
ヘルメット姿でアジテーションやって最後に詩吟やったこともありますけれどね。