それが五月のことでした。十一月に入ると、冷たく、目に見えないよそ者がそのコロニーを巡り歩きはじめました。そのよそ者は医者から肺炎氏と呼ばれ、氷のような指でそこかしこにいる人に触れていくのでした。この侵略者は東の端から大胆に歩きまわり、何十人もの犠牲者に襲いかかりました。しかし、狭くて苔むした「プレース」の迷宮を通るときにはさすがの彼の足取りも鈍りました。
肺炎氏は騎士道精神に満ちた老紳士とは呼べませんでした。息が荒く、血にまみれた手を持った年寄りのエセ者が、カリフォルニアのそよ風で血の気の薄くなっている小柄な婦人を相手に取るなどというのはフェアプレイとは言えますまい。しかし肺炎氏はジョンジーを襲いました。その結果ジョンジーは倒れ、自分の絵が描いてある鉄のベッドに横になったまま少しも動けなくなりました。そして小さなオランダ風の窓ガラスごしに、隣にある煉瓦造りの家の何もない壁を見つめつづけることになったのです。
ある朝、灰色の濃い眉をした多忙な医者がスーを廊下に呼びました。
「助かる見込みは ―― そう、十に一つですな」医者は、体温計の水銀を振り下げながら言いました。「で、その見込みはあの子が『生きたい』と思うかどうかにかかっている。こんな風に葬儀屋の側につこうとしてたら、どんな薬でもばかばかしいものになってしまう。あのお嬢さんは、自分はよくならない、と決めている。あの子が何か心にかけていることはあるかな?」
「あの子は ―― いつかナポリ湾を描きたいって言ってたんです」とスーは言いました。
「絵を描きたいって? ―― ふむ。もっと倍くらい実のあることは考えていないのかな ―― 例えば男のこととか」
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