「静かに!」とアダムス氏は手をふるわしながら上げた。「しばらく、誰も静かにしなさい。アガサ!」と声の限りに呼びかけた。「聞こえるか!」
一瞬の静寂があってから、中から子どものかすかな声が聞こえてきた。真っ暗な金庫の中でパニックになって、怖くて泣きじゃくる声だった。
「アガサ! アガサ! 今にもおびえて死んでしまうわ! ドアを開けて! いいから、こじ開けて! 男のくせに、何もできないの!」
と母親が泣き叫ぶと、アダムス氏はふるえた声で答えた。
「これは、リトル·ロックまで行かんと、誰も開けられるものがおらんのだよ。弱った、スペンサーくん、どうしたらいいんだ? 子どもが……あの中じゃ、長くはもたんのだ。酸素は十分にないし、それに、恐怖でひきつけをおこすかもしれん。」
アガサの母親は我を失って、金庫室の扉を手でたたいている。ダイナマイトを使ったらどうだ、という意見まで出る次第だった。アナベルはジミィの方を向いた。その目は苦痛に満ちてはいたが、完全に希望を捨て去ってはいなかった。女性にとって、自分の尊敬する人の力さえあれば、不可能なことは何もないと思えるらしい。
「どうにかならないの、ラルフ。ねぇ……ラルフ!」
スペンサー氏はくちびると鋭い目を、そっとほころばせ、妙な笑みを浮かべて、アナベルを見た。
「アナベル、君の挿している、その薔薇をくれないか。」
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