初雪
山を新しい雪が飾りに来た。初雪はいろいろな訪れ方をした。何度も丁寧過ぎる予告の後に、遠慮勝ちに夜こっそりと降って止むこともあった。それは時には、人の知らないうちに降って積もって消えてしまうことさえあるらしかった。またある時には、余り無作法過ぎるような、襲うような訪れもあった。
そして大量で、呆然と見ている間に山を冬の物に変えた。逃げ惑うように鳥が山を舞い下り、よく見ると、岩峰(いわみね)の中には明らかに無法の雪に怒りを見せているものもあった。新しく巡って来た確かな冬のこの土産物を手に掬い上げて、若しそれだけの量があるならば幾度も頭からかぶりたい気がした。
それは、突然に思いついた冬を迎える一種の儀式であった。
串田 孫一 「山を訪れる四季」
作者紹介:
串田 孫一(1915~ )詩人、哲学家、随筆家。東京生まれ。東大哲学科を卒業。戦前に福永武彦(ふくながたけひこ)らと詩誌「冬夏」を出し、のちに「歴程」同人となり、次いで詩誌「アルビレオ」を出した。広いジャンルに渡って著作をし、一種独特の詩的エッセイも文章のスタイルを形作っている。主な著作に「博物誌」、「串田孫一の随筆」、「串田孫一著作集」などがある。
--------------------------------------------------------------------------------
[1] [2] 下一页 尾页