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銀河鉄道の夜(by宮沢賢治)その一

作者:贯通日本…  来源:贯通论坛   更新:2007-7-2 23:06:33  点击:  切换到繁體中文

 

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#1 作者:ultraman 2003-4-12 20:30:00)

銀河鉄道の夜(by宮沢賢治)その一
一、午後(ごご)の授業


「ではみなさんは、そういうふうに川だと云(い)われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊(つる)した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを指(さ)しながら、みんなに問(とい)をかけました。
 カムパネルラが手をあげました。それから四五人手をあげました。ジョバンニも手をあげようとして、急いでそのままやめました。たしかにあれがみんな星だと、いつか雑誌で読んだのでしたが、このごろはジョバンニはまるで毎日教室でもねむく、本を読むひまも読む本もないので、なんだかどんなこともよくわからないという気持ちがするのでした。
 ところが先生は早くもそれを見附(みつ)けたのでした。
「ジョバンニさん。あなたはわかっているのでしょう。」
 ジョバンニは勢(いきおい)よく立ちあがりましたが、立って見るともうはっきりとそれを答えることができないのでした。ザネリが前の席からふりかえって、ジョバンニを見てくすっとわらいました。ジョバンニはもうどぎまぎしてまっ赤になってしまいました。先生がまた云いました。
「大きな望遠鏡で銀河をよっく調べると銀河は大体何でしょう。」
 やっぱり星だとジョバンニは思いましたがこんどもすぐに答えることができませんでした。
 先生はしばらく困ったようすでしたが、眼(め)をカムパネルラの方へ向けて、
「ではカムパネルラさん。」と名指しました。するとあんなに元気に手をあげたカムパネルラが、やはりもじもじ立ち上ったままやはり答えができませんでした。
 先生は意外なようにしばらくじっとカムパネルラを見ていましたが、急いで「では。よし。」と云いながら、自分で星図を指(さ)しました。
「このぼんやりと白い銀河を大きないい望遠鏡で見ますと、もうたくさんの小さな星に見えるのです。ジョバンニさんそうでしょう。」
 ジョバンニはまっ赤になってうなずきました。けれどもいつかジョバンニの眼のなかには涙(なみだ)がいっぱいになりました。そうだ僕(ぼく)は知っていたのだ、勿論(もちろん)カムパネルラも知っている、それはいつかカムパネルラのお父さんの博士のうちでカムパネルラといっしょに読んだ雑誌のなかにあったのだ。それどこでなくカムパネルラは、その雑誌を読むと、すぐお父さんの書斎(しょさい)から巨(おお)きな本をもってきて、ぎんがというところをひろげ、まっ黒な頁(ページ)いっぱいに白い点々のある美しい写真を二人でいつまでも見たのでした。それをカムパネルラが忘れる筈(はず)もなかったのに、すぐに返事をしなかったのは、このごろぼくが、朝にも午后にも仕事がつらく、学校に出てももうみんなともはきはき遊ばず、カムパネルラともあんまり物を云わないようになったので、カムパネルラがそれを知って気の毒がってわざと返事をしなかったのだ、そう考えるとたまらないほど、じぶんもカムパネルラもあわれなような気がするのでした。
 先生はまた云いました。
「ですからもしこの天(あま)の川(がわ)がほんとうに川だと考えるなら、その一つ一つの小さな星はみんなその川のそこの砂や砂利(じゃり)の粒(つぶ)にもあたるわけです。またこれを巨きな乳の流れと考えるならもっと天の川とよく似ています。つまりその星はみな、乳のなかにまるで細かにうかんでいる脂油(しゆ)の球にもあたるのです。そんなら何がその川の水にあたるかと云いますと、それは真空という光をある速さで伝えるもので、太陽や地球もやっぱりそのなかに浮(うか)んでいるのです。つまりは私どもも天の川の水のなかに棲(す)んでいるわけです。そしてその天の川の水のなかから四方を見ると、ちょうど水が深いほど青く見えるように、天の川の底の深く遠いところほど星がたくさん集って見えしたがって白くぼんやり見えるのです。この模型をごらんなさい。」
 先生は中にたくさん光る砂のつぶの入った大きな両面の凸(とつ)レンズを指しました。
「天の川の形はちょうどこんななのです。このいちいちの光るつぶがみんな私どもの太陽と同じようにじぶんで光っている星だと考えます。私どもの太陽がこのほぼ中ごろにあって地球がそのすぐ近くにあるとします。みなさんは夜にこのまん中に立ってこのレンズの中を見まわすとしてごらんなさい。こっちの方はレンズが薄(うす)いのでわずかの光る粒即(すなわ)ち星しか見えないのでしょう。こっちやこっちの方はガラスが厚いので、光る粒即ち星がたくさん見えその遠いのはぼうっと白く見えるというこれがつまり今日の銀河の説なのです。そんならこのレンズの大きさがどれ位あるかまたその中のさまざまの星についてはもう時間ですからこの次の理科の時間にお話します。では今日はその銀河のお祭なのですからみなさんは外へでてよくそらをごらんなさい。ではここまでです。本やノートをおしまいなさい。」
 そして教室中はしばらく机(つくえ)の蓋(ふた)をあけたりしめたり本を重ねたりする音がいっぱいでしたがまもなくみんなはきちんと立って礼をすると教室を出ました。


  二、活版所


 ジョバンニが学校の門を出るとき、同じ組の七八人は家へ帰らずカムパネルラをまん中にして校庭の隅(すみ)の桜(さくら)の木のところに集まっていました。それはこんやの星祭に青いあかりをこしらえて川へ流す烏瓜(からすうり)を取りに行く相談らしかったのです。
 けれどもジョバンニは手を大きく振(ふ)ってどしどし学校の門を出て来ました。すると町の家々ではこんやの銀河の祭りにいちいの葉の玉をつるしたりひのきの枝(えだ)にあかりをつけたりいろいろ仕度(したく)をしているのでした。
 家へは帰らずジョバンニが町を三つ曲ってある大きな活版処にはいってすぐ入口の計算台に居ただぶだぶの白いシャツを着た人におじぎをしてジョバンニは靴(くつ)をぬいで上りますと、突(つ)き当りの大きな扉(と)をあけました。中にはまだ昼なのに電燈がついてたくさんの輪転器がばたりばたりとまわり、きれで頭をしばったりラムプシェードをかけたりした人たちが、何か歌うように読んだり数えたりしながらたくさん働いて居(お)りました。
 ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子(テーブル)に座(すわ)った人の所へ行っておじぎをしました。その人はしばらく棚(たな)をさがしてから、
「これだけ拾って行けるかね。」と云いながら、一枚の紙切れを渡(わた)しました。ジョバンニはその人の卓子の足もとから一つの小さな平たい函(はこ)をとりだして向うの電燈のたくさんついた、たてかけてある壁(かべ)の隅の所へしゃがみ込(こ)むと小さなピンセットでまるで粟粒(あわつぶ)ぐらいの活字を次から次と拾いはじめました。青い胸あてをした人がジョバンニのうしろを通りながら、
「よう、虫めがね君、お早う。」と云いますと、近くの四五人の人たちが声もたてずこっちも向かずに冷くわらいました。
 ジョバンニは何べんも眼を拭(ぬぐ)いながら活字をだんだんひろいました。
 六時がうってしばらくたったころ、ジョバンニは拾った活字をいっぱいに入れた平たい箱(はこ)をもういちど手にもった紙きれと引き合せてから、さっきの卓子の人へ持って来ました。その人は黙(だま)ってそれを受け取って微(かす)かにうなずきました。
 ジョバンニはおじぎをすると扉をあけてさっきの計算台のところに来ました。するとさっきの白服を着た人がやっぱりだまって小さな銀貨を一つジョバンニに渡しました。ジョバンニは俄(にわ)かに顔いろがよくなって威勢(いせい)よくおじぎをすると台の下に置いた鞄(かばん)をもっておもてへ飛びだしました。それから元気よく口笛(くちぶえ)を吹(ふ)きながらパン屋へ寄ってパンの塊(かたまり)を一つと角砂糖を一袋買いますと一目散(いちもくさん)に走りだしました。


 三、家


 ジョバンニが勢(いきおい)よく帰って来たのは、ある裏町の小さな家でした。その三つならんだ入口の一番左側には空箱に紫(むらさき)いろのケールやアスパラガスが植えてあって小さな二つの窓には日覆(ひおお)いが下りたままになっていました。
「お母(っか)さん。いま帰ったよ。工合(ぐあい)悪くなかったの。」ジョバンニは靴をぬぎながら云いました。
「ああ、ジョバンニ、お仕事がひどかったろう。今日は涼(すず)しくてね。わたしはずうっと工合がいいよ。」
 ジョバンニは玄関(げんかん)を上って行きますとジョバンニのお母さんがすぐ入口の室(へや)に白い巾(きれ)を被(かぶ)って寝(やす)んでいたのでした。ジョバンニは窓をあけました。
「お母さん。今日は角砂糖を買ってきたよ。牛乳に入れてあげようと思って。」
「ああ、お前さきにおあがり。あたしはまだほしくないんだから。」
「お母さん。姉さんはいつ帰ったの。」
「ああ三時ころ帰ったよ。みんなそこらをしてくれてね。」
「お母さんの牛乳は来ていないんだろうか。」
「来なかったろうかねえ。」
「ぼく行ってとって来よう。」
「あああたしはゆっくりでいいんだからお前さきにおあがり、姉さんがね、トマトで何かこしらえてそこへ置いて行ったよ。」
「ではぼくたべよう。」
 ジョバンニは窓のところからトマトの皿(さら)をとってパンといっしょにしばらくむしゃむしゃたべました。
「ねえお母さん。ぼくお父さんはきっと間もなく帰ってくると思うよ。」
「あああたしもそう思う。けれどもおまえはどうしてそう思うの。」
「だって今朝の新聞に今年は北の方の漁は大へんよかったと書いてあったよ。」
「ああだけどねえ、お父さんは漁へ出ていないかもしれない。」
「きっと出ているよ。お父さんが監獄(かんごく)へ入るようなそんな悪いことをした筈(はず)がないんだ。この前お父さんが持ってきて学校へ寄贈(きぞう)した巨(おお)きな蟹(かに)の甲(こう)らだのとなかいの角だの今だってみんな標本室にあるんだ。六年生なんか授業のとき先生がかわるがわる教室へ持って行くよ。一昨年修学旅行で〔以下数文字分空白〕
「お父さんはこの次はおまえにラッコの上着をもってくるといったねえ。」
「みんながぼくにあうとそれを云うよ。ひやかすように云うんだ。」
「おまえに悪口を云うの。」
「うん、けれどもカムパネルラなんか決して云わない。カムパネルラはみんながそんなことを云うときは気の毒そうにしているよ。」
「あの人はうちのお父さんとはちょうどおまえたちのように小さいときからのお友達だったそうだよ。」
「ああだからお父さんはぼくをつれてカムパネルラのうちへもつれて行ったよ。あのころはよかったなあ。ぼくは学校から帰る途中(とちゅう)たびたびカムパネルラのうちに寄った。カムパネルラのうちにはアルコールラムプで走る汽車があったんだ。レールを七つ組み合せると円くなってそれに電柱や信号標もついていて信号標のあかりは汽車が通るときだけ青くなるようになっていたんだ。いつかアルコールがなくなったとき石油をつかったら、罐(かま)がすっかり煤(すす)けたよ。」
「そうかねえ。」
「いまも毎朝新聞をまわしに行くよ。けれどもいつでも家中まだしぃんとしているからな。」
「早いからねえ。」
「ザウエルという犬がいるよ。しっぽがまるで箒(ほうき)のようだ。ぼくが行くと鼻を鳴らしてついてくるよ。ずうっと町の角までついてくる。もっとついてくることもあるよ。今夜はみんなで烏瓜(からすうり)のあかりを川へながしに行くんだって。きっと犬もついて行くよ。」
「そうだ。今晩は銀河のお祭だねえ。」
「うん。ぼく牛乳をとりながら見てくるよ。」
「ああ行っておいで。川へははいらないでね。」
「ああぼく岸から見るだけなんだ。一時間で行ってくるよ。」
「もっと遊んでおいで。カムパネルラさんと一緒(いっしょ)なら心配はないから。」
「ああきっと一緒だよ。お母さん、窓をしめて置こうか。」
「ああ、どうか。もう涼しいからね」
 ジョバンニは立って窓をしめお皿やパンの袋を片附(かたづ)けると勢よく靴をはいて
「では一時間半で帰ってくるよ。」と云いながら暗い戸口を出ました。


 四、ケンタウル祭の夜


 ジョバンニは、口笛を吹いているようなさびしい口付きで、檜(ひのき)のまっ黒にならんだ町の坂を下りて来たのでした。
 坂の下に大きな一つの街燈が、青白く立派に光って立っていました。ジョバンニが、どんどん電燈の方へ下りて行きますと、いままでばけもののように、長くぼんやり、うしろへ引いていたジョバンニの影(かげ)ぼうしは、だんだん濃(こ)く黒くはっきりなって、足をあげたり手を振(ふ)ったり、ジョバンニの横の方へまわって来るのでした。
(ぼくは立派な機関車だ。ここは勾配(こうばい)だから速いぞ。ぼくはいまその電燈を通り越(こ)す。そうら、こんどはぼくの影法師はコムパスだ。あんなにくるっとまわって、前の方へ来た。)
とジョバンニが思いながら、大股(おおまた)にその街燈の下を通り過ぎたとき、いきなりひるまのザネリが、新らしいえりの尖(とが)ったシャツを着て電燈の向う側の暗い小路(こうじ)から出て来て、ひらっとジョバンニとすれちがいました。
「ザネリ、烏瓜ながしに行くの。」ジョバンニがまだそう云ってしまわないうちに、
「ジョバンニ、お父さんから、らっこの上着が来るよ。」その子が投げつけるようにうしろから叫(さけ)びました。
 ジョバンニは、ばっと胸がつめたくなり、そこら中きぃんと鳴るように思いました。
「何だい。ザネリ。」とジョバンニは高く叫び返しましたがもうザネリは向うのひばの植った家の中へはいっていました。
「ザネリはどうしてぼくがなんにもしないのにあんなことを云うのだろう。走るときはまるで鼠(ねずみ)のようなくせに。ぼくがなんにもしないのにあんなことを云うのはザネリがばかなからだ。」
 ジョバンニは、せわしくいろいろのことを考えながら、さまざまの灯(あかり)や木の枝(えだ)で、すっかりきれいに飾(かざ)られた街を通って行きました。時計屋の店には明るくネオン燈がついて、一秒ごとに石でこさえたふくろうの赤い眼(め)が、くるっくるっとうごいたり、いろいろな宝石が海のような色をした厚い硝子(ガラス)の盤(ばん)に載(の)って星のようにゆっくり循(めぐ)ったり、また向う側から、銅の人馬がゆっくりこっちへまわって来たりするのでした。そのまん中に円い黒い星座早見が青いアスパラガスの葉で飾ってありました。
 ジョバンニはわれを忘れて、その星座の図に見入りました。
 それはひる学校で見たあの図よりはずうっと小さかったのですがその日と時間に合せて盤をまわすと、そのとき出ているそらがそのまま楕円形(だえんけい)のなかにめぐってあらわれるようになって居(お)りやはりそのまん中には上から下へかけて銀河がぼうとけむったような帯になってその下の方ではかすかに爆発(ばくはつ)して湯気でもあげているように見えるのでした。またそのうしろには三本の脚(あし)のついた小さな望遠鏡が黄いろに光って立っていましたしいちばんうしろの壁(かべ)には空じゅうの星座をふしぎな獣(けもの)や蛇(へび)や魚や瓶(びん)の形に書いた大きな図がかかっていました。ほんとうにこんなような蝎(さそり)だの勇士だのそらにぎっしり居るだろうか、ああぼくはその中をどこまでも歩いて見たいと思ってたりしてしばらくぼんやり立って居ました。
 それから俄(にわ)かにお母さんの牛乳のことを思いだしてジョバンニはその店をはなれました。そしてきゅうくつな上着の肩(かた)を気にしながらそれでもわざと胸を張って大きく手を振って町を通って行きました。
 空気は澄(す)みきって、まるで水のように通りや店の中を流れましたし、街燈はみなまっ青なもみや楢(なら)の枝で包まれ、電気会社の前の六本のプラタヌスの木などは、中に沢山(たくさん)の豆電燈がついて、ほんとうにそこらは人魚の都のように見えるのでした。子どもらは、みんな新らしい折のついた着物を着て、星めぐりの口笛(くちぶえ)を吹(ふ)いたり、
「ケンタウルス、露(つゆ)をふらせ。」と叫んで走ったり、青いマグネシヤの花火を燃したりして、たのしそうに遊んでいるのでした。けれどもジョバンニは、いつかまた深く首を垂れて、そこらのにぎやかさとはまるでちがったことを考えながら、牛乳屋の方へ急ぐのでした。
 ジョバンニは、いつか町はずれのポプラの木が幾本(いくほん)も幾本も、高く星ぞらに浮(うか)んでいるところに来ていました。その牛乳屋の黒い門を入り、牛の匂(におい)のするうすくらい台所の前に立って、ジョバンニは帽子(ぼうし)をぬいで「今晩は、」と云いましたら、家の中はしぃんとして誰(たれ)も居たようではありませんでした。
「今晩は、ごめんなさい。」ジョバンニはまっすぐに立ってまた叫びました。するとしばらくたってから、年老(と)った女の人が、どこか工合(ぐあい)が悪いようにそろそろと出て来て何か用かと口の中で云いました。
「あの、今日、牛乳が僕(ぼく)ん[#「ん」は小さな「ん」]とこへ来なかったので、貰(もら)いにあがったんです。」ジョバンニが一生けん命勢(いきおい)よく云いました。
「いま誰もいないでわかりません。あしたにして下さい。」
 その人は、赤い眼の下のとこを擦(こす)りながら、ジョバンニを見おろして云いました。
「おっかさんが病気なんですから今晩でないと困るんです。」
「ではもう少したってから来てください。」その人はもう行ってしまいそうでした。
「そうですか。ではありがとう。」ジョバンニは、お辞儀(じぎ)をして台所から出ました。
 十字になった町のかどを、まがろうとしましたら、向うの橋へ行く方の雑貨店の前で、黒い影やぼんやり白いシャツが入り乱れて、六七人の生徒らが、口笛を吹いたり笑ったりして、めいめい烏瓜の燈火(あかり)を持ってやって来るのを見ました。その笑い声も口笛も、みんな聞きおぼえのあるものでした。ジョバンニの同級の子供らだったのです。ジョバンニは思わずどきっとして戻(もど)ろうとしましたが、思い直して、一そう勢よくそっちへ歩いて行きました。
「川へ行くの。」ジョバンニが云おうとして、少しのどがつまったように思ったとき、
「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」さっきのザネリがまた叫びました。
「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」すぐみんなが、続いて叫びました。ジョバンニはまっ赤になって、もう歩いているかもわからず、急いで行きすぎようとしましたら、そのなかにカムパネルラが居たのです。カムパネルラは気の毒そうに、だまって少しわらって、怒(おこ)らないだろうかというようにジョバンニの方を見ていました。
 ジョバンニは、遁(に)げるようにその眼を避(さ)け、そしてカムパネルラのせいの高いかたちが過ぎて行って間もなく、みんなはてんでに口笛を吹きました。町かどを曲るとき、ふりかえって見ましたら、ザネリがやはりふりかえって見ていました。そしてカムパネルラもまた、高く口笛を吹いて向うにぼんやり見える橋の方へ歩いて行ってしまったのでした。ジョバンニは、なんとも云えずさびしくなって、いきなり走り出しました。すると耳に手をあてて、わああと云いながら片足でぴょんぴょん跳(と)んでいた小さな子供らは、ジョバンニが面白(おもしろ)くてかけるのだと思ってわあいと叫びました。まもなくジョバンニは黒い丘(おか)の方へ急ぎました。


 五、天気輪(てんきりん)の柱


 牧場のうしろはゆるい丘になって、その黒い平らな頂上は、北の大熊星(おおくまぼし)の下に、ぼんやりふだんよりも低く連って見えました。
 ジョバンニは、もう露の降りかかった小さな林のこみちを、どんどんのぼって行きました。まっくらな草や、いろいろな形に見えるやぶのしげみの間を、その小さなみちが、一すじ白く星あかりに照らしだされてあったのです。草の中には、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、ある葉は青くすかし出され、ジョバンニは、さっきみんなの持って行った烏瓜(からすうり)のあかりのようだとも思いました。
 そのまっ黒な、松や楢(なら)の林を越(こ)えると、俄(にわ)かにがらんと空がひらけて、天(あま)の川(がわ)がしらしらと南から北へ亘(わた)っているのが見え、また頂(いただき)の、天気輪の柱も見わけられたのでした。つりがねそうか野ぎくかの花が、そこらいちめんに、夢(ゆめ)の中からでも薫(かお)りだしたというように咲き、鳥が一疋(ぴき)、丘の上を鳴き続けながら通って行きました。
 ジョバンニは、頂の天気輪の柱の下に来て、どかどかするからだを、つめたい草に投げました。
 町の灯は、暗(やみ)の中をまるで海の底のお宮のけしきのようにともり、子供らの歌う声や口笛、きれぎれの叫(さけ)び声もかすかに聞えて来るのでした。風が遠くで鳴り、丘の草もしずかにそよぎ、ジョバンニの汗(あせ)でぬれたシャツもつめたく冷されました。ジョバンニは町のはずれから遠く黒くひろがった野原を見わたしました。
 そこから汽車の音が聞えてきました。その小さな列車の窓は一列小さく赤く見え、その中にはたくさんの旅人が、苹果(りんご)を剥(む)いたり、わらったり、いろいろな風にしていると考えますと、ジョバンニは、もう何とも云えずかなしくなって、また眼をそらに挙げました。
 あああの白いそらの帯がみんな星だというぞ。
 ところがいくら見ていても、そのそらはひる先生の云ったような、がらんとした冷いとこだとは思われませんでした。それどころでなく、見れば見るほど、そこは小さな林や牧場やらある野原のように考えられて仕方なかったのです。そしてジョバンニは青い琴(こと)の星が、三つにも四つにもなって、ちらちら瞬(またた)き、脚が何べんも出たり引っ込(こ)んだりして、とうとう蕈(きのこ)のように長く延びるのを見ました。またすぐ眼の下のまちまでがやっぱりぼんやりしたたくさんの星の集りか一つの大きなけむりかのように見えるように思いました。


 六、銀河ステーション


 そしてジョバンニはすぐうしろの天気輪の柱がいつかぼんやりした三角標の形になって、しばらく蛍(ほたる)のように、ぺかぺか消えたりともったりしているのを見ました。それはだんだんはっきりして、とうとうりんとうごかないようになり、濃(こ)い鋼青(こうせい)のそらの野原にたちました。いま新らしく灼(や)いたばかりの青い鋼(はがね)の板のような、そらの野原に、まっすぐにすきっと立ったのです。
 するとどこかで、ふしぎな声が、銀河ステーション、銀河ステーションと云(い)う声がしたと思うといきなり眼の前が、ぱっと明るくなって、まるで億万の蛍烏賊(ほたるいか)の火を一ぺんに化石させて、そら中に沈(しず)めたという工合(ぐあい)、またダイアモンド会社で、ねだんがやすくならないために、わざと獲(と)れないふりをして、かくして置いた金剛石(こんごうせき)を、誰(たれ)かがいきなりひっくりかえして、ばら撒(ま)いたという風に、眼の前がさあっと明るくなって、ジョバンニは、思わず何べんも眼を擦(こす)ってしまいました。
 気がついてみると、さっきから、ごとごとごとごと、ジョバンニの乗っている小さな列車が走りつづけていたのでした。ほんとうにジョバンニは、夜の軽便鉄道の、小さな黄いろの電燈のならんだ車室に、窓から外を見ながら座(すわ)っていたのです。車室の中は、青い天蚕絨(びろうど)を張った腰掛(こしか)けが、まるでがら明きで、向うの鼠(ねずみ)いろのワニスを塗った壁(らべ)には、真鍮(しんちゅう)の大きなぼたんが二つ光っているのでした。
 すぐ前の席に、ぬれたようにまっ黒な上着を着た、せいの高い子供が、窓から頭を出して外を見ているのに気が付きました。そしてそのこどもの肩(かた)のあたりが、どうも見たことのあるような気がして、そう思うと、もうどうしても誰だかわかりたくて、たまらなくなりました。いきなりこっちも窓から顔を出そうとしたとき、俄かにその子供が頭を引っ込めて、こっちを見ました。
 それはカムパネルラだったのです。
 ジョバンニが、カムパネルラ、きみは前からここに居たのと云おうと思ったとき、カムパネルラが
「みんなはねずいぶん走ったけれども遅(おく)れてしまったよ。ザネリもね、ずいぶん走ったけれども追いつかなかった。」と云いました。
 ジョバンニは、(そうだ、ぼくたちはいま、いっしょにさそって出掛けたのだ。)とおもいながら、
「どこかで待っていようか」と云いました。するとカムパネルラは
「ザネリはもう帰ったよ。お父さんが迎(むか)いにきたんだ。」
 カムパネルラは、なぜかそう云いながら、少し顔いろが青ざめて、どこか苦しいというふうでした。するとジョバンニも、なんだかどこかに、何か忘れたものがあるというような、おかしな気持ちがしてだまってしまいました。
 ところがカムパネルラは、窓から外をのぞきながら、もうすっかり元気が直って、勢(いきおい)よく云いました。
「ああしまった。ぼく、水筒(すいとう)を忘れてきた。スケッチ帳も忘れてきた。けれど構わない。もうじき白鳥の停車場だから。ぼく、白鳥を見るなら、ほんとうにすきだ。川の遠くを飛んでいたって、ぼくはきっと見える。」そして、カムパネルラは、円い板のようになった地図を、しきりにぐるぐるまわして見ていました。まったくその中に、白くあらわされた天の川の左の岸に沿って一条の鉄道線路が、南へ南へとたどって行くのでした。そしてその地図の立派なことは、夜のようにまっ黒な盤(ばん)の上に、一一の停車場や三角標(さんかくひょう)、泉水や森が、青や橙(だいだい)や緑や、うつくしい光でちりばめられてありました。ジョバンニはなんだかその地図をどこかで見たようにおもいました。
「この地図はどこで買ったの。黒曜石でできてるねえ。」
 ジョバンニが云いました。
「銀河ステーションで、もらったんだ。君もらわなかったの。」
「ああ、ぼく銀河ステーションを通ったろうか。いまぼくたちの居るとこ、ここだろう。」
 ジョバンニは、白鳥と書いてある停車場のしるしの、すぐ北を指(さ)しました。
「そうだ。おや、あの河原(かわら)は月夜だろうか。」 そっちを見ますと、青白く光る銀河の岸に、銀いろの空のすすきが、もうまるでいちめん、風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて、波を立てているのでした。
「月夜でないよ。銀河だから光るんだよ。」ジョバンニは云いながら、まるではね上りたいくらい愉快(ゆかい)になって、足をこつこつ鳴らし、窓から顔を出して、高く高く星めぐりの口笛(くちぶえ)を吹(ふ)きながら一生けん命延びあがって、その天の川の水を、見きわめようとしましたが、はじめはどうしてもそれが、はっきりしませんでした。けれどもだんだん気をつけて見ると、そのきれいな水は、ガラスよりも水素よりもすきとおって、ときどき眼(め)の加減か、ちらちら紫(むらさき)いろのこまかな波をたてたり、虹(にじ)のようにぎらっと光ったりしながら、声もなくどんどん流れて行き、野原にはあっちにもこっちにも、燐光(りんこう)の三角標が、うつくしく立っていたのです。遠いものは小さく、近いものは大きく、遠いものは橙や黄いろではっきりし、近いものは青白く少しかすんで、或(ある)いは三角形、或いは四辺形、あるいは電(いなずま)や鎖(くさり)の形、さまざまにならんで、野原いっぱい光っているのでした。ジョバンニは、まるでどきどきして、頭をやけに振(ふ)りました。するとほんとうに、そのきれいな野原中の青や橙や、いろいろかがやく三角標も、てんでに息をつくように、ちらちらゆれたり顫(ふる)えたりしました。
「ぼくはもう、すっかり天の野原に来た。」ジョバンニは云いました。
「それにこの汽車石炭をたいていないねえ。」ジョバンニが左手をつき出して窓から前の方を見ながら云いました。
「アルコールか電気だろう。」カムパネルラが云いました。
 ごとごとごとごと、その小さなきれいな汽車は、そらのすすきの風にひるがえる中を、天の川の水や、三角点の青じろい微光(びこう)の中を、どこまでもどこまでもと、走って行くのでした。
「ああ、りんどうの花が咲いている。もうすっかり秋だねえ。」カムパネルラが、窓の外を指さして云いました。
 線路のへりになったみじかい芝草(しばくさ)の中に、月長石ででも刻(きざ)まれたような、すばらしい紫のりんどうの花が咲いていました。
「ぼく、飛び下りて、あいつをとって、また飛び乗ってみせようか。」ジョバンニは胸を躍(おど)らせて云いました。
「もうだめだ。あんなにうしろへ行ってしまったから。」
 カムパネルラが、そう云ってしまうかしまわないうち、次のりんどうの花が、いっぱいに光って過ぎて行きました。
 と思ったら、もう次から次から、たくさんのきいろな底をもったりんどうの花のコップが、湧(わ)くように、雨のように、眼の前を通り、三角標の列は、けむるように燃えるように、いよいよ光って立ったのです。

つづく
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