前回は「Vている」の文法的意味に焦点をあてて考えてきました。今回は機能面と文化面について触れていきたいと思います。
まず、次の会話の「Vている」の部分に注目して、文法的意味と機能的意味について考えてください。
A 先生: 周明君、お家ではどうですか。
母 : 勉強しないで、テレビばかり見ているんですよ。
先生: そうですか。学校ではよく勉強しています。
(高校『日語』第1冊第5課より)
B 吉田: あ、王さん、かばんが開いていますよ。
王 : あっ、気がつきませんでした。ありがとうございます。
Aの「見ているんです」「勉強しています」の文法的意味は、どちらも「習慣・繰り返し」だと考えられます。しかし、機能的意味では、「見ているんです」のほうは母親の不満を表しており、「勉強しています」は先生が周明をほめていることを表しています。機能的意味を考えないと、ここでの母親と先生の発話意図や気持ちが理解できません。
また、Bの「開いています」の文法的意味は、「結果の状態」を表していますが、機能的意味は、吉田が王にかばんが開いていることを知らせる「注意喚起」です。したがって、王は吉田の注意に対して反応する発話が求められているので、「気がつきませんでした。ありがとうございます」と応えているのです。もし、この機能的意味を無視して、文法的意味だけを考えた場合、王は「そうですか」「分かりました」などの事実だけを認める発話になるかもしれません。それでは、2人の会話はかみあわないものとなります。つまり、コミュニケーションにならないのです。
では、次の下線部分の機能的意味について考えてください。(全て高校『日語』からの引用です。)
(1)(第1冊第15課)
三上:周明さん、京劇を見にいきませんか。今ちょうど梨園劇場で「孫悟空」をやっているんですが。
周明:ああ、いいですね。ぜひ行きたいです。
三上:そうですか。水谷先生も誘おうと思っているんですが。
(2)(第2冊第12課)
三上:きっといい試合になりますよ。場所は決まっていますか。
周明:いいえ、まだなんですけど。
(3)(第2冊第13課)
周明:ところで三上さん、三上さんは高校の時、どんなスポーツをやっていたんですか。
三上:バレーボールですけど。
周明:えっ、そうなんですか。じゃあ、上手なんですね。
三上:いやあ、もうずっとやっていないから。
(4)(第1冊第18課)
小川:何時ごろですか。
周明:授業の後、4時ごろはどうでしょうか。みんな第一教室に集まっていますから。
(5)(第2冊第5課)
…… すると、母が「ここ空いていますよ。どうぞ。」と言って座らせてあげました。
(6)(第3冊第10課)
白雲:… 来週の土曜日は、いかがですか。
三上:ええと、土曜日の夕方でしたら、空いています。
……
白雲:では、お待ちしています。
(1)「やっているんです」は、三上が周明に京劇のことを知らせる「情報伝達」の機能を持っています。「思っているんです」は、水谷先生も誘いたいという自分の「予定」「考え」です。(2)「決まっています」は、試合の場所を「確認」するという機能です。(3)「やっていたんです」は三上さんのことを知りたくてスポーツの「経験」を聞き、「やっていない」は、周明に上手ではないかと言われたことに対する「謙遜」の機能が考えられます。(4)「集まっています」は「情報伝達」の機能ですが、準備して待っていることを表しています。(5)(6)の「空いています」はそれぞれ「情報伝達」の機能を持っていますが、(5)は相手(おばあさん)への「配慮」、(6)はできたら土曜日にしてほしいという気持ちが含まれています。また(6)の「お待ちしています」は、白雲が三上に必ず来てほしいという気持ちで、約束の「念押し」をする機能を持っています。
◆文化的意味
今度は文化的意味について考えてみましょう。次の会話を見てください。
(7) A:あっ、シャツにゴミがついていますよ。
B:えっ、ゴミですか。ああ、どうも。
「ついています」の機能的意味は「注意喚起」ですが、どんな相手や場面でも使えるでしょうか。私でしたらよく知っている人であれば使いますが、親しくない人や知らない人だと使いにくい面があります。また、周りに聞こえるような大声を出して注意すると、Bが恥ずかしく思うかもしれないので、言うタイミングや声の大きさにも気をつけるでしょう。一方、Bは「どうも」と感謝をしていますが、これは前述の機能的意味から考えて、必要なことです。
(8)〈レストランで/知人の家に招かれて〉
客:あっ、スープに髪の毛が入っていますよ。
「入っています」は「苦情」の機能で、ふつうレストランであれば、言ってもさしつかえないでしょう。しかし、知人の家に招かれた時は、せっかく作ってくれたスープですから、面と向かって言える言葉ではありません。
(9)劉 :鈴木さんは、いくらぐらい給料をもらっていますか。
鈴木:えっ、給料ですか……。
(10)学生:先生、夏休みは何をなさっていましたか。
先生:中国に行っていました。
(9)(10)は、相手の「私的領域」に踏み込む内容を聞いています。日本ではこのような質問は避ける傾向にあります。(10)は敬語を使っていますが、具体的な行為・行動を詮索しているので、親しくない人には失礼になる場合があります。
(11)学生:先生、さっきとても上手に中国語を話していましたね。
(11)は中国語のレベルを評価していますから、目上の人には使いにくい言い方です。
14号と今号にわたって、「Vている」を例に文型の教え方を見てきました。実際の場面での話し手の発話意図などを理解し、円滑なコミュニケーションを図る能力を身につけさせるためには、文法だけでなく、機能、文化の視点も入れて指導することが必要なのです。
加納陸人
文教大学教授/『日語』日本側主任編集委員
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