ジミィは、銀行の石段の上でぶらついていた少年を、俺は株主だぞといわんばかりの態度で捕まえ、この町のことをいくつか訊ねた。話の間に、ときどき一〇セント玉をやった。やがて若い女が出てきて、スーツ·ケースを持った青年なんて見向きもしないとばかりに、たおやかに歩いていった。
「あの人は、ポリィ·シンプソンじゃなかったっけ。」とジミィはそれらしく聞いてみた。
少年は、「いいや、あの人はアナベル·アダムズっていうんだ。親父はこの銀行のオーナーだよ。あんた、何しにエルモアへ来たわけさ。金の時計鎖をつけてるっしょ。おれ、ブルドッグが欲しいんだよね。もう一〇セント玉ないの?」
ジミィはプランターズ·ホテルへ行き、宿帳にはラルフ·D·スペンサーと書き込んで、一部屋借りた。フロントによりかかって、フロント係に自分の用件を話す。自分がエルモアにやってきたのは、商売をする場所を探してなんだ、この町では、靴屋ってどんな感じだね? 靴屋をやろうと思ってるんだけど、うまく入り込めるかな?
フロント係はジミィの服や身のこなしに感心していた。彼自身、エルモアでちょっと金のある若者たちから、ファッションに関しては一目置かれていたのだけど、今、自分に欠けているところがわかった。ジミィのネクタイの結び方をおぼえようとしながら、フロント係は快く情報を提供した。
そうですね、靴屋でしたら、うまく入り込めるんじゃないでしょうか。この町には、ちゃんとした靴屋が一軒もないんですよ。衣料品店兼雑貨屋が扱ってるだけでして。どんな商売をしても、うまくいくと思います。スペンサーさん、エルモアに落ち着いてみてはいかがですか。いい町ですし、みんないい人ですよ。
スペンサー氏は、数日この町に滞在して、様子を見たい、と言った。いいや、ボーイを呼ばなくていいよ。このスーツ·ケースは自分で運ぶから。ちょっと重いんだ。
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