千 ああっ……!ハク!ハク、会いたかった……ケガは?もう大丈夫なの?よかったぁ……
銭婆 ふふふ、グッドタイミングね。
千 おばあちゃん、ハク生きてた!
銭婆 白竜、あなたのしたことはもう咎めません。そのかわり、その子をしっかり守るんだよ。さぁ坊やたち、お帰りの時間だよ。また遊びにおいで。
坊ネズミ ちゅう。
銭婆 おまえはここにいな。あたしの手助けをしておくれ。
カオナシ あ、あ……
千 おばあちゃん!……ありがとう、私行くね。
銭婆 だいじょうぶ。あんたならやり遂げるよ。
千 私の本当の名前は、千尋っていうんです。
銭婆 ちひろ。いい名だね。自分の名前を大事にね。
千 はい!
銭婆 さ、お行き。
千 うん!おばあちゃん、ありがとう!さよなら!
「竜に乗って飛び立つ千。」
「記憶がフラッシュバックする。水に流れていく靴。水に落ちるだれか……。」
千 ……ハク、聞いて。お母さんから聞いたんで自分では覚えてなかったんだけど、私、小さいとき川に落ちたことがあるの。その川はもうマンションになって、埋められちゃったんだって……。でも、今思い出したの。その川の名は……その川はね、琥珀川。あなたの本当の名は、琥珀川……
「瞬間、白竜から輝く鱗が剥がれ落ち、ハクの姿になっていく。」
千 ああっ!
ハク様 千尋、ありがとう。私の本当の名は、ニギハヤミ コハクヌシだ。
千 ニギハヤミ……?
ハク様 ニギハヤミ、コハクヌシ。
千 すごい名前。神様みたい。
ハク様 私も思いだした。千尋が私の中に落ちたときのこと。靴を拾おうとしたんだね。
千 そう。琥珀が私を浅瀬に運んでくれたのね。嬉しい……
「朝。油屋の前で皆が待っている。」
リン 帰ってきたーー!!
みんな おおっ……
湯婆婆 坊は連れて戻ってきたんだろうね?……えっ?
坊 ばぁば!
湯婆婆 坊ーー!!ケガはなかったかい!?ひどい目にあったねぇ!……坊!あなた一人で立てるようになったの?え?
ハク様 湯婆婆様、約束です!千尋と両親を人間の世界に戻してください!
湯婆婆 フン!そう簡単にはいかないよ、世の中には決まりというものがあるんだ!
みんな ブー、ブー!
湯婆婆 うるさいよっ!
坊 ばぁばのケチ。もうやめなよ。
湯婆婆 へっ?
坊 とても面白かったよ、坊。
湯婆婆 へぇっ?ででででもさぁ、これは決まりなんだよ?じゃないと呪いが解けないんだよ?
坊 千を泣かしたらばぁば嫌いになっちゃうからね。
湯婆婆 そ、そんな……
千 おばあちゃん!
湯婆婆 おばあちゃん?
千 今、そっちへ行きます。
千 掟のことはハクから聞きました。
湯婆婆 フン、いい覚悟だ。これはおまえの契約書だよ、こっちへおいで。……坊、すぐ終わるからねぇ。
千 大丈夫よ。
湯婆婆 この中からおまえのお父さんとお母さんを見つけな。チャンスは一回だ。ピタリと当てられたらおまえたちゃ自由だよ。
千 ……?おばあちゃんだめ、ここにはお父さんもお母さんもいないもん。
湯婆婆 いない!?それがおまえの答えかい?
千 ……うん!
「ボン!と破れ消える契約書。」
湯婆婆 ヒッ!?豚に化けた従業員たち おお当たりーー!
みんな やったあ!よっしゃーーー!!!
千尋 みんなありがとう!!
湯婆婆 行きな!おまえの勝ちだ!早くいっちまいな!
千尋 お世話になりました!
湯婆婆 フン!
千尋 さよなら!ありがとう!
千尋 ハク!
ハク様 行こう!
千尋 お父さんとお母さんは!?
ハク様 先に行ってる!
千尋 水がない……
ハク様 私はこの先には行けない。千尋は元来た道をたどればいいんだ。でも決して振り向いちゃいけないよ、トンネルを出るまではね。
千尋 ハクは?ハクはどうするの?
ハク様 私は湯婆婆と話をつけて弟子をやめる。平気さ、ほんとの名を取り戻したから。元の世界に私も戻るよ。
千尋 またどこかで会える?
ハク様 うん、きっと。
千尋 きっとよ。
ハク様 きっと。さぁ行きな。振り向かないで。
「結んだ手が名残惜しそうに離れる。」
「門の入り口で、父と母が待っている。」
母 千尋ー。なにしてんの、はやく来なさい!
千尋 ああっ……!お母さん、お父さん!
母 だめじゃない、急にいなくなっちゃ。
父 行くよ。
千尋 お母さん、何ともないの?
母 ん?引越しのトラック、もう着いちゃってるわよ。
「振り向こうとして、とどまる千尋。」
父 千尋ー。早くおいでー。足下気をつけな。
母 千尋、そんなにくっつかないでよ。歩きにくいわ。
父 出口だよ。……あれ?
母 なぁに?
父 すげー……あっ、中もほこりだらけだ。
母 いたずら?
父 かなあ?
母 だからやだっていったのよー……
母 オーライオーライ、平気よ。
父 千尋、行くよー。
母 千尋!早くしなさい!
「トンネルの向こうを見つめる目を、翻す千尋の髪にあのお守りが光っていた。」