「走り出す二人。」
ハク様 ……橋を渡る間、息をしてはいけないよ。
ちょっとでも吸ったり吐いたりすると、術が解けて店の者に気づかれてしまう。
千尋 こわい……
ハク様 心を鎮めて。
従業員 いらっしゃいませ、お早いお着きで。いらっしゃいませ。いらっしゃいませ。
ハク様 所用からの戻りだ。
従業員 へい、お戻りくださいませ。
ハク様 深く吸って…止めて。
「カオナシが千尋を見送る。」
湯女 いらっしゃい、お待ちしてましたよ。
ハク様 しっかり、もう少し。
青蛙 ハク様ぁー。何処へ行っておったー?
千尋 ……!ぶはぁっ
青蛙 ひっ、人か?
ハク様 ……!走れ!
青蛙 ……ん?え、え?
「青蛙に術をかけて逃げるハク。」
従業員 ハク様、ハク様!ええい匂わぬか、人が入り込んだぞ!臭いぞ、臭いぞ!
ハク様 勘づかれたな……
千尋 ごめん、私 息しちゃった……
ハク様 いや、千尋はよく頑張った。これからどうするか離すからよくお聞き。ここにいては必ず見つかる。
私が行って誤魔化すから、そのすきに千尋はここを抜け出して……
千尋 いや!行かないで、ここにいて、お願い!
ハク様 この世界で生き延びるためにはそうするしかないんだ。ご両親を助けるためにも。
千尋 やっぱり豚になったの夢じゃないんだ……
ハク様 じっとして……
騒ぎが収まったら、裏のくぐり戸から出られる。外の階段を一番下まで下りるんだ。そこにボイラー室の入口がある。火を焚くところだ。
中に釜爺という人がいるから、釜爺に会うんだ。
千尋 釜爺?
ハク様 その人にここで働きたいと頼むんだ。断られても、粘るんだよ。
ここでは仕事を持たない者は、湯婆婆に動物にされてしまう。
千尋 湯婆婆…って?
ハク様 会えばすぐに分かる。ここを支配している魔女だ。嫌だとか、帰りたいとか言わせるように仕向けてくるけど、働きたいとだけ言うんだ。辛くても、耐えて機会を待つんだよ。そうすれば、湯婆婆には手は出せない。
千尋 うん……
従業員 ハク様ぁー、ハク様ー、どちらにおいでですかー?
ハク様 いかなきゃ。忘れないで、私は千尋の味方だからね。
千尋 どうして私の名を知ってるの?
ハク様 そなたの小さいときから知っている。私の名は――ハクだ。
ハク様 ハクはここにいるぞ。
従業員 ハク様、湯婆婆さまが……
ハク様 分かっている。そのことで外へ出ていた。
「階段へ向う千尋。恐る恐る踏み出し、一段滑り落ちる。」
千尋 ぃやっ!
はっ、はぁっ……
「もう一段踏み出すと階段が壊れ、はずみで走り出す。」
千尋 わ…っいやああああーーーーっ!やあぁああああああー!!
「なんとか下まで降り、そろそろとボイラー室へむかう。」
「ボイラー室で釜爺をみて後ずさりし、熱い釜に触ってしまう。」
千尋 あつっ…!
「カンカンカンカン(ハンマーの音)」
千尋 あの……。すみません。
あ、あのー……あの、釜爺さんですか?
釜爺 ん?……ん、んんーー??
千尋 ……あの、ハクという人に言われてきました。ここで働かせてください!
「リンリン(呼び鈴の音)」
釜爺 ええい、こんなに一度に……
チビども、仕事だー!
「カンカンカンカンカンカン」
釜爺 わしゃあ、釜爺だ。風呂釜にこき使われとるじじいだ。
チビども、はやくせんか!
千尋 あの、ここで働かせてください!
釜爺 ええい、手は足りとる。そこら中ススだらけだからな。いくらでも代わりはおるわい。
千尋 あっ、ごめんなさい。
あっ、ちょっと待って。
釜爺 じゃまじゃま!
千尋 ……あっ。
「重さで潰れたススワタリの石炭を持ち上げる千尋。ススワタリは逃げ帰ってゆく。」
千尋 あっ、どうするのこれ?
ここにおいといていいの?
釜爺 手ぇ出すならしまいまでやれ!
千尋 えっ?……
「石炭を釜に運ぶと、ススワタリみんなが潰れた真似をしだす。」
「カンカンカンカン」
釜爺 こらあー、チビどもー!ただのススにもどりてぇのか!?
あんたも気まぐれに手ぇ出して、人の仕事を取っちゃならね。働かなきゃな、こいつらの魔法は消えちまうんだ。
ここにあんたの仕事はねぇ、他を当たってくれ。
……なんだおまえたち、文句があるのか?仕事しろ仕事!!
リン メシだよー。なぁんだまたケンカしてんのー?
よしなさいよもうー。うつわは?ちゃんと出しといてって言ってるのに。
釜爺 おお……メシだー、休憩ー!
リン うわ!?
人間がいちゃ!…やばいよ、さっき上で大騒ぎしてたんだよ!?
釜爺 わしの……孫だ。
リン まごォ?!
釜爺 働きたいと言うんだが、ここは手が足りとる。おめぇ、湯婆婆ンとこへ連れてってくれねえか?後は自分でやるだろ。
リン やなこった!あたいが殺されちまうよ!
釜爺 これでどうだ?イモリの黒焼き。上物だぞ。
どのみち働くには湯婆婆と契約せにゃならん。自分で行って、運を試しな。
リン ……チェッ!そこの子、ついて来な!
千尋 あっ。
リン …あんたネェ、はいとかお世話になりますとか言えないの!?
千尋 あっ、はいっ。
リン どんくさいね。はやくおいで。
靴なんか持ってどうすんのさ、靴下も!
千尋 は