「クッションの中に隠れる千。湯婆婆が来てクッションを探る。」
湯婆婆 ばぁ~。
坊 んんーー、ああー……ああーー……
湯婆婆 もぅ坊はまたベッドで寝ないで~。
坊 あ…あああーーーん、ああーん……
湯婆婆 あぁああごめんごめん、いい子でおねんねしてたのにねぇ。ばぁばはまだお仕事があるの。(ブチュ)いいこでおねんねしててねぇ~。
千 ……あっ!…ぅう痛い離してっ!あっ、助けてくれてありがとう、私急いで行かなくちゃならないの、離してくれる?
坊 おまえ病気うつしにきたんだな。
千 えっ?
坊 おんもにはわるいばいきんしかいないんだぞ。
千 私、人間よ。この世界じゃちょっと珍しいかもしれないけど。
坊 おんもは体にわるいんだぞ。ここにいて坊とおあそびしろ。
千 あなた病気なの?
坊 おんもにいくと病気になるからここにいるんだ。
千 こんなとこにいた方が病気になるよ!……あのね、私のとても大切な人が大けがしてるの。だからすぐいかなきゃならないの。お願い、手を離して!
坊 いったらないちゃうぞ。坊がないたらすぐばぁばがきておまえなんかころしちゃうぞ。こんな手すぐおっちゃうぞ。
千 うぅ痛い痛い!……ね、あとで戻ってきて遊んであげるから。
坊 ダメ今あそぶの!
千 うぅっ………
坊 ……あ?
千 血!わかる?!血!!
坊 ……うわぁあーーああぁあぁあーーーー!!!!
千 あっ!ハクーーーー!何すんの、あっち行って!しっしっ!ハク、ハクね!?しっかりして!静かにして!ハク!?……あっ!
「湯バードにたかられる千。その隙に頭たちがハクを落とそうとする。」
千 あっ、わっ……あっち行って!あっ!だめっ!!
「部屋から坊が出てくる。」
坊 んんっ……んんんっ……血なんかへいきだぞ。あそばないとないちゃうぞ。
千 待って、ね、いい子だから!
坊 坊とあそばないとないちゃうぞ……ぅええ~~……
千 お願い、待って!
式神 ……うるさいねぇ。静かにしておくれ。
坊 ぇえ……?
式神 あんたはちょっと太り過ぎね。
「床から銭婆が現われる。」
銭婆 やっぱりちょっと透けるわねえ。
坊 ばぁば……?
銭婆 やれやれ。お母さんとあたしの区別もつかないのかい。
「魔法でねずみにされる坊。」
銭婆 その方が少しは動きやすいだろ?さぁてと……おまえたちは何がいいかな?
「湯バードはハエドリに、頭は坊にされる。」
千 あっ……
銭婆 ふふふふふふ、このことはナイショだよ。誰かに喋るとおまえの口が裂けるからね。
千 あなたは誰?
銭婆 湯婆婆の双子の姉さ。おまえさんのおかげでここを見物できて面白かったよ。さぁその竜を渡しな。
千 ハクをどうするの?ひどいケガなの。
銭婆 そいつは妹の手先のどろぼう竜だよ。私の所から大事なハンコを盗みだした。
千 ハクがそんなことしっこない!優しい人だもん!
銭婆 竜はみんな優しいよ…優しくて愚かだ。魔法の力を手に入れようとして妹の弟子になるなんてね。この若者は欲深な妹のいいなりだ。さぁ、そこをどきな。どのみちこの竜はもう助からないよ。ハンコには守りの呪い(まじない)が掛けてあるからね、盗んだものは死ぬようにと……
千 ……いや!だめ!
「坊になった頭が坊ネズミとハエドリを虐めている。」
銭婆 なんだろね、この連中は。これおやめ、部屋にお戻りな。
白竜 グゥ…!
「隙をついて竜の尾が式神を引き裂く。」
銭婆 !……あぁら油断したねぇ~……
「反動で落ちる竜と千、坊ネズミ、ハエドリ。」
千 ハク、あ、きゃああーーーっ!!ハクーーーっ!!
「落ちていく中で水の幻影が浮かぶ。」
「力を振り絞って横穴に入る竜。換気扇を破ってボイラー室に出る。」
釜爺 なっ……わあっ!!
千 ハク!
釜爺 なにごとじゃい!ああっ、待ちなさい!
千 ハクっ!苦しいの!?
釜爺 こりゃあ、いかん!
千 ハクしっかり!どうしよう、ハクが死んじゃう!
釜爺 体の中で何かが命を食い荒らしとる。
千 体の中?!
釜爺 強い魔法だ、わしにゃあどうにもならん……
千 ハク、これ河の神様がくれたお団子。効くかもしれない、食べて!ハク、口を開けて!ハクお願い、食べて!……ほら、平気だよ。
釜爺 そりゃあ、苦団子か?
千 あけてぇっ…いい子だから……大丈夫。飲み込んで!
白竜 グォウッ、グオッ……!
釜爺 出たっ、コイツだ!
千 あっ!ハンコ!
釜爺
逃げた!あっちあっち、あっち!
千 あっ、あっ!あぁあああっ、ああああっ!
(ベチャッ!)
釜爺 えーんがちょ、せい!えーんがちょ!!切った!
千 おじさんこれ、湯婆婆のおねえさんのハンコなの!
釜爺 銭婆の?…魔女の契約印か!そりゃあまた、えらいものを……
千 ああっ、やっぱりハクだ!おじさん、ハクよ!
釜爺 おお……お……
千 ハク!ハク、ハクーっ!おじさん、ハク息してない!
釜爺 まだしとるがな。……魔法の傷は油断できんが。
釜爺 ……これで少しは落ち着くといいんじゃが……ハクはな、千と同じように突然ここにやってきてな。魔法使いになりたいと言いおった。ワシは反対したんだ、魔女の弟子なんぞろくな事がないってな。聞かないんだよ。もう帰るところはないと、とうとう湯婆婆の弟子になっちまった。そのうちどんどん顔色が悪くなるし、目つきばかりきつくなってな……
千 釜爺さん、私これ、湯婆婆のおねえさんに返してくる。返して、謝って、ハクを助けてくれるよう頼んでみる。お姉さんのいるところを教えて。