カオナシ これ、食うか?うまいぞー。金を出そうか?千の他には出してやらないことにしたんだ。こっちへおいで。千は何がほしいんだい?言ってごらん。
千 あなたはどこから来たの?私すぐ行かなきゃならないとこがあるの。
カオナシ ウゥッ……
千 あなたは来たところへ帰った方がいいよ。私がほしいものは、あなたにはぜったい出せない。
カオナシ グゥ……
千 おうちはどこなの?お父さんやお母さん、いるんでしょ?
カオナシ イヤダ……イヤダ……サビシイ……サビシィ……
千 おうちがわからないの?
カオナシ 千欲しい……千欲しい……欲しがれ。
千 私を食べる気?
カオナシ それ……取れ……
カオナシ ケッ……
千 私を食べるなら、その前にこれを食べて。本当はお父さんとお母さんにあげたかったんだけど、あげるね。
カオナシ ……ウッ!グハァ……ゲホ、ゲホ……セェン……小娘が、何を食わし……オグゥ……
「カオナシが吐きながら千を追いかける。」
湯婆婆 みんなお退き!お客さまとて許せぬ!!
カオナシ オグゥ……!
湯婆婆 あらっ!?
千 こっちだよー!こっちー!
カオナシ グゥゥ……
「逃げ回る千を追いかけるカオナシ。湯女と兄役を吐き出す。」
カオナシ グハァッ……!!……ハァッ、ハァッ……許せん……
「外に出ると、リンが盥船を出して待っている。」
リン セーーン!こっちだー!
千 こっーちだよー!
リン 呼んでどうすんだよ!
カオナシ あ、あ、……
千 あの人湯屋にいるからいけないの。あそこを出た方がいいんだよ。
リン だってどこ連れてくんだよー!
千 わかんないけど。
リン わかんないって……!……あーあついてくんぞあいつ……
カオナシ ……ごふっ!
「青蛙を吐き出すカオナシ。」
青蛙 ん?
リン こっから歩け。
千 うん。
リン 駅は行けば分かるって。
千 ありがとう。
リン 必ず戻って来いよ!
千 うん!
リン セーーン!おまえのことどんくさいって言ったけど、取り消すぞーー!カオナシ!千に何かしたら許さないからな!
千 あれだ!電車が来た。くるよっ。
千 あの、沼の底までお願いします。えっ?……あなたも乗りたいの?
カオナシ あ、あ、……
千 あの、この人もお願いします。
カオナシ あ、あ、……
千 おいで。おとなしくしててね。
「ボイラー室で目覚めるハク。釜爺を揺り起こす。」
ハク様 おじいさん。
釜爺 ん?んん……おおハク、気が付いた。
ハク様 おじいさん、千はどこです。何があったのでしょう、教えてください。
釜爺 おまえ、なにも覚えてないのか?
ハク様 ……切れ切れにしか思い出せません。闇の中で千尋が何度も私を呼びました、その声を頼りにもがいて……気が付いたらここに寝ていました。
釜爺 そうか、千尋か。あの子は千尋というのか。……いいなあ、愛の力だなあ……
「ガウン姿で暖炉の前に座る湯婆婆。」
湯婆婆 これっぱかしの金でどう埋め合わせするのさ。千のバカがせっかくのもうけをフイにしちまって!
青蛙 で、でも、千のおかげでおれたち助かったんです。
湯婆婆 おだまり!みんな自分でまいた種じゃないか。それなのに勝手に逃げ出したんだよ。あの子は自分の親を見捨てたんだ!親豚は食べ頃だろ、ベーコンにでもハムにでもしちまいな。
ハク様 お待ち下さい。
青蛙 ハク様!
湯婆婆 なぁんだいおまえ。生きてたのかい。
ハク様 まだ分かりませんか?大切なものがすり替わったのに……
湯婆婆 ずいぶん生意気な口を利くね。いつからそんなに偉くなったんだい?フン……
「真っ先に金を確かめる湯婆婆を哀れげな瞳で見るハク。」
「ふと坊に目を向け術を解くと、頭たちが逃げていく。」
湯婆婆 な……あ……あ……
「金塊も土に代わる。」
湯婆婆 ……ああ……きぃいいいーーー坊ーーーー!!!
青蛙 土くれだ!
湯婆婆 坊ーーーーーー!!どこにいるの、坊ーーーー!!!出てきておくれ、坊ーー!坊、坊!……おぉのぉれぇぇええーーー!!キィイイイーー!!あぁたしの坊をどこへやったぁーーー!!!
ハク様 銭婆のところです。
湯婆婆 銭婆……?……あぁ……
湯婆婆 なるほどね。性悪女め……それであたしに勝ったつもりかい。で!?どうすんだい!?
ハク様 坊を連れ戻してきます。その代わり、千と両親を人間の世界へ戻してやってください。
湯婆婆 それでおまえはどうなるんだい!?その後あたしに八つ裂きにされてもいいんかい!??
千 この駅でいいんだよね。……行こう。
「疲れて坊ネズミを持ち上げられないハエドリ。坊ネズミが自分で歩き出す。」
千 肩に乗っていいよ。
「坊ネズミは無視して歩き続ける。」
「一本足の電灯が跳んできて、家まで道案内をする。」
銭婆 おはいり。
千 失礼します。
銭婆 入るならさっさとお入り。
千 おいで。
銭婆 みんなよく来たね。
千 あっ、あのっ……!
銭婆 まあお座り。今お茶を入れるからね。
千 銭婆さん、これ、ハクが盗んだものです。お返しに来ました。
銭婆 おまえ、これがなんだか知ってるかい?
千 いえ。でも、とっても大事なものだって。ハクの代わりに謝りに来ました。ごめんなさい!
銭婆 ……<