「水を捨てに来る千。外に立っているカオナシを見つける。」
千 あの、そこ濡れませんか?
リン 千、早くしろよ!
千 はーーい。……ここ、開けときますね。
湯女 リン、大湯だって?
リン ほっとけ!
リン ひでぇ、ずーっと洗ってないぞ。
「転ぶ千。」
千 うわっ!……あーっ。
リン ここの風呂はさ、汚しのお客専門なんだよ。うー、こびりついてて取れやしねえ。
兄役 リン、千。一番客が来ちまうぞ。
リン はーーい今すぐ!チッ、下いびりしやがって。
一回 薬湯入れなきゃダメだ。千、番台行って札もらってきな。
千 札?……うわっ!
リン 薬湯の札だよ!
千 はぁーい。……リンさん、番台ってなに?
湯婆婆 ん?…なんだろうね。なんか来たね。
雨に紛れてろくでもないものが紛れ込んだかな?
「街を進んでくるオクサレさま。」
番台蛙 そんなもったいないことが出来るか!……おはようございます!良くお休みになられましたか!
湯女 春日様。
番台蛙 はい、硫黄の上!……いつまでいたって同じだ、戻れ戻れ!手でこすればいいんだ!
おはようございます!……手を使え手を!
千 でも、あの、薬湯じゃないとダメだそうです。
番台蛙 わからんやつだな……あっ、ヨモギ湯ですね。どーぞごゆっくり……
千 あっ……
「背後にカオナシを見つけて会釈する千。」
番台蛙 んん?
「リリリリリ」
番台蛙 はい番台です!…あっ、……うわっ!?
千 あっ!ありがとうございます!!
番台蛙 あー、違う!こら待て、おい!
湯婆婆 どしたんだい!?
番台蛙 い、いえ、なんでもありません。
湯婆婆 なにか入り込んでるよ。
番台蛙 人間ですか。
湯婆婆 それを調べるんだ。今日はハクがいないからね。
リン へぇーずいぶんいいのくれたじゃん。
これがさ、釜爺のとこへ行くんだ。混んでないからすぐ来るよきっと。
これを引けばお湯が出る。やってみな。
千 うわっ!……
リン 千てほんとドジなー。
千 うわ、すごい色……
リン こいつにはさ、ミミズの干物が入ってんだ。こんだけ濁ってりゃこすらなくても同じだな。
いっぱいになったらもう一回引きな、止まるから。もう放して大丈夫だよ。おれ朝飯取ってくんな!
千 はぁーい。……あっ。
「カオナシを見つける。風呂の縁から落ちる千。」
千 うわっ!……いったぃ…った……
あの、お風呂まだなんです。
わ…こんなにたくさん……
えっ、私にくれるの?
カオナシ あ、あ、……
千 あの……それ、そんなにいらない。
カオナシ あ、…
千 だめよ。ひとつでいいの。
カオナシ あ……
千 え…あっ!
「釜から水があふれる。」
千 うわぁっ!!
父役 奥様!
湯婆婆 クサレ神だって!?
父役 それも特大のオクサレさまです!
従業員 まっすぐ橋へ向かってきます!
従業員達 お帰り下さい、お帰り下さい!
青蛙 お帰り下さい、お引き取り下さい、お帰り下さい!うっ……くっさいぃ~…!
湯婆婆 ぅう~ん…おかしいね。クサレ神なんかの気配じゃなかったんだが……来ちまったものは仕方がない。お迎えしな!
こうなったら出来るだけはやく引き取ってもらうしかないよ!
兄役 リンと千、湯婆婆様がお呼びだ。
千 あ、はいっ!
湯婆婆 いいかい、おまえの初仕事だ。これから来るお客を大湯で世話するんだよ。
千 ……あの~……
湯婆婆 四の五の言うと、石炭にしちまうよ。わかったね!
父役 み、見えました……ウッ…
湯婆婆?千 ウゥッ……!!
湯婆婆 …おやめ!お客さんに失礼だよ!
が?が?……ヨク オコシクダしゃいマシタ……
え?あ オカネ……千!千!早くお受け取りな!
千 は、はいっ!
(ベチャッ)
千 うゥ…!
湯婆婆 ナニ してるんだい…!ハヤク ご案内しな!
千 ど どうぞ ……
リン セーーーン!
うぇっ……くっせえ…あっ、メシが!
湯婆婆 窓をお開け!全部だよ!!
「大湯に飛び込み、千に何かを促すオクサレさま。」
千 えっ?ぁ、……ちょっと待って!
「上から見ている湯婆婆と父役。」
湯婆婆 フフフフ、汚いね。
父役 笑い事ではありません。
湯婆婆 あの子どうするかね。……ほぉ、足し湯をする気だよ。
父役 あぁああ、汚い手で壁に触りおって!
千 あっ……あっ!
「札を下げようとして落とす千。他の札を取って釜爺に送る。」
湯婆婆 んん?千に新しい札あげたのかい?
父役 まさかそんなもったいない……
千 わっ!
「湯の紐を引きながら落ちる千。ヘドロにはまる。」
父役 あああ<