鶴の恩返し
(日本昔話)
むかし、家禄(かろく)という貧(まず)しい若者(わかもの)がいました。
家禄は、年老(としお)いた母親と暮(く)らしていました。
ある時、山の中でわなにかかった鶴を見つけました。
「おお、かわいそうに。」
家禄は、鶴のわなをはずして、逃(に)がしてやりました。
とても寒い夜でした。
誰かが、とんとんと戸(と)を叩(たた)きます。
家禄が、不思議(ふしぎ)に思って戸を開けてみると、外に驚(おどろ)くほど美しい娘(むすめ)が立っています。
娘は、美しい声で言いました。
「道に迷(まよ)ってしまいました。どうか、一晩(ひとばん)泊めてください。」
家禄は驚きましたが、それでも快(こころよ)く泊めてやることにしました。
次の日、突然娘が言いました。
「わたしをあなたのお嫁(よめ)さんにしてください。」
家禄は、またびっくりです。
「毎日、食べるものもないほど、貧しいわたしです。お嫁さんをもらうなんて、無理(むり)です。」
でも、娘は、「それでもいいですから。」と言って、聞きません。
それを聞いた家禄のお母さんが、「それほど言うのなら、お嫁にしてあげなさい。」と家禄に言いました。
とても幸(しあわ)せな日が続(つづ)きました。ある時、お嫁さんが言いました。
「これから三日で、わたしは布(ぬの)を織(お)ります。でも、わたしの姿(すがた)は絶対に覗(のぞ)かないでください。」
そして、機織(はたおり)の周りをぐるりと屏風(びょうぶ)で囲んでしまいました。
トンカラカラトンカラカラと、布を織り、三日目(め)にそれはそれはきれいな布をもって、屏風のかげから出てきました。
「これを、お殿(との)様に売ってきてください。」
お殿様は高いお金で布を買ってくれました。
それから言いました。
「もう一枚(いちまい)持って来い。もっと高いお金で買ってやろう。」
「それは、うちのお嫁さんと相談(そうだん)しないと約束(やくそく)できません。」
家禄はそう言ったのですが、わがままな殿様はどうしても約束しろと言います。
家禄はしかたなく、「ではもう一枚だけ。」と、約束しました。
家に戻ると、家禄はもう一度布を織ってほしいと頼(たの)みました。
「わかりました。今度は七日で織ります。その間、決して覗(のぞ)かないでくださいね。」
お嫁さんは、また屏風の中に入りました。
トンカラカラカラカラトン
毎日、機を織る音がします。
でも、家禄はだんだん心配(しんぱい)になってきました。
「何も食べないで、いったいどうしているんだろう。ほんのちょっとだけ見てみようか。」
屏風の中を覗いた家禄は、「おおっ、これは。」と、声をあげました。
屏風の中で、もう毛(け)がほとんどなくなった鶴が自分の羽(はね)を抜(ぬ)いて、布を織っていたのです。
家禄を見て、鶴が言いました。
「わたしは、あなたに助けられたあの鶴です。でも、姿を見られたのでもう帰らなくてはなりません。ちょうど布は出来上がりました。これを殿様に売ってください。」
鶴は、それからじっと空を見ていました。
やがて、千羽(せんば)もの鶴が飛んできて、裸(はだか)の鶴を囲みました。
「行かないでくれーっ。」
家禄は叫びましたが、鶴たちは裸の鶴を連れて、空のかなたへ飛び去っていきました。
あの鶴は、鶴たちの女王(じょおう)様(さま)だったということです。
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