錫の兵隊
(アンデルセン童話)
テーブルの上に、二十五人の錫の兵隊が並(なら)んでいました。錫のスプーンを熔(と)かして、造(つく)った兵隊です。中に、足がかけた兵隊がいます。足一本(いっぽん)分、錫が足(た)りなかったのです。 でも、その兵隊は、いつも背筋(せすじ)を伸(の)ばして立(た)っていました。
棚(だな)の上には、紙(かみ)で作られたバレリーナが飾(かざ)ってありました。 一本足の兵隊は、いつもそのバレリーナをじっと見つめていました。
ある日の朝のことです。風がカーテンを揺(ゆ)らし、兵隊は下の道路(どうろ)に落ちたのです。
兵隊は敷石(しきいし)の間に挟(はさ)まってしまいました。兵隊を見つめたのは、二人の男の子でした。
二人は、兵隊を紙で作ったボートに乗(の)せて、小さい川(かわ)に流(なが)しました。
川はすごい勢(いきお)いで流れていました。ボートは激(はげ)しく揺(ゆ)れながら流れていきます。途中、野(の)鼠(ねずみ)が「通行券(つうこうけん)をみせろ!」と叫びましたが、止(と)まることなんてできません。
小さい川はやがて大きな川に流れ込み、ボートは沈(しず)んでしまいました。川のそこに沈(しず)んだ兵隊を、大きな魚ががぶりと飲み込みました。兵隊は真(ま)っ暗(くら)な魚のおなかで、長い間じっとしていました。
突然、ぱっと明るい光(ひかり)が射(さ)しました。「まあ、うちの兵隊さんよ。」女の人が叫びました。そうなのです。魚は人に捕(つか)まり、それをもとの家の人が買ったのです。
一本足の兵隊は、もとのテーブルの上に戻(もど)りました。あの美しいバレリーナも、棚の上にいました。兵隊はじっとバレリーナを見つめました。バレリーナも兵隊を見ていました。でも、二人は言葉(ことば)を交(か)わすことはしませんでした。
突然(とつぜん)、小さい子供が部屋に入ってきて、「壊(こわ)れたおもちゃなんて、要らないや。」
と言って、一本足の兵隊をストーブの中に投(な)げ込(こ)んだのです。ちょうどそのときです。
風が吹いてきて、紙のバレリーナをストーブの中で熔(と)けていく兵隊のところに運(はこ)びました。バレリーナは、あっという間に燃(も)えてしまいました。やがて、錫の兵隊もすっかり溶けて、ただの錫の塊(かたまり)になりました。
次の日の朝です。ストーブの中に、ハートの形(かたち)をした、錫の塊(かたまり)がありました。
きっと二人の心が一つになったのでしょう。
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