問題10次の文章を読んで、後の問いに対する答えとして最もよいものを1、2、3、4から一つ選びなさい。
理系の文章は明確な目的を持っている場合が多いので、その目的に応じて読者は文章を読 む。このため、目的に合致した文章は満足感を読者に与える。たとえば、「東京都の交通渋滞に関する調査報告書」はそれを知りたい人が読み、その内容が過不足なく記述されてい れば100点の評価となる。調査内容が不十分であれば評価は下がり、満足感は少なくなる。
しかし、もし著者と読者のあいだで、その文章を媒体として記述されていること以上の 事柄が発見できれば、読者にとって最高の満足感となる。言い換えると、読者が新しい知識を発見する喜びを支援する、あるいはそのきっかけとなる文章こそが、100点以上の評 価となる。それは著者と読者の①シナジー効果(二つのものから、それらの合計以上のもの が生み出される効果)であり、それをもたらすには、著者は常に読者を意識し、読者とと もに問題の解決にあたるという姿勢を持つことで文章に磨きがかかる。
いくら仕事や理系の文章だからといって「AはBだ、覚えておけ」という姿勢の文章で は読者の満足感は少ない。むしろ、読者は自分の無知を知り、自己嫌悪に陥り、一方、著者への親近感はなくなり、読む気がしなくなる。文章の目的を達成するために大事なこと は、読者が最後まで読んでくれることである。いくら素晴らしい内容が書かれていても、読者が読む気のしない文章は目的を果たすことができない。
学生のレポートで、②それが一番よくわかる。なにしろ提出数が多いので、すべてを完全 に理解しようとして読むことは不可能である。結局、最初の数行を読んで、あるいは全体を見渡して、読む気が起こるかどうかが評価に大いに影響する。これは、上司に提出する 企画書や、コンペに応募する提案書などでもまったく同じである。
その意味で、人の読む気を誘う文章であるかどうかは重要である。では、読む気とは何 か。それこそがシナジー効果である。
(中略)
読者が自力で新しいことを発見することの支援はなかなか難しい。むしろ、自分の思考 過程を深く分析し、読者と一緒に考えようという姿勢を持つことが最も重要である。読者に与える完全な解答はなくても、解答に向かうひたむきな姿勢を示すことができれば良い のだということである。言い換えれば、ごまかしがなく、技巧を弄ばず(注2)、大げさにいえば著者の人生観を示すことで、真実に迫ろうという書き手の気持ちが読者に通じるのである。仕事の文章や理系の文章は、一般にはこういう行間の意味は不要と考えられているが、それでは無味乾燥の教科書文章となり、人の心に届かない。いくら人の脳に届いても、心に届かないものは読む気がしなくなり、結局、読者の脳にも届かなくなる。
(注1)コンペ:ここでは、仕事の依頼先を選ぶために企画を競争させるもの
(注2)弄ぶ:ここでは、必要でないのにむやみに使う
(注3)無味乾燥の:味わいがなくてつまらない
59①シナジー効果とあるが、読者にとってのシナジー効果とはどのようなものか。
1記述されている内容から、求めていた以上のことが得られる。
2著者が伝えようとしている事柄を理解し、知識を増やす。
3読むことを通して事実を知り、不十分な点を自覚する。
4文章から足りない知識を補い、疑問を解消する。
60②それが一番よくわかるとあるが、何が一番よくわかるのか。
1読み手に満足感を与えるのは難しいということ
2素晴らしい内容でなければ読んでもらえないこと
3読む気がしないものは終わりまで読んでもらえないこと
4読んですべてを理解してもらうことは不可能だということ
61③脳に届いても、心に届かないとはどういうことか。
1技巧には感心しても、内容には共感できない。
2行間の意味は理解できても、内容には感動できない。
3書き手の姿勢は理解できても、気迫までは感じられない。
4内容は理解できても、書き手の気持ちは伝わってこない。
62理系の文章の書き手はどのような姿勢を持つべきだと筆者は述べているか。
1読者の読む目的を分析し、読者に過不足のない情報を与えようとする。
2読者を意識しつつ、真摯に解答を求めてその気持ちを伝えようとする。
3読者に満足感を与えるよう、妥協せずに完全な解答を提供しようとする。
4読者の読む気を最後まで誘うよう、読者の思考過程を深く分析しようとするぐ。
問題11次の八と8の文章を読んで、後の問いに対する答えとして最もよいものを1、2 、3 、 4から一つ選びなさい。
A
生態系保全(注1)では、そこに生息(注2)する生物のことを考慮するが、生態系を構成するすべての生物を等しく扱うことはできない。なぜなら、一部の生物を守ろうとすると、必ず不 利益を被る生物が生じるからである。すなわち、われわれ人間が何をしても、それに よって利益を得る生物と不利益を受けるものが生じることになる。そうなると、生態系 を保全する目的で、何らかの活動をするということは、一部の生物種に利益を与えると いうことになる。
(中略)
唯一われわれが言えることは、われわれが人類であるから、「地球生態系は人類が健全 に生きていくためにある」ということである。すなわち、「生態系は人類のため」なの である。言い換えれば、人類に利益を与えてくれる生態系を#全すべきなのである。
(花里孝幸『自然はそんなにヤワじやない一誤解だらけの生態系』による)
B
保全生物学の核となる概念である生物多様性は種の存続によって維持される。した がって、保全生物学では、希少種や減少過程にある個体群の保全に関する知識と方法が 一つの重要な課題である。(中略)
しかし、個別の種をそれぞれ保護することは非常に困難である。一つの生態系をとっ ても、微生物から植物、昆虫、哺乳動物など多くの種が生存しているが、それらの全て の生態を把握して保護することは不可能に近い。さらに、未分類の種や種レベル以下の 遺伝的多様性は、個別の種を保護する方法では逆に保護されなくなってしまう恐れがあ る。そこで、多様な生物の相互関係を含む自然をそのまま保全することが重要になって くる。つまり、生態系を保全することで、そこに含まれる全ての生物を保護するという 考えている。
注1保全:ここでは、守ること。
注2生息する:生きる。
注3保全生物学:生態学の研究分野のひとつ。
63间生態系を構成する生物の保護について、八と3の文章で共通して述べられているこ とは何か。
1多様な生物を含む自然全体を保護することが重要である。
2多様な生物種を一様に保護していくことは非常に難しい。
3生物種を分類して保護することは生物間の差別につながる。
4人類に利益を与える生物を保護するべきである。
64保護すべき対象について、AとBはどのように考えているか。
1 Aは地球生態系を、Bは遺伝的多様性のある種を保護すべきだと考えている。
2 Aは生態系の全生物を、Bは希少価値のある生物を保護すべきだと考えている。
3 Aは人類に利益を与える生物種を、Bは個別の種を保護すべきだと考えている。
4 Aは人類のためにな生態系を、Bは生態系全体を保護すべきだと考えている。
問題12次の文章を読んで、後の問いに対する答えとして最もよいものを、1、2 、3 、4から 一つ選びなさい。
うちの犬は頭がよくないけれどむやみに吠えない。これは犬種の性格である。もうひと つ、絶対に嚙みつかない。これは訓練士に仕込まれた成果である。大きな犬なので幼児に嚙みついたら事件になってしまう。
訓練士は二十代の女性でスクーターに乗ってやってきた。訓練時間は週に4回、各30分 である。半年近く経っても訓練が終わらないので、いつになったら卒業できるんですか、 と訊ねた。家庭内での序列がはっきりしたら、と説明する。序列ねえ、どういうことかな、とさらに質問すると、お宅の坊ちゃんがまだ……。
十年前なので息子は小学生である。体格的にも犬と息子に差がない。うちの犬はまず僕、 つぎに妻と気の強い娘に降参したのだ。だが息子は軟体動物のようにふにゃらふにゃらとしている。寝てばかりいる。起きてもあくびばかりしている。両者は最下位争いを演じた まま四つに組んで決着がつかないらしい。
動物は序列に敏感なのだ。(中略)
女性の訓練士が説明した。犬をかわいがっているつもりで甘やかし、腕をがぶりと嚙み つかれた飼い主がいた。甘やかせばつけ上がるだけ、自分が主人と信じ込んで飼い主をなめた結果である。動物はつねに威嚇しながら序列を確認しているから、仲間同士は本気で 喧嘩をしない。相手が強い、とわかれば争わない。喧嘩したら互いに傷つき、厳しい自然界では生き残れないから。
さすがに血のめぐりの悪いわが家の犬も、ある日、息子にゴツンと頭を叩かれ、最下位 が確定、平和的に棲み分けが決まり、予算オーバーの訓練は終了した。
動物から教訓を得たわけではないが、家庭内でも夕テマエとしての序列がないと混乱が はじまる。親父の権威の喪失が取り返しのつかないところまできたのは家父長制を否定し。
(注3〉すぎた結果でもある。戦前は長子相続で、次男以下は相続権がなく女性にいたってはその 他大勢の扱い、ひどいものだった。そういう状態を復活せよ、と述べているのではない。
職場で女性がもっと管理職に進出できる環境は整えたほうがよいし、僕の経験からして 共働きには賛成である。家事も分担したほうがよい。だが男女平等をはきちがえてはいけない。家庭は動物の巣に似た面がある。権威としての父性、包容力の母性まで削り取って はいけない。父親は筋肉質で髯をはやし、母親には柔らかな肌とやさしい笑顔があるように、それらしく演じ分けたほうがよい。頻発する家庭内暴力が役割構造の喪失と無縁では ないからである。
(猪瀬直樹「家」1999年9月26日付朝日新聞朝刊による)
(注1〕降参する:負ける
(注2〕四つに組む:しっかり向き合って闘うこと
(注3〕家父長制:男性の年長者が家族を支配するという制度
(注4〉包容力:相手を寛大な気持ちで受け止める力
65①お宅の坊ちゃんがまだ……とあるが、「まだ」の後に続く言葉はどれか。
1小学生で、犬の訓練が苦手ですから
2序列が犬より上になっていませんから
3小学生で、訓練が終わっていませんから
4きょうだいの序列を理解していませんから
66 ②腕をがぶりと嚙みつかれた飼い主がいたとあるが、この犬はどうして嚙みついたか。
1この犬は自分の方が飼い主より上だと思っていたから
2女性の訓練士に甘やかされて誰にでも嚙みついていたから
3強い相手に挑まなければ厳しい自然界では生きられないから
4この犬は飼い主と自分の序列はまだ定まっていないと思ったから
67③男女平等をはきちがえてはいけないと言っているが、筆者は「はきちがえる」とどうなると考えているか。
1共働きが普通になり、父親が家事を分担するようになる。
2父親と母親の家庭内での役割が混乱し、問題が生まれる。
3職場で女性がもっと管理職に進出できるような環境になる。
4家父長制が復活して戦前の社会のように人が序列化される。
68この文章で筆者が最も言いたいことは何か。
1犬には訓練によって家庭内での序列を教え込むことが必要である。
2父親と母親の役割を明確にするために、家父長制を復活すベきである。
3家庭の問題を解決するためには動物と同じく序列化が必要である。
4親は家庭でそれぞれ父性や母性にもとづく役割を果たすべきである。