夕刊がやってきた。三浦は泥棒を蹴飛ばしたと書いてある。
『えらいわ。やっぱり三浦さん』
と家人が言った。
『あんたなら、皆をそのままにして飛び出して逃げるでしょうがねエ。』
面白くなかった。しかし一年ほど前、家人たちと寿司屋で寿司をたべていると、突然、地震が来た。私はワッと叫び、箸を放り出して一人、店の外に走り出した。ノコノコ戻ってくると店中の客の失笑をうけ、家人からはイヤな顔をされた記憶がある。以来、家人から嫌味を言われても、反撥することができない。
泥棒は三浦家に入る前に犬養智子さんの家に入った男と同一人物かもしれない。ジャーナリズマ(journalism)と関係のある女性の家ばかり狙うのは一体、どういう心理か。しかも犬養さんといい、曽野さんといい、まあ美人である。この泥棒は美人の物書きの家ばかり狙うとすると-----今後、彼か侵入しない女性の物書きは美人でないという評判がたつ。これは大変だ。
翌日、やっと三浦夫婦と電話で話ができた。
『お前。見舞い品どんどん来とるで。お前、何もくれへんのか。はよ、持ってこいや』*
と三浦はあせましいことを言った。焼けぶとりという言葉があるが、泥棒ぶとりというのはこういうことをいうのだろう。ひょっとすると三浦はその泥棒をつかまえて、泥棒の持金を泥棒したのではあるまいか、などとひそかに考えた。
この事件にもう一人、被害者がいた。それは画家の秋野卓美さんである。事件後、卓美さんは毎日、警察から電話で、
『戸じまりに気をつけてください』
と注意を受けた。なぜ自分の家だけに警察が注意してくるのか卓美さんには分からない。
三日目にまた警察から電話があった。
『なぜ、僕ばかり注意されるのですか』
『あれ』
と警察の人はびっくりして叫んだ。
『あなた、男の人ですか。女性ではないですか』
警察では秋野卓美を女性の名と間違えていたのである。
『僕、女の画家と考えられていたらしいです』
と秋野氏は情けなさそうにそう私に言った。
注释:
小人、閑居して不善をなす。
小人闲居则为不善
億劫 おっくう
形动 3 觉得麻烦,不起劲
鼻毛を抜く はなげをぬく
拔鼻毛;抢先;欺骗
戸じまり とじまり
名 2 关门,锁门
他でもない ほかでもない
不是别的
目利き めきき
名 3 有眼力的人
口惜しい くやしい
形 3 令人悔恨,遗憾
与太者 よたもの
名 0 流氓,恶棍
因縁をつける いんねんをつける
(为讹诈等)找碴儿,找借口
泥棒よけ
防盗
退屈がまぎれる
解闷,消遣
吹聴 ふいちょう
名 0 吹嘘
のこのこ
副 1 满不在乎的,不知羞耻的
失笑 しっしょう
名 0 不由得发笑
嫌味 いやみ
名 3 挖苦话,讥讽话
物書き ものかき
作家
焼けぶとり
名 0 (生意、家业)失火后反而更兴旺
『お前。見舞い品どんどん来とるで。お前、何もくれへんのか。はよ、持ってこいや』*
这是带有方言的句子,相当于
おい、見舞い品がどんどん来ているぞ。お前何もくれないおか、はやく持って来なさいよ。
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