海の水はなぜからい
(デンマーク民話)
昔(むかし)のこと。
ランスとハンスという、兄弟(きょうだい)がいました。
兄のランスは、お金持(かねも)ちでしたが、弟のハンスは、とても貧乏(びんぼう)でした。
クリスマスの前の日、ハンスは兄の所に行きました。
「兄さん、クリスマスなのに、家には食べるものがありません。何か、分(わ)けてくれませんか。」
とてもけちなランスは、舌打(したう)ちして言いました。
「今度だけだぞ。この豚肉(ぶたにく)を持って、地獄(じごく)へでも行け。」
「ありがとう。地獄へいってくるよ。」
ハンスはお礼を言うと、地面(じめん)の穴(あな)から、本当に地獄に向(む)かって、歩いていきました。
地獄では、小さな悪魔(あくま)たちが火の周(まわ)りで跳(は)ねていました。
ハンスの姿(すがた)を見ると、みんな駆(か)け寄(よ)ってきました。
「その荷物(にもつ)はなあに?」
「豚肉さ。これを買ってくれないか。」
「それはいい、ちょうど豚肉がほしかったんだ。お金はないけど、代わりに臼(うす)をあげるよ。」
こんな話をしました。でも、臼は食べ物ではありません。
すると、悪魔は言いました。
「この臼を回しながら、願(ねが)い事を言うと、何でも出てくるんだ。もうたくさんだと思ったら、言葉を三つ言えば止(と)まるよ。」
三つの言葉を教(おし)えてもらったハンスは、臼を持って、地獄から抜(ぬ)け出(だ)しました。
家では奥さんがかんかんに怒(おこ)っていました。
「もうクリスマスだと言うのに、食べるものが何にもないんだよ。家にはたくさん子供がいるっていうのに。」
「まあまあ、この不思議(ふしぎ)な臼を試(ため)して見るまで、怒るなよ。」
ハンスはそう言って、テーブルの上に臼を置きました。
「さあ、今ほしい物を言ってごらん。」
ハンスが言うと、奥さんは「暗(くら)いから、まずロウソクだね。次(つぎ)にパン。コーヒーもほしいわ。」
ハンスは臼を回(まわ)しながら、ロウソク、パン、コーヒーと言いました。次々(つぎつぎ)に、出てきます。
こうして、ハンスはたちまち大金持(おおがねも)ちになりました。
ある日、兄のランスが来て、その臼を売ってくれと言いました。
高い値段(ねだん)で売りましたが、止める三つの言葉は教えませんでした。
おかげで、ランスの家は出したスープで流されそうになりました。
臼を返してもらったハンスの所に、ノルウェーの船長(せんちょう)がやってきて臼を買っていきました。
船長は、塩(しお)がほしかったのです。
海に出ると、早速(さっそく)臼を回して塩を出し始めました。
でも、やっぱり臼の止め方を知らないので、船は塩の重さで沈(しず)んでしまいました。
臼も船と一緒(いっしょ)に海に沈みました。
そして、今でもぐるぐる回って、塩を出しているのです。
海が塩辛(しおから)いのは、そういうわけなのですよ。
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