三枚のお札
(日本民話)
昔々の話です。 山に栗(くり)がたくさんなったので、お寺(てら)の小僧(こぞう)さんは、栗拾(くりひろ)いに行こうとしました。和尚さんは、「山姥(やまうば)が出るから、やめろ。」と、とめました。でも、小僧さんがあんまり頼(たの)むので、お守りのお札(ふだ)を三枚渡(わた)して山に行かせました。小僧さんは、夢中(むちゅう)になって栗を拾(ひろ)っているうちに、どんどん山の奥(おく)に入っていきました。
やがて、日も暮(く)れてしまいました。すると、風がごうと吹いて、一人のおばあさんが現(あらわ)れました。「暗くなったから、私の家においで。」おばあさんは、やさしい声で言いました。家に着くと、たくさんご馳走(ちそう)を食べさせてくれました。
真夜中(まよなか)、小僧さんが目を覚(さ)まして見ると、おばあさんの目がつり上がり、口が耳まで裂(さ)けています。山姥だったのです。逃(に)げようと思って、小僧さんは言いました。「おしっこに行きたい。」すると、山姥は、小僧さんの腰(こし)に縄(なわ)を結び付けました。小僧さんは便所(べんじょ)に入ると、縄を柱(はしら)に結びつけ、柱にはお札を一枚(いちまい)貼(は)ってから、逃げ出しました。
山姥は、縄(なわ)の端(はし)を握(にぎ)って、小僧さんを待っていました。でも、小僧さんはなかなか戻(もど)ってきません。「小僧、小僧、まだか。」と、声をかけると、そのたびにお札が、「まだ、まだ。」と、答えるのです。
とうとう、山姥は、思(おも)い切(き)り縄を引きました、すると、便所(べんじょ)ががらがらと崩(くず)れ落(お)ちたのです。「おのれ、逃げたな!」山姥は、慌(あわ)てて小僧さんを追いかけました。山姥の速いこと速いこと。たちまち小僧さんに追いついてきました。そこで、小僧さんは、二枚目のお札を投(な)げながら、「砂山(すなやま)になれ!」と叫びました。
山姥の前に、高い砂山ができました。山姥が、踏(ふ)むと崩(くず)れる砂山を一生懸命(いっしょうけんめい)登っている間に、小僧さんはどんどん山を下(くだ)っていきました。それでも、また、山姥が近づいてきました。小僧さんは三枚目のお札を投げながら、「大きな川になれ!」と叫(さけ)びました。
山姥の前に、川ができました。山姥は川の水をごくんごくんと飲みだしました。小僧さんは、その隙(すき)に、なんとか、お寺に逃げ込みました。
お寺では、和尚( お しょう)さんが、餅(もち)を焼(や)いていました。山姥は川の水を飲(の)み干(ほ)すと、お寺にやってきました。「小僧を出せ。」山姥は、和尚さんに言いました。すると、和尚さんはこう言ったのです。「お前は、大きくも小さくもなれるというが、ほんとうか。」「そうとも。」山姥は答えると、ずんずん大きくなって、天上に届(とど)くほどになりました。「なるほど。では、豆粒(まめつぶ)くらい小さくなれるかな。」「なれるとも。」山姥はそう言うと、あっという間に、豆粒ほど小さくなりました。そこで、和尚さんは、山姥を餅につけて、ごくんと飲(の)み込(こ)んでしまったということです。
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