四
気がつくとあたりは薄暗いのだ。滝の轟(とどろ)きが幽(かす)かに感じられた。ずっと頭の上でそれを感じたのである。からだがその響きにつれてゆらゆら動いて、みうちが骨まで冷たかった。
ははあ水の底だな、とわかると、やたらむしょうにすっきりした。さっぱりした。
ふと、両脚をのばしたら、すすと前へ音もなく進んだ。鼻がしらがあやうく岸の岩角へぶっつかろうとした。
大蛇!
大蛇になってしまったのだと思った。うれしいな、もう小屋へ帰れないのだ、とひとりごとを言って口ひげを大きくうごかした。
小さな鮒(ふな)であったのである。ただ口をぱくぱくとやって鼻さきの疣(いぼ)をうごめかしただけのことであったのに。
鮒は滝壺のちかくの淵をあちこちと泳ぎまわった。胸鰭(むなびれ)をぴらぴらさせて水面へ浮んで来たかと思うと、つと尾鰭をつよく振って底深くもぐりこんだ。
水のなかの小えびを追っかけたり、岸辺の葦(あし)のしげみに隠れて見たり、岩角の苔をすすったりして遊んでいた。
それから鮒はじっとうごかなくなった。時折、胸鰭をこまかくそよがせるだけである。なにか考えているらしかった。しばらくそうしていた。
やがてからだをくねらせながらまっすぐに滝壺へむかって行った。たちまち、くるくると木の葉のように吸いこまれた。
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