「太田さん、変わりませんね」
(中略)、四年ぶりにホテルのティー?ルームでお会いした編集者のAさんからそのようにいわれたとき、わたしはみた目のことをいわれたのだと思って、自然ににっこりした。
「Aさんも、お変わりありませんわ」
ダーク?グレイのスマートな背広姿は、四年前と変わりがなかったが、その髪にはいくらか白いものが目立つようになったなと思いながらそういったのである。
「いや、ちょうど十五分、遅刻したところがですよ。」
Aさんは眼鏡の奥の眼をいたずらっ子の少年のように、わざと大きくしながら言われた……(太田治子「気ままなお弁当」)
問:「変わりませんね」とあるが、Aさんは何が変わらないと言ったのか。
1. 人と会うときは「お変わりありませんね」と言うこと。
2. 約束の時間にいつもちょうど十五分だけ遅刻するくせ。
3. 四年前に会ったときの見た目と今回会ったときの見た目。
4. 人と会うときはいつも外観ばかり気にするくせ。
正解:2
いかなる理由であれ、家族、特に夫婦が別々に暮らすことは決して望ましいことではない。とはいえ実際には、夫の地方転勤に際して家族共々転居するという例はむしろ少なく、夫だけが新しい任地に単身赴任し、家族は今までの場所で今までの生活を続けるという例の方が、はるかに多い。その理由として、共稼ぎの妻の仕事の都合や、親の世話や介護の都合などが挙げられる場合もないわけれはない。だが、この現実は何と言っても日本の学校制度、受験制度、さらに教育現場の実態などからみた子供の転校の難しさと、最も深い関係があると思われる。
* ~であれ:~であっても 共々:いっしょに とはいえ:とは言うけれども
問:何が「子供の転校の難しさと、最も深い関係がある」のか。
1. 夫が地方転勤になること。
2. 夫が単身赴任せざるを得ないこと。
3. 妻に仕事や親の世話などの都合があること。
4. 受験戦争が厳しい上に、いじめなどの問題があること。
正解:2
私が書く小説には、しばしばサラリーマンの主人公が登場する。したがって、小説の舞台も、会社や家庭であることが多い。しかし、作家仲間や出版社の人達にも信じられないといった顔をされるのだが、実は、わたしには家庭を持った経験もなければ、会社員生活をした経験もない、全く実際の経験がないことを、さもよく知っているかのように書く。よくそんなことができると怒られそうだか、そこは会社員の友人たちから得る情報と、わたし自身の想像力とで輔っているというわけである。
問:だれが「怒られそう」なのか。
1. 筆者。
2. 作家仲間や出版関係者たち。
3. 会社員の友人たち。
4. 読者。
正解:1
日本は昔から天災の多い国であった。火山も多ければ、地震もある。夏の終わりから秋にかけては、毎年大小幾つもの台風に見舞われ、大雨が降れば、流れの速い川はたちまち氾濫して、周囲の田畑を読み込み。冬は冬でまた逆に大陸からのからっ風で空気が乾燥し、毎年あちこちで山火事が発生する……
天災の多かったことは日本人の心の中に、物事をすぐ忘れすぐ諦めるという癖をつけてしまったように見える。天災に打ち勝つためにはどうすればよいかを考え抜き、粘り強く工夫を重ね、根本的な対策を立てる代わりに、天災だから仕方がない、失ったもののことはさっぱり諦めきっぱり忘れて、もう一度新しく一からやり直すほかないと考えて、自分を納得させてしまう気持ちである。このようにして、打ちのめされてもまたやり直し、毎回同じことを繰り返していく。その気持ちはさらに、遠い将来のことなどあまり深く考えずに運を天に任せ、何か起こった時には、その都度その都度、その場その場で安易な一時しのぎの対策を講じて、それで済ませてしまうという一種の無責任さを植え付けてしまったようである。
* からっ風:水分の少ない強い季節風. 打ちのめす:徹底的な打撃を受ける。
一時しのぎ:そのときだけ何とかする。 講じる:する。
問1:何が「読み込む」のか。
1. 台風.
2. 周囲の田畑.
3. 流れの速い川。
4. 火山や地震。
問2:何が「仕方がない」のか。
1. 日本は天災が多いこと。
2. 日本に住んでいること。
3. 被害を受けたこと。
4. なくしたものを諦めること。
問3:何が「繰り返していく」のか。
1. 台風.
2. 山火事。
3. 日本の四季。
4. 日本人。
問4:何が「植え付けてしまった」のか。
1. 台風や地震などの天災。
2. 物事をすぐ諦め、すぐ忘れる癖。
3. 粘り強く重ねる工夫。
4. その場限りの一時的な対策。
正解:3、3、4、2
人生において一つの失敗などというものは、テニスの試合において点を一つ取られたようなものである。どんなに強い選手だって、点を一つも取られずに試合を進めることなどできまい、それと同様に、全く失敗なしに世の中を渡っていくことなど、できようはずがない。人生に成功と失敗があるのは、一日のうちに昼と夜があるようなものである。夜はどんなに偉い人も追い払うことはできない。僅かな失敗を気にして思い悩んでしまうのは、自分は失敗なしに生きていけるはずだという無意識の思い上がりが、心の奥底にあるからにほかならない。成功も失敗も時の運と思って、それにこだわらずひたすら最善を尽くす謙虚な心が、本当のスポーツマンシップなのである。この真のスポーツマン精神を身につけることこそ、人生を強く生き抜く心構えを鍛え上げるために何より大切でなことである、と僕はこのごろ考えている。
* 思い上がり:自分を立派だと思い込む気持ち。 こだわる:気にする。
* ひたすら:ただそれだけを熱心に。 心構え:基本的な心のあり方。
問1:何か(だれか)「追い払うことはできない」のか。
1. 人生。
2. 強い選手。
3. 夜。
4. 偉い人。
問2:だれか「思い上がり」を心に持っているのか。
1. 点を一つも取られずに試合を進めるテニスの選手。
2. 今まで失敗なしに人生を生きて来た人。
3. 小さい失敗で精神的に落ち込んでしまう人。
4. 成功しても失敗しても余り気にしない人。
問3:何か「大切なことである」のか。
1. 本当に強いスポーツ選手になるために、点を取られないよう頑張ること。
2. 成功とか失敗とかいった結果は気にせず努力すること。
3. 謙虚になって試合の相手の気持ちを大切にすること。
4. 失敗をなるべく少なくして、人生における勝利者になること。
正解:4、3、2
私の知っている寿司屋の若い主人は、亡くなった彼の父親を、いまだに尊敬している。死んだ肉親のことは多くの場合、美化されるのが普通だから、彼の父親追憶もそれではないかと聞いていたが、そのうち考えが変わってきた。
高校を出た時から彼は父親に、寿司の握りかた、めしのたきかた——寿司屋になるすべてを習った。父親は彼の飯の炊きかたが下手だとそれをひっくりかえすぐらい厳しかった……ある日、たまりかねて、「なぜぼくだけに辛く当たるんだ」ときくと、「俺の子供だから辛く当たるんだ」と言いかえされたと言う。
父親が死に、一人前になって店をついでみると、その辛く当たられた技術が役にたち、なるほど、なるほどと彼はわかったそうである。
私はこの若主人の話を聞くたびに、羨ましいと心の底から思う。そこには我々がある意味で理想とする父親と子供の関係があるからである。
(遠藤周作「勇気ある言葉」)
問:「なるほど、なるほどと彼はわかった」とあるが、彼がわかったことは何か。
1. 父親が死んだ理由。
2. 店をついだ理由。
3. 父親が辛く当たった理由。
4. 筆者が彼を羨ましいと思っている理由。
正解:3
最近、すっかり出不精になってしまい、自分でも困ったものだと思う。折に触れる旧友の顔など思い出し、電話などして「近いうちに会おう」と話がまとまるところまではいいのだが、さてその日が近づくにつれて次第に気が重くなってくる。
着ていく物はどうしようか。なるべく若々しく元気に、さっそうと見せたいし、かといって、落ち着かない印象は与えたくないし……あ、美容院の予約も必要だ……いやいや、外見ばかり気にしていても切がない。いつもの自分でいいのだ、と言い聞かせても、またここで心配になって、最近家事と育児に追われて、知識も話題も狭くなってるだろうから、友達と会っても少し話した後は話題も尽きてしまうのではないか、などと思い悩む。
そしていよいよ前日になると、すっかり新しく変わってしまったらしい都心のその駅の約束の場合に約束の時間までにちゃんと着けるだろうか、と極度に不安になり、結局、体調を理由に約束を取り消してしまったりするのだ。まったく我ながら情けない。
* 折に触れる:何かの折に。 かといって:そうは言っても。
* 言い聞かせる:説得する。 我ながら:自分でも。
問1:「心配になって」とあるが、何が心配なのか。
1. 着て行くものなど自分の外見が心配。
2. 出かけている間の家事と育児のことが心配。
3. 話題が尽きてしまうことが心配。
4. 慣れないところへ無事に行けるかどうか心配。
問2:何が「情けない」のか。
1. 外見や他人の印象ばかり気にする自分。
2. 知識や話題が狭くなってしまった自分。
3. 都心の様子が全く分からなくなってしまった自分。
4. 心配ばかりして、結局約束を取り消してしまう自分。
正解:3、4
温泉地の旅館で、海の幸山の幸を取り揃えた夕食を食べながら、近頃の宿の食事について嘆く人々の言葉を思い出した。日本全国どこへ行っても同じような食事しか出ないのは残念だと言うのである。
……人間の生活は自然の環境条件に左右されており、食べ物にも当然地域の特性が表れるはずだと考えれば、いちおう正当な批評のようにも聞こえる。
何が、ほんの少し前までは想像も付かなかったほど激変している今日の食料品の生産、加工技術や流通システムの実態を知るにつれて、gはこれがかなり的外れなものであることが、私には次第にはっきり分かってきた。(加藤秀俊「日本人の食生活」)
* 想像が付く:想像できる。 的外れ:当たっていない。正しくない。
問1:何が「想像もつかなかった」のか。
1. 旅館でこんなにいろいろな種類のごちそうが出るということ。
2. 全国どこへ行っても同じような食事が出るということ。
3. 食べ物には、それぞれの地域の特徴が出るはずだということ。
4. 現在のような食品の生産?加工?流通システムができるということ。
問2:何が「はっきり分かってきた」のか。
1. 今日では旅館が海の幸山の幸を取り揃えるのは簡単だということ。
2. 今日では食べ物に地域の特性表れにくいということ。
3. 食料品を扱う会社システムが昔と今とでは全く違うということ。
4. 現在の食料品の生産?加工?流通システムは良くないということ。
正解:4、2
学校に着くと、待ち構えていたように皆が僕の回りに寄ってきた。「勇ちゃん、どうだった?やっぱりなかった?」僕は急にどきどきし、顔が真っ赤になるのが分かった。一瞬、よっぽど「うん。」と言ってしまおうかと思った。でも、それでは嘘つきになってしまう。それに、せっかく苦労して手に入れた物を、ずっとだれにも見せないで、隠しておかなければならなくなる。僕は下を向いたまま、思い切って言った。「ごめん、机の上にあった。僕の勘違いだった……」
雑誌の後ろの頁に「○○の切手あり。××の切手と交換希望」と出ていたのを見つけて相手に連絡し、その切手が届くまでの三日間の長かったこと。それを昨日、皆に自慢しようと、切手帳に入れて学校に持ってきた、と思ったのだ。昼休みに見せようとしたらなかったので、大騒ぎになってしまった。先生が「きっと家にあるから」と言い、一応家に電話して留守で、僕はもう午後の授業は手につかなかった。だれかが盗ったのだ、一体だれなんだ、とそんなことばかりを考えていた。そして家で切手を見つけてからは、あんなに絶対持ってきたと言って大騒ぎをしたあげく家にあったと言ったら、皆に何と言って責められるかとそればかりを考えていたのだ。
一瞬の沈默の後、「なんだ。やっぱりそうだったのか。勇ちゃん、無くなったんじゃなくてよかったなあ。」と、実君が言った。顔を上げると皆が笑っていた。皆僕のために喜んでくれている。意外だった。僕は泣きたいくらいうれしかった。こんなに良い友達のことを僕は……僕は自分がたまらなく恥ずかしかった。
問1:何が「勘違いだった」のか。
1. 筆者のいったこと。
2. 切手を手に入れたこと。
3. 先生の言ったこと。
4. 家が留守だとおもったこと。
問2:何が「意外だった」のか。
1. 切手が家にあったこと。
2. 皆が「どうだった」と聞いたこと。
3. 皆が筆者を責めると思ったこと。
4. 皆が筆者のために喜んでくれたこと。
問3:どんなことが「たまらなく恥ずかしかった」のか。
1. 勘違いしたこと。
2. 大騒ぎしたこと。
3. 皆の前で謝らなければならなかったこと。
4. 皆の気持ちを誤解していたこと。
正解:1、4、4