「千の手に残る団子。」
湯婆婆 んん……?
従業員 砂金だ!!
砂金だ!わあーっ!
湯婆婆 静かにおし!お客さまがまだおいでなんだよ!千!お客さまの邪魔だ、そこを下りな!大戸を開けな!お帰りだ!!
河の主 あははははははははは……
神様達 やんやーーやんやーー!!
湯婆婆 セーン!よくやったね、大もうけだよ!ありゃあ名のある河の主だよ~。みんなも千を見習いな!今日は一本付けるからね。
みんな おぉーー!!
湯婆婆 さ、とった砂金を全部だしな!
みんな えぇーーっ!そりゃねえやな……
「仕事が終わって、部屋の前でくつろぐ千。」
リン 食う?かっぱらってきた。
千 ありがとう。
リン あー、やれやれ……
千 ……ハク、いなかったねー。
リン まぁたハクかよー。……あいつ時々いなくなるんだよ。噂じゃさぁ、湯婆婆にやばいことやらされてんだって。
千 そう……
女 リン、消すよー。
リン あぁ。
千 街がある……海みたい。
リン あたりまえじゃん、雨が降りゃ海くらいできるよ。おれいつかあの街に行くんだ。こんなとこ絶対にやめてやる。
「ふと、団子をかじってみる千。」
千 ヴッ…うぅっ……リン ん?……どうした?
「人気のない大湯に忍び込む青蛙。」
青蛙 ん?んんーーっ…………砂金だ!……あ。
おぬし!何者だ。客人ではないな。そこに入ってはいけないのだぞ!
……おっ!おっ、金だ金だ!こ、これをわしにくれるのか?
カオナシ あ、あ……
青蛙 き、金を出せるのか?
カオナシ あ、あ、……
青蛙 くれ~っ!!
青蛙 わあっ!!!
「カオナシにひとのみにされる青蛙。」
兄役 誰ぞそこにおるのか?消灯時間はとうに過ぎたぞ。うっ……?
カオナシ 兄役どの、おれは腹が減った。腹ぺこだ!
兄役 そ、その声は……
カオナシ 前金だ、受け取れ。わしは客だぞ、風呂にも入るぞ。みんなを起こせぇっ!
千 お父さんお母さん、河の神様からもらったお団子だよ。これを食べれば人間に戻れるよ、きっと!
「たくさんの豚が一斉にこっちを見る。」
千 お父さんお母さんどこ?おとうさーん……
千 ハッ!……やな夢。……リン?……誰もいない……
千 わぁっ、本当に海になってる!ここからお父さんたちのとこ見えるんだ。釜爺がもう火を焚いてる。そんなに寝ちゃったのかな……
兄役 お客さまがお待ちだ、もっと早くできんのか!?
父役 生煮えでもなんでもいい、どんどんお持ちしろ!
リン セーン!
千 リンさん。
リン 今起こしに行こうと思ったんだ。見な!本物の金だ、もらったんだ。すげー気前のいい客が来たんだ。
「大湯に浸かってごちそうを食べまくるカオナシ。」
カオナシ おれは腹ぺこだ。ぜーーんぶ持ってこい!
千 そのお客さんって……
リン 千も来い。湯婆婆まだ寝てるからチャンスだぞ。
千 あたし釜爺のとこ行かなきゃ。
リン 今釜爺のとこ行かない方がいいぞ、たたき起こされてものすごい不機嫌だから!
女たち リン、もいっかい行こ!
リン ああ!
「部屋に戻る千。」
千 ……おとうさんとおかあさん、分からなかったらどうしよう。おとうさんあんまり太ってたらやだなー。
はあ……
「海の中を白い竜が式神に追いかけられていく。」
千 ん?……あぁっ!橋のとこで見た竜だ!こっちに来る!なんだろう、鳥じゃない!……ひゃっ!ハクーっ、しっかりーっ!こっちよーっ!!……ハク!?ハクーっ!!
「部屋に竜が飛び込む。窓を閉めようとする千に、式神が飛びかかる。」
千 うわぁっ!わぁああーっ!!……あっ?……ただの紙だ……
千 ハクね、ハクでしょう?ケガしてるの?あの紙の鳥は行ってしまったよ。もう大丈夫だよ。……わっ! 湯婆婆のとこへ行くんだ。どうしよう、ハクが死んじゃう!
「竜を追って走り出す千の肩に式神が張り付く。」
兄役 そーれっ、さーてはこの世に極まれる?お大尽さまのおなりだよ?そーれっみんな いらっしゃいませ!!
兄役 それおねだり?あ、おねだり?おねだり?
「騒ぎの中をエレベータへ駆けていく千。」
蛙男 おっ…と。こら、何をする。
千 上へ行くんです。
蛙男 駄目だ駄目だ。……ん?あっ!血だ!!
千 あっ……
兄役 どけどけ!お客さまのお通りだ!
千 あ、あのときはありがとうございます。
兄役 何をしてる、早ぅど……うっ!?
カオナシ あ、あ、あ……
「千に両手いっぱいの金を差し出す。」
カオナシ え、え、……
千 ……欲しくない。いらない!
カオナシ え、え……
千 私忙しいので、失礼します!
「こぼした金に群がる群衆をすり抜けて千が出ていく。」
兄役 ええい、静まれ!静まらんか!!下がれ下がれ!これは、とんだご無礼を致しました。なにぶん新米の人間の小娘でございまして……
カオナシ ……おまえ、何故笑う。笑ったな。
兄役 ぇえっ、めっそうもない!
兄役?湯女 わっ、わっ、わああっ!
「丸呑みにされる兄役と湯女。皆がパニックで散っていく。」