阿Qはようやく立ちどまって首をかしげて訊いた。「なんだね」
「Qさま……当節は……」と趙太爺は口を切ったが、言い出す言葉もなかった。「当節は……素晴らしいもんだね」
「素晴らしいと? あたりまえよ。何をしようが乃公の勝手だ」
「……Q、わしのような貧乏仲間は大丈夫だろうな」と趙白眼はこわごわ訊いた。革命党の口振りを探るつもりであったらしい。
「貧乏仲間? てめえは乃公より金があるぞ」阿Qはそう言いながらすぐに立去った。
みんな萎れ返って物も言わない。趙家の親子は家(うち)に入って灯(ひ)ともしごろまで相談した。趙白眼も家(いえ)に帰るとすぐに腰のまわりの搭連をほどいて女房に渡し、箱の中に蔵(おさ)めた。
阿Q这才站住,歪着头问道,“什么?”
“老Q,……现在……”赵太爷却又没有话,“现在……发财么?”
“发财?自然。要什么就是什么……”
“阿……Q哥,像我们这样穷朋友是不要紧的……”赵白眼惴惴的说,似乎想探革命党的口风。
“穷朋友?你总比我有钱。”阿Q说着自去了。
大家都怃然,没有话。赵太爷父子回家,晚上商量到点灯。赵白眼回家,便从腰间扯下搭连来,交给他女人藏在箱底里。
阿Qは一通りぶらぶら飛び廻って土穀祠(おいなりさま)に帰って来ると、もう酔(よい)は醒めてしまった。
その晩、廟祝(みやばん)の親父も意外の親しみを見せて阿Qにお茶を薦めた。阿Qは彼に二枚の煎餅をねだり、食べてしまうと四十|匁(め)蝋燭の剰(あま)り物を求めて燭台を借りて火を移し、自分の小部屋へ持って行ってひとり寝た。彼は言い知れぬ新しみと元気があった。蝋燭の火は元宵(げんしょう)(正月)の晩のようにパチパチと撥(は)ね迸(ほとばし)ったが、彼の思想も火のように撥ね迸った。
「謀反? 面白いな……来たぞ来たぞ。一陣の白鉢巻、白兜、革命党は皆ダンビラをひっさげて鋼鉄の鞭、爆弾、大砲、菱[#「菱」は底本では「萎」]形に尖った両刃の劒(けん)、鎖鎌。土穀祠(おいなりさま)の前を通り過ぎて『阿Q、一緒に来い』と叫んだ。そこで乃公は一緒に行(ゆ)く、この時未荘の村烏(むらがらす)、一群の男女こそは、いかにも気の毒千万だぜ。『阿Q、命だけはどうぞお赦(ゆる)し下さいまし』誰が赦してやるもんか。まず第一に死ぬべき奴は小Dと趙太爺だ。その外秀才もある。偽毛唐もある。……残る奴ばらは何本ある? 王(ワン)なんて奴は残してやるべき筋合の者だが、まあどうでもいいや……」
阿Q飘飘然的飞了一通,回到土谷祠,酒已经醒透了。这晚上,管祠的老头子也意外的和气,请他喝茶;阿Q便向他要了两个饼,吃完之后,又要了一支点过的四两烛和一个树烛台,点起来,独自躺在自己的小屋里。他说不出的新鲜而且高兴,烛火像元夜似的闪闪的跳,他的思想也迸跳起来了:
“造反?有趣,……来了一阵白盔白甲的革命党,都拿着板刀,钢鞭,炸弹,洋炮,三尖两刃刀,钩镰枪,走过土谷祠,叫道,‘阿Q!同去同去!’于是一同去。……
“这时未庄的一伙鸟男女才好笑哩,跪下叫道,‘阿Q,饶命!’谁听他!第一个该死的是小D和赵太爷,还有秀才,还有假洋鬼子,……留几条么?王胡本来还可留,但也不要了。……
「品物は……すぐに入り込んで箱を開けるんだ。元宝(げんほう)、銀貨、[#「、」は底本では空白]モスリンの著物……秀才婦人の寝台をまずこの廟(おみや)の中へ移して、そのほか錢家の卓と椅子。あるいは趙家の物でもいい。自分は懐ろ手して小Dなどは顎でつかい、おい、早くやれ。愚図々々するとぶんなぐるぞ」
「趙司晨の妹はまずい。鄒七嫂の小娘は二三年たってから話をしよう。偽毛唐の女房は辮子の無い男と寝てやがる、はッ、こいつはたちが好(よ)くねえぞ。秀才の女房は眼蓋(まぶた)の上に疵(きず)がある――しばらく逢わないが呉媽はどこへ行ったかしらんて……惜しいことにあいつ少し脚が太過ぎる」
阿Qは彼の胸算用がすっかり片づかぬうちにもう鼾をかいた。四十匁蝋燭は燃え残って五分ほどになり、赤々と燃え上る火光(かこう)は、彼の開け放しの口を照した。
「すまねえ、すまねえ」阿Qはたちまち大声上げて起き上った。頭を挙げてきょろきょろあたりを見廻して四十匁蝋燭に目をつけると、すぐにまた頭をおろして睡(ねむ)ってしまった。
“东西,……直走进去打开箱子来:元宝,洋钱,洋纱衫,……秀才娘子的一张宁式床先搬到土谷祠,此外便摆了钱家的桌椅,——或者也就用赵家的罢。自己是不动手的了,叫小D来搬,要搬得快,搬得不快打嘴巴。……
“赵司晨的妹子真丑。邹七嫂的女儿过几年再说。假洋鬼子的老婆会和没有辫子的男人睡觉,吓,不是好东西!秀才的老婆是眼胞上有疤的。……吴妈长久不见了,不知道在那里,——可惜脚太大。”
阿Q没有想得十分停当,已经发了鼾声,四两烛还只点去了小半寸,红焰焰的光照着他张开的嘴。
“荷荷!”阿Q忽而大叫起来,抬了头仓皇的四顾,待到看见四两烛,却又倒头睡去了。
次の日彼は遅く起きて往来に出てみたが、何もかも元の通りであった。彼はやっぱり肚が耗(へ)っていた。彼は何か想っていながら想い出すことが出来なかった。たちまち何かきまりがついたような風で、のそりのそりと大跨に歩き出した。そうして有耶無耶のうちに靜修庵(せいしゅうあん)についた。
庵は春の時と同じような静けさであった。白壁と黒門、彼はちょっと思案して前へ行って門を叩いた。一疋(いっぴき)の狗が中で吠えた。彼は急いで瓦のカケラを拾い上げ、もう一度前へ行って、今度は力任せにぶっ叩いて黒門の上に幾つも痘瘡(あばた)が出来た時、ようやく人の出て来る足音がした。
阿Qは慌てて瓦を持ちなおし馬のように足をふんばって、黒狗と開戦の準備をした。だが庵門はただ一すじの透間(すきま)をあけたのみで、黒狗が飛び出すことはないと見たので、近寄って行(ゆ)くと、そこに一人の老いたる尼がいた。
第二天他起得很迟,走出街上看时,样样都照旧。他也仍然肚饿,他想着,想不起什么来;但他忽而似乎有了主意了,慢慢的跨开步,有意无意的走到静修庵。
庵和春天时节一样静,白的墙壁和漆黑的门。他想了一想,前去打门,一只狗在里面叫。他急急拾了几块断砖,再上去较为用力的打,打到黑门上生出许多麻点的时候,才听得有人来开门。
阿Q连忙捏好砖头,摆开马步,准备和黑狗来开战。但庵门只开了一条缝,并无黑狗从中冲出,望进去只有一个老尼姑。
「お前はまた来たのか。何の用だえ」と尼は呆れ返っていた。
「革命だぞ。てめえ知っているか」と阿Qは口籠(くちごも)った。
「革命、革命とお言いだが、革命は一遍済んだよ。……お前達は何だってそんな騒ぎをするんだえ」尼は眼のふちを赤くしながら言った。
「何だと?」阿Qは訝(いぶか)った。
「お前はまだ知らないのだね。あの人達はもう革命を済ましたよ」
「誰だ?」阿Qは更に訝った。
「秀才と偽毛唐さ」
你又来什么事?”伊大吃一惊的说。
“革命了……你知道?……”阿Q说得很含胡。
“革命革命,革过一革的,……你们要革得我们怎么样呢?”老尼姑两眼通红的说。
“什么?……”阿Q诧异了。
“你不知道,他们已经来革过了!”
“谁?……”阿Q更其诧异了。
“那秀才和洋鬼子!”
阿Qは意外のことにぶっつかってわけもなく面喰った。尼は彼の出鼻をへし折って隙(すか)さず門を閉<