第五章 生計問題
阿Qはお礼を済ましてもとのお廟(みや)に帰って来ると、太陽は下りてしまい、だんだん世の中が変になって来た。彼は一々想い廻した結果ついに悟るところがあった。その原因はつまり自分の裸にあるので、彼は破れ袷がまだ一枚残っていることを想い出し、それを引掛けて横になって眼を開けてみると太陽はまだ西の墻(まがき)を照しているのだ。彼は起き上りながら「お袋のようなものだ」と言ってみた。
彼はそれからまたいつものように街に出て遊んだ。裸者の身を切るようなつらさはないが、だんだん世の中が変に感じて来た。何か知らんが未荘の女はその日から彼を気味悪がった。彼等は阿Qを見ると皆門の中へ逃げ込んだ。極端なことには五十に近い鄒七嫂まで人のあとに跟(つ)いて潜り込み、その上十一になる女の児(こ)を喚び入れた。阿Qは不思議でたまらない。「こいつ等(ら)はどれもこれもお嬢さんのようなしなしていやがる。なんだ、売淫(ばいた)め」
阿Q礼毕之后,仍旧回到土谷祠,太阳下去了,渐渐觉得世上有些古怪。他仔细一想,终于省悟过来:其原因盖在自己的赤膊。他记得破夹袄还在,便披在身上,躺倒了,待张开眼睛,原来太阳又已经照在西墙上头了。他坐起身,一面说道,“妈妈的……”
他起来之后,也仍旧在街上逛,虽然不比赤膊之有切肤之痛,却又渐渐的觉得世上有些古怪了。仿佛从这一天起,未庄的女人们忽然都怕了羞,伊们一见阿Q走来,便个个躲进门里去。甚而至于将近五十岁的邹七嫂,也跟着别人乱钻,而且将十一的女儿都叫进去了。阿Q很以为奇,而且想:“这些东西忽然都学起小姐模样来了。这娼妇们……”
阿Qはこらえ切れなくなってお馴染(なじみ)の家(うち)に行って探りを入れた。――ただし趙家の閾(しきい)だけは跨(また)ぐことが出来ない――何しろ様子がすこぶる変なので、どこでもきっと男が出て来て、蒼蝿(うるさ)そうな顔付(かおつき)を見せ、まるで乞食(こじき)を追払(おっぱら)うような体裁で
「無いよ無いよ。向うへ行ってくれ」と手を振った。
阿Q忍不下去了,他只好到老主顾的家里去探问,——但独不许踏进赵府的门槛,——然而情形也异样:一定走出一个男人来,现了十分烦厌的相貌,像回复乞丐一般的摇手道:
“没有没有!你出去!”
阿Qはいよいよ不思議に感じた。
この辺の家(うち)は前から手伝が要るはずなんだが、今急に暇になるわけがない。こりゃあきっと何か曰くがあるはずだ、と気をつけてみると、彼等は用のある時には小DON(しょうドン)をよんでいた。この小Dはごくごくみすぼらしい奴で痩せ衰えていた。阿Qの眼から見ると王※[#「髟/胡」、149-6]よりも劣っている。ところがこの小わッぱめが遂に阿Qの飯碗を取ってしまったんだから、阿Qの怒(いかり)尋常一様のものではない。彼はぷんぷんしながら歩き出した。そうしてたちまち手をあげて呻(うな)った。
「鉄の鞭で手前を引ッぱたくぞ」
阿Q愈觉得稀奇了。他想,这些人家向来少不了要帮忙,不至于现在忽然都无事,这总该有些蹊跷在里面了。他留心打听,才知道他们有事都去叫小Don。这小D,是一个穷小子,又瘦又乏,在阿Q的眼睛里,位置是在王胡之下的,谁料这小子竟谋了他的饭碗去。所以阿Q这一气,更与平常不同,当气愤愤的走着的时候,忽然将手一扬,唱道:
“我手执钢鞭将你打!……”
幾日かのあとで、彼は遂に錢府(せんふ)の照壁(衝立(ついたて)の壁)の前で小Dにめぐり逢った。「讎(かたき)の出会いは格別ハッキリ見える」もので、彼はずかずか小Dの前に行(ゆ)くと小Dも立止った。
「畜生!」阿Qは眼に稜(かど)を立て口の端へ沫(あわ)を吹き出した。
「俺は虫ケラだよ。いいじゃねぇか……」と小Dは言った。
几天之后,他竟在钱府的照壁前遇见了小D。“仇人相见分外眼明”,阿Q便迎上去,小D也站住了。
“畜生!”阿Q怒目而视的说,嘴角上飞出唾沫来。
“我是虫豸,好么?……”小D说。
したでに出られて阿Qはかえって腹を立てた。彼の手には鉄の鞭が無かった。そこでただ殴るより仕様がなかった。彼は手を伸して小Dの辮子を引掴むと、小Dは片ッぽの手で自分の辮根(べんこん)を守り、片ッぽの手で阿Qの辮子を掴んだ。阿Qもまた空いている方の手で自分の辮根を守った。
以前の阿Qの勢(いきおい)を見ると小Dなど問題にもならないが、近頃彼は飢餓のため痩せ衰えているので五分々々の取組となった。四つの手は二つの頭を引掴んで双方腰を曲げ、半時間の久しきに渡って、錢府の白壁の上に一組の藍色の虹形(にじがた)を映出(えいしゅつ)した。
「いいよ。いいよ」見ていた人達はおおかた仲裁する積りで言ったのであろう。
「よし、よし」見ている人達は、仲裁するのか、ほめるのか、それとも煽(おだ)てるのかしらん。
这谦逊反使阿Q更加愤怒起来,但他手里没有钢鞭,于是只得扑上去,伸手去拔小D的辫子。小D一手护住了自己的辫根,一手也来拔阿Q的辫子,阿Q便也将空着的一只手护住了自己的辫根。从先前的阿Q看来,,小D本来是不足齿数的,但他近来挨了饿,又瘦又乏已经不下于小D,所以便成了势均力敌的现象,四只手拔着两颗头,都弯了腰,在钱家粉墙上映出一个蓝色的虹形,至于半点钟之久了。
“好了,好了!”看的人们说,大约是解劝的。
“好,好!”看的人们说,不知道是解劝,是颂扬,还是煽动。