『白夜の終わり』
「11歳の時、俺たちは出会った。
俺は雪穂を守るため、父親を殺した。
その俺をかばうため、雪穂は母親を殺した。
俺たちは、その罪を隠すために、他人でいることを約束し、
別れた。
だけど、7年後、俺たちは再会し、
いつの日かもう一度、二人で太陽の下を歩くことを
約束した。
それは、罪に罪を重ねて、生きていく方法しかなかったんだ。
崩れ始める、二人の絆。」
=2000年1月=
弥生子(麻生祐未)を訪ねていく古賀(田中幸太朗)と笹垣(武田鉄矢)。
以前置いていった笹垣ノートには、亮司(山田孝之)と雪穂(福田麻由子)、
松浦(渡部篤郎)のことまでが、びっしりと書かれていた。
「ご覧になっていただけましたか?」古賀が聞く。
「あの子もう死んでいるのよ。」
「もし、生きていたらという過程で、結構です。」
「私、もともと生みたくなかったんですよね。
ホステスと客の関係で、桐原が子供欲しいっていうから
仕方なく生んだようなもんで。
文句があるなら死んだ桐原に言いなさいよ。」
タバコをふかしながら答える弥生子。
「親としての責任は感じないんですか?」怒ったように古賀が聞く。
「一番の被害者は私よ!
子供産まされて、ダンナは愛人に殺されるし、
いまだに刑事に付きまとわれるし!」
「亮司君は、そんな父親と母親の、被害者だとは思わないんですか!?」
返す言葉のない弥生子。
黙って聞いていた笹垣が笑みを浮かべた。
古賀は来月転勤の前に、笹垣に恩返ししたいと思っていた。
「有給たまっているし、探偵ごっこでもやってみます!
笹垣さんは心入れ替えて、普通に仕事して下さいよ。
この間だって署長に笹垣さんの島流しの相談、本気でされましたからね!」
古賀の言葉に嬉しそうに微笑む笹垣。
弥生子は、古賀に言われた言葉と、亮司の「ありがとう」と自分に言ってくれた
言葉を思い出しながら帆船の切り絵を見つめ・・・。
弥生子は興信所を訪れ、松浦の居場所を調べてほしいと頼む。
「何か手がかりになるようなものは?」
「傷害の前科があったんで。」
古賀が弥生子を見張っていた。
亮司の元に雪穂から郵便物が届く。中には
『恩を着せられるのも気分が悪いので』
と書かれたメモと、通帳と印鑑が入っていた。
「冷静になれば、雪穂の言っていることはもっともだった。
だけど、雪穂がやって来たことだって、罪悪感を逆手に取った
脅迫だ。
ねじれていく論理。
正当化される犯罪。
罪だけが重ねられる泥沼に・・・
二人でいると、沈み込んでしまうことに気付いた。」
亮司は雪穂の秘密を写したネガを買い戻したいと松浦に持ちかけたが
応じてくれない。
「お前、このネガがなきゃ、俺と縁が切れると思ってるんだろう?」
「思ってませんよ。」
「まあ、榎本にくっついていけば、俺といるよりおいしいもんな。」
「言っとくけどそれ持ってたってたいして利かないよ。
俺もうあの女のために何もするつもりないから。」
「じゃあ・・・俺が何してもいいの?」
「いいけど。なんかしたら自首するよ。
あんたもあの女も全員道連れに。」
突然笑い出す松浦。
「したらお前、今度は榎本にぶっ殺されるな。」
「亮ちゃんさ、白夜って知ってる?
夜なのに太陽が出ててさ。
夜が、昼みたいになってさ。」
「なんだよそれ。」
「だらだらぐずぐず、人生は続くって話!」
「なぁ・・・雪穂。
白夜ってさ、
奪われた夜なのかな。
与えられた昼なのかな。
夜を昼だと見せかける太陽は、
悪意なのか、善意なのか。
そんなことを考えた。
いずれにしろ・・・俺はもう嫌気がついていたんだ。
昼とも夜ともつかない世界を歩き続けることに。」
部屋で一人、サングラスをつけたり外したりしながら光を見つめる亮司。
そこへ友彦(小出恵介)がやって来た。
「何してるの?」
「・・・昼間歩きたい。
俺の人生、白夜の中を歩いているようなもんだからさ。」
「終りにしよう。何もかも。
あなたの為に・・・俺の為に・・・。」
大学に篠塚(柏原 崇)がやって来た。
副部長が江利子に部活に出るよう伝えて欲しいと言うと
篠塚は厳しい視線で雪穂を見つめ
「言っておいてくれる?友達なんだし。」と言い立ち去った。
亮司は松浦が榎本のところへ行き、自分を通して仕事をするよう勝手に
話を付けたと知る。
友彦は亮司に、松浦に対して弱いのはどうしてなのか聞いてみる。
「恩があるからな。
親父商売やってたんだよ。
わりと早くに親父死んでさ。
そのあと松浦さんが店を切り盛りしてくれてたんだよ。」
「松浦さん店員やってたの?え?何の?」
「・・・・・」
ヤキトリ屋。
「イサムちゃん、ムショでてから暫く、質屋で店員やってたんだよ。」
ヤキトリ屋店主の話に驚く友彦。
突然友彦のイスがひっくり返る。松浦が蹴ったのだ。
「しゃべってんじゃねーよ、余計なことー。
ふーん。何聞きたいのかな、友ちゃーん。」
図書館で本を選ぶ雪穂。谷口真文(余貴美子)が小声で話しかける。
「あの話、どうなった?よろめいている友達!」
「なんか、別れたみたいです。」
「そうなの?じゃあ新しい彼と?」
「どっちも、上手くいかなかったみたいですよ。」
「あら・・・そう。何で?」
「・・・あの、10年も20年も同じ気持ちではいられないけど、
何なんですか?
隣の息子にときめいているって。」
「あ、私ね。
ときめくって言ってもさぁ。
もし、ダンナがいなくて、心に何の余裕もなかったら、
私果たして隣の息子にドキドキするのかなーって、
はたと考えちゃうのよ。
まあ、ときめくっていう気持ちも、ダンナのおかげかーって思うとさ、
うち帰ってご飯作っちゃうわけだ。
・・・どうしたの?」
雪穂は自分を信じられないと言った亮司の言葉を思い出していた。
「その話、友達にしてあげたかったなーと思って。
ほんとバカですよね、その子。」
ヤキトリ屋店主に呼ばれ店に駆けつける亮司。
店の裏で友彦が松浦にボコボコにされていた。
「お前、こいつのことちゃんと教育しておけよっ!
人のこと寄生虫呼ばわりしやがってよ!」
「本当のことだろう。」亮司は小さく呟き友彦に駆け寄る。
「おい!いい機会だから教えといてやるよ。
こいつな、」
「おいっ!」
「あれ?自首するんじゃなかったっけ?単なる脅し?
お前、俺と全然変わんねーじゃん。」
「わかったから止めろ!」
亮司に掴みかかる松浦。
「わかりましたから止めてくださいだろっ!」
「・・・わかりましたから、もう止めて下さい。」
「そうやってイイコにしてればさ、悪いようにはしないよー。」
松浦はそう言い帰っていった。
亮司は松浦の背中を見つめ・・・。
そんな亮司を心配そうに見つめる友彦。
笹垣が古賀の車に戻り、買ってきたパンを渡す。
マイ七味をかけてパンを頬張る古賀。
弥生子が興信所を使って何かを調べていたこと、
そして松浦は住民登録した場所にはいなかったことを報告する。
「みんな好きやなー。かくれんぼが。」笹垣が呟いた。
雪穂との優しい思い出を思い浮かべながら、松浦のことを考える亮司。
公衆電話をちらっと見つめ、再び歩き出す。
学校の帰り道、江利子にお茶していこうと声をかける雪穂。
「あんまり寄り道したくないんだ。・・・ごめんね。」
江利子は力なく微笑み、迎えに来た母親の車に乗り帰っていった。
江利子を乗せた車を見送る雪穂・・・。
友達に呼ばれ、笑顔を浮かべる雪穂の表情が固まる。松浦が現れたのだ。
切り絵で作った人形を、ザクザクとハサミで切り刻む亮司・・・。
「あいつさー、自首するとか言い出してさー。
あんたも今更、困るよねー。
そんなことさせたくねーよなー。」
「どおうしろって言うんですか?」
「より戻してやってくれない?
あんたといれば、あいつ、変な気起こさないから。」
「逆らったら、今度は私が亮と同じ目に遭うんですよね。
売春させられたり、たかられたり。」
「フフン。かもね。」
松浦が去った直後、雪穂は怖い表情で篠塚に電話を入れる。
友彦が亮司に言う。
「殴られたの、あれ俺が悪いんだよ。
松浦さんさ、最初は普通に話してくれてたんだよ。」
「何て?」
「お前の親父さんが事故で亡くなった後、俺は亮と亮の母親を守ったって
言ってた。
亮は何だかんだ言ったって、俺がいないと生きていけないんだって。
俺が見てるとそうじゃないからさ、つい俺言っちゃったんだよ。
それって、松浦さんのことじゃないんですかって。
したらいきなり怒り出して。
お前、俺なんかいない方がいいっていうのかって。」
切り刻んだ切り絵をみつめる亮司・・・。
友彦と亮司はヤキトリ屋の店主に話を聞く。
「俺が言ったって言うなよ。
勇ちゃんさー、おふくろさんが浮気して出来た子なんだってさ。
世間体を気にする家で、
まぁ、そのまま実子として育てることにしたわけさー。
お袋さん小さい頃から勇ちゃんに、あんたは本物の子じゃないんだから
遠慮しろって、そう言いくるめながら育てたらしいんだ。
勇ちゃんはそれに反抗するように、パチモンの商売始めて、
下手打って止められて、
そん時アニキがさ、あ、本物ね、
お前死ね、生まれてくるんじゃなかったんだ、
お前なんかいない方がいいって言ったんだと。
お袋さん、ごまかすように笑ってな。
勇ちゃん、そのお袋さんとアニキを刺して、
傷害食らったんだよ。」
「お前に見捨てられるの、怖いんじゃないかな、松浦さん。」
友彦が言った言葉が、
「亮に見捨てられたら、私ほんと一人ぼっちなんだよ。」
雪穂の言葉と重なる。
「脅したり、殴ったりするのはさ、愛情の裏返しっていうか。」と友彦。
「だからって・・・俺、それを受け入れ続けなきゃいけないの?」
「俺が想像してる、お前の考えている方法より、
その方がマシだと思う。
お前な、本当の強さっていうのはな、
打たれても打たれても、また立ち上がる力のことだぞ!」
トイレを我慢していた友彦はそう言いながら銭湯に駆け込む。