雪だゆまは、女中さんの部屋の赤々と燃えるストーブを見た途端、「あっ、僕の身体の中で、またミシミシ音がする。なんだかぼく、どうしてもストーブのそばに行きたい。」
「何言ってるの。あんたがストーブに寄り添ったら、溶けちまうよ。」
犬が言うと、雪だるまは言い返しました。
「溶けたって構いません。僕は、ストーブのそばにいかなくてはならない気持ちなんです。」
いぬはあきれて、「そんなこと言ったって、誰があんたを部屋に入れるもんかね。」
そう言いながら小屋に戻って、目を閉じました。
雪だるまは、ただもう、ジッとストーブを見つめて立っていました。
辺(へん)が暗くなってくると、ストーブの火はますます赤くなって、とても美しく見えました。
お日さまの光ともお月さまの光とも違う、穏やかで全てを包んでくれそうな光でした。
女中さんが時々、ストーブの口を開けて薪をくべると、炎がサッと飛(と)び出し、外の雪だるまの顔まで赤く赤く照らします。
「ああ、どうしてだろう?」
雪だるまは、つぶやきました。
「ぼくは、ストーブが大好きになったらしい。なぜだかわからないけど、そばに行きたくてたまらない。」
その夜はとても寒く、女中さんの部屋の窓ガラスいっぱいに、氷の花が咲きました。
寒くて気持ちがいいはずなのに、雪だるまは悲しくなりました。
だって、氷の花がストーブの姿を、見えなくしてしまったのですから。
朝がきました。
犬が小屋から出て言いました。
「天気が変わるぞ。左足がズキズキと痛むんだ。」
確かに天気がかわりました。お日さまがギラギラと輝き出したのです。雪は、見る見るうちに溶け始めました。それは、雪だるまにはどうすることもできないことでした。
次の日の朝、犬は雪だるまの立っていたところに、ストーブの火かき棒が転がっているのを見付きました。
「そうか。雪だるまの体は火かき棒が芯になっていたのか。それで、あんなにストーブのそばに行きたがっていたんだ。」
犬はストーブの火かき棒に向かって、優しく言いました。
「おれはね、あんたのことを忘(わす)れないよ。」
そのとき、屋敷の中から、春の歌を歌う子供たちの明るい歌声(うたごえ)が聞こえました。
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