人生において一つの失敗などというものは、テニスの試合において点を一つ取られたようなものである。どんなに強い選手だって、点を一つも取られずに試合を進めることなどできまい、それと同様に、全く失敗なしに世の中を渡っていくことなど、できようはずがない。人生に成功と失敗があるのは、一日のうちに昼と夜があるようなものである。夜はどんなに偉い人も追い払うことはできない。僅かな失敗を気にして思い悩んでしまうのは、自分は失敗なしに生きていけるはずだという無意識の思い上がりが、心の奥底にあるからにほかならない。成功も失敗も時の運と思って、それにこだわらずひたすら最善を尽くす謙虚な心が、本当のスポーツマンシップなのである。この真のスポーツマン精神を身につけることこそ、人生を強く生き抜く心構えを鍛え上げるために何より大切でなことである、と僕はこのごろ考えている。
* 思い上がり:自分を立派だと思い込む気持ち。 こだわる:気にする。
* ひたすら:ただそれだけを熱心に。 心構え:基本的な心のあり方。
問1:何か(だれか)「追い払うことはできない」のか。
1. 人生。
2. 強い選手。
3. 夜。
4. 偉い人。
問2:だれか「思い上がり」を心に持っているのか。
1. 点を一つも取られずに試合を進めるテニスの選手。
2. 今まで失敗なしに人生を生きて来た人。
3. 小さい失敗で精神的に落ち込んでしまう人。
4. 成功しても失敗しても余り気にしない人。
問3:何か「大切なことである」のか。
1. 本当に強いスポーツ選手になるために、点を取られないよう頑張ること。
2. 成功とか失敗とかいった結果は気にせず努力すること。
3. 謙虚になって試合の相手の気持ちを大切にすること。
4. 失敗をなるべく少なくして、人生における勝利者になること。
正解:4、3、2
私の知っている寿司屋の若い主人は、亡くなった彼の父親を、いまだに尊敬している。死んだ肉親のことは多くの場合、美化されるのが普通だから、彼の父親追憶もそれではないかと聞いていたが、そのうち考えが変わってきた。
高校を出た時から彼は父親に、寿司の握りかた、めしのたきかた------寿司屋になるすべてを習った。父親は彼の飯の炊きかたが下手だとそれをひっくりかえすぐらい厳しかった。...。...ある日、たまりかねて、「なぜぼくだけに辛く当たるんだ」ときくと、「俺の子供だから辛く当たるんだ」と言いかえされたと言う。
父親が死に、一人前になって店をついでみると、その辛く当たられた技術が役にたち、なるほど、なるほどと彼はわかったそうである。
私はこの若主人の話を聞くたびに、羨ましいと心の底から思う。そこには我々がある意味で理想とする父親と子供の関係があるからである。
(遠藤周作「勇気ある言葉」)
問:「なるほど、なるほどと彼はわかった」とあるが、彼がわかったことは何か。
1. 父親が死んだ理由。
2. 店をついだ理由。
3. 父親が辛く当たった理由。
4. 筆者が彼を羨ましいと思っている理由。
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