人物:猪俣 すみれ
場面:お見合いの席で
猪俣:あの―、スミレさん、ご趣味は?
すみれ:はい。あの、音楽鑑賞やお茶お花など…
猪俣:そうですか。僕も音楽が好きで、よくCDを聴きます。スミレさんは、どんなジャンルの音楽が好きなのかな?
すみれ:はい。わたしはクラシックが好きなんです。小さい頃からピアノを習っておりまして、コンサートもよく出かけます。猪俣さんもクラシック、お好きですか?
猪俣:あ、僕ですか?僕はクラシックはあんまり…。あ、でも、ベートーベンの“第九”は、いい曲だなと思います。僕はもっぱらポップス系ばかりなんで…。あ、じゃあ、スポーツは何かやっていますか?テニスとか…?
すみれ:ええ、あまり得意ではありませんが、スキーを少々。テニスは苦手です。猪俣さんは?
猪俣:はあ。僕は寒いのが苦手なんで、ウィンタースポーツはどうも…。冬は温水プールとか、室内でテニスやバスケをする程度です。暑さには強いんですが…。
すみれ:私は暑いのは全然だめなんです。雪国育ちのせいかもしれませんが、外でスポーツをすると言えば、スキーで少し滑るくらいで…。雪の上って、ひんやりしてとっても気持ちがいいですよ。猪俣さんも一度なさってみてはいかがですか?
猪俣:あ、はい、そうですね。そうだ、今度、教えていただけませんか?
すみれ:えっ?私ですか?
猪俣:はい。ぜひ。スミレさんに教えてもらえば、僕も滑れるようになる気がするんです。
すみれ:そんな、私なんかとても…。それに、寒いのはお好きじゃないんでしょう?
猪俣:ええ。でも、一度やってみなくちゃ分からないでしょう?もしかしたら、自分が案外、スキーに向いているかもしれませんし、ね?
すみれ:はあ。ですけど、私もそんなに滑れるわけじゃないんですよ。
猪俣:いや、僕はまったくの初心者ですから、気にしないで下さい。それに、スキーをすれば汗もかくし、体もあったまるでしょう?大丈夫ですよ。
すみれ:ええ、まあ、そうですけど。でも、教えるなんて、そんな大げさなこと…。
猪俣:じゃあ、一緒に滑るとお考えになってみてはいかがですか?そうだ。早速、今度の冬にでも、ご一緒に行きませんか?それとも、ど素人の相手はおきらいとか…。
すみれ:いえ、そんなことは…。ただ、あんまりにも急いで…。
猪俣:いいじゃないですか。実は、本当のことを言いますと、今度のお見合いはあまり乗り気じゃなかったんです。でも、相手がスミレさんのような方で、ほんとによかったなあって、今思ってるんです。スミレさんも僕のこと気に入ってくださると嬉しいんですが。
すみれ:ええ、はあ、まあ。でも私たち。あまり趣味が合わないようですし。
猪俣:趣味が合わなくても、気があえばいいんじゃないですか。そうでしょう?
すみれ:まあ、ふふっ、面白いことをおっしゃる方ですね。