むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
彦一も年をとっておじいさんになり、とうとう死んでしまいました。
死んだ彦一が、ふと気がつくと、目の前にはなんと、地獄(じごく)のえんまさまがすわっています。
(しもうた。ここは、地獄じゃ)
だけど彦一は、少しもあわてません。
めいどヘ旅立つとき、彦一は黒ざとうと、白ざとうと、トウガラシを入れた、三段の重箱(じゅうばこ)をもたせてもらいました。
そのふたをあけ、黒ざとうから、さもうまそうになめはじめました。
「こら彦一、しんみょうに、おれさまのさばきをうけい。・・・やや、そこで、なにをなめているか」
えんまさまが、大目玉でにらみつけると、彦一はニッコリ笑って、
「うまいものです。ちょっとだけさしあげましょう」
と、言うと、黒と白のさとうをだしました。
「なるほど、たしかにうまい。・・・うん? その下のだんには、なにが入っておる」
「それでは、これもなめてください」
彦一がさしだしたのは、ほかでもない、真っ赤なトウガラシです。
えんまさまは、チョイとなめて、すぐにベッと、はきだしました。
だけど彦一は、なにくわぬ顔で、
「えんまさま、こりゃ、ひと口なめれば、からいもの。いちどに食べれば、うまいものです。いっペんにのみこまないといけません」
「そうか、では、はやくよこせ」
と、えんまさまは、重箱いっぱいのトウガラシを、一口でのみこんだものですから、たまりません。
たちまち、はらの中がにえくりかえり、口や目から火をふきました。
「あちち、あちち、もうたまらん!」
えんまさまはドタドタところげまわったあげく、赤い衣をぬぎすてて、水をかぶりにかけだしました。
手下のオニどもも、これはたいへんと、右ヘ左へ走りまわっています。
「では、わたしはこのすきに」
彦一は、えんまさまの赤い衣に着替えると、外へとびだしました。
そして、なにも知らない子オニたちに、こういいました。
「わたしはえんま大王であるぞ。ちと、天国まで用事があるので、すぐにカゴを用意しろ」
「はっ、ただいま!」
子オニたちは、急いでカゴを用意すると、彦一を天国まではこびました。
こうして彦一は、ぶじに天国で暮らすことができました。