本文:
(一)
知人二人が話しながら道を歩いている。Aは女性、Bは男性。
A すみません、ちょっと電話したいのですが。
B いいですよ。でも、いま電話があいていないから、少し待ちましょう。
A ええ。(ハンドバッグの中を捜す)
B ああ、このごろは電話もたいていカードですね。
A ええ、買い物もレストランも、私みんなカードです。
B そうですか、ぼくは何でも現金です。
A でも、カードのほうが安全ですよ、現金は落とすこともあるし、泥棒もいるし。
B それはそうですが、カードはどうも実感がなくてね。
A そうですか。
B 目の前で金が出て行くわけじゃないから、気楽に買い物をして、買いすぎるんです。
A そうですか。カードでも現金でも、必要なものは買うし、必要でないものは買いませんけど、私は。
B ぼくはだめですね。意志が弱いから。あ、電話があきましたよ。
A あら、このカード、もう終わりですね。
B それは残念。じゃ、この十円玉どうぞ。
(二)
夫婦の会話。デパートで。
妻:あら、これ、かわいいわ。買いましょうよ。
夫:これと同じようなのが、うちにいくつもあるじゃないか。
妻:でも、同じじゃないわ。少し違うわ。
夫:ぼく、もうお金持ってないよ。さっき君のクツを買ったもの。
妻:いいのよ。わたし、カード持っているから。
夫:カードはよくないよ。買いすぎるから。
妻:カードのほうが便利よ。それに消費税がつくと、一円玉が多くて面倒ですもの。
夫:しかたがない。でも、今日だけだよ、カードは。
妻:コーヒーカップ二つじゃ少ないから、あそこのお皿も買いましょうよ。
夫:あの皿、高そうだよ。
妻:大丈夫よ。お金まだ残っているわ。
夫:預金のことかい。
妻:ええ。けさ銀行に行って確かめたの。
夫:それはえらい。
妻:あと三千円ぐらい残るから、食堂で何か食べましょう。じゃ、ここ、払うわね。(カードを出す)
夫:ちょっとちょっと、それ、ぼくのカードじゃないか。
妻:そうよ。わたしのカードはもう残りがないもの。
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