「何だ?」 また自分の創作が邪魔されるのかと思ってすこぶる腹が立つ。 「薪を使い切ってしまいましたから、今日ちっとばかり買ったんですが。前には十斤で両吊四(リャンテウスー)だったのに、今日は両吊六(リャンテウリョウ)だというのです。私は両吊五(リャンテウウー)でもやればいいと思いますがいいでしょうか?」 「よし、よし。両吊五(リャンテウウー)でも」 「とても秤(はかり)を誤魔化(ごまか)すんですよ。薪屋はどうしても二十四斤半というのだけれど、私は二十三斤半で勘定してやればいいと思います。どうでしょうかね?」 「よし、よし。二十三斤半払ってやれ」 「それなら、五五の二十五、三五の十五……」 “什么?”他以为她来搅扰了他的创作,颇有些愤怒了。 “劈柴,都用完了,今天买了些。前一回还是十斤两吊四,今天就要两吊六。我想给他两吊五,好不好?” “好好,就是两吊五。” “称得太吃亏了。他一定只肯算二十四斤半;我想就算他二十三斤半,好不好?” “好好,就算他二十三斤半。” “那么,五五二十五,三五一十五,……” 「ウムウム――。五五の二十五、三五の十五……」 彼もまたそれから先きが言えなくなってちょっとまごついたが、たちまち躍起となって筆を採り、一行ばかり書きかけた「幸福の家庭」の原稿用紙の上に数字を書き始め、しばらく勘定してからやっと頭を挙げて云った。 「五吊八(ウーテウパ)だ!」 彼はテーブルの引き出しから有りったけの銅元を攫み出し、それは二三十よりは少くないものを、拡げている妻の掌(て)の上に置き、妻が出て行(ゆ)くのを見て、ようやく机に向ったが、彼の頭の中は薪駄っぽの事で一杯だった。五五の二十五と、まだ頭の中は亜剌比亜(アラビア)数字で混乱していた。彼は深く息を吸って、力強く吐き出してみた。これで頭の中から薪駄っぽと五五の二十五と、亜剌比亜(アラビア)数字の幻影を追い出そうと思ったのだ。果して、息を吐いてから気持も尠(すくな)からず軽くなった。そこでまた恍惚として思いを馳せるのであった―― 「どんな御馳走だろうな。珍奇な物でも差支えない。豚のロースの葛掛や粉海老の海参(いりこ)じゃあんまり平凡だ。乃公は是非とも彼等の食い物を『竜虎闘(りゅうことう)』にしたい。しかし『竜虎闘』とは一体どんな物かね? ある人はこれは蛇と猫を用い、広東(カントン)の貴重な料理で大きな宴会でなければ使わないと言ったが、わたしはかつて江蘇(こうそ)の飯屋の献立表でこれを見たことがある。江蘇人は蛇や猫なんかは食うはずがないからたぶん、蛙と鰻のことを指したのであろう。一体、この主人公と夫人は、どこの土地の人に規(き)めたんだっけな?――そんな事は彼等には関係がない。どこの国の人であろうが蛇や猫、あるいは蛙や鰻を一杯くらい食ったって、幸福な家庭を傷つけるものではない。で、つまりだ、最初の一碗は『竜虎闘』としておいても決して差支えない。 “唔唔,五五二十五,三五一十五,……”他也说不下去了,停了一会,忽而奋然的抓起笔来,就在写着一行“幸福的家庭”的绿格纸上起算草,起了好久,这才仰起头来说道: “五吊八!” “那是,我这里不够了,还差八九个……。”桌的抽屉,一把抓起所有的铜元,不下二三十,放在她摊开的手掌上,看她出了房,才又回过头来向书桌。他觉得头里面很胀满,似乎桠桠叉叉的全被木柴填满了,五五二十五,脑皮质上还印着许多散乱的亚剌伯数目字。他很深的吸一口气,又用力的呼出,仿佛要借此赶出脑里的劈柴,五五二十五和亚刺伯数字来。果然,吁气之后,心地也就轻松不少了,于是仍复恍恍忽忽的想——“什么菜?菜倒不妨奇特点。滑溜里脊,虾子海参,实在太凡庸。我偏要说他们吃的是‘龙虎斗’。但‘龙虎斗’又是什么呢?有人说是蛇和猫,是广东的贵重菜,非大宴会不吃的。但我在江苏饭馆的菜单上就见过这名目,江苏人似乎不吃蛇和猫,恐怕就如谁所说,是蛙和鳝鱼了。现在假定这主人和主妇为那里人呢?——不管他。总而言之,无论那里人吃一碗蛇和猫或者蛙和鳝鱼,于幸福的家庭是决不会有损伤的。总之这第一碗一定是‘龙虎斗’,无可磋商。 そこで『竜虎闘』がテーブルの中央に置かれて、彼等は箸を著け、互いに顔を見合せてニッコとしながら 『My dear please.』 『Please you eat first, my dear.』 『Oh no! please you!』 と来るかな。そこで彼等は同時に箸を著け、同時に一塊(いっかい)の蛇肉を抓(つま)む。――いやいや。どうも蛇肉ではグロだ。やっぱり鰻という方がいい。そんならこの『竜虎闘』は蛙と鰻で作ったものということになるので、彼等は同時に一塊の鰻を挟む。大きさは皆同じで五五の二十五と、三五の……こいつはいけない。そして、同時に口に入れる……」 彼はそのうち我慢し切れなくなって振向いてみようかと思った。というのはたちまち背後が非常に騒々しくなり、人が二三囘往ったり来たりするのだが、それでもよく持ちこたえてざわめきの中で思いを接(つな)いでいる。 「これや少し擽(くすぐ)ったいな。こんな家庭があるだろうか。おや、おや、俺の思索はどうしてこんなに乱れるだろう。題目はこんなに好(い)いのだが出来そうも無さそうだ。 そこでと、特に留学生と規めることもないだろう。国内で高等教育を受けた者でもいい。彼等は大学の卒業生だ。高尚で優美で、高尚で……。男は文学者だし、女も文学者だ。あるいは文学の崇拝者でもいい。また、女は詩人で、男は詩人崇拝家、フェミニスト、あるいは……」 堪(こら)え切れなくなって彼はふり返ってみた。 “于是一碗‘龙虎斗’摆在桌子中央了,他们两人同时捏起筷子,指着碗沿,笑迷迷的你看我,我看你……。 “My dear,please.” “Please you eat first,my dear.” “Oh no,please your!” “于是他们同时伸下筷子去,同时夹出一块蛇肉来,——不不,蛇肉究竟太奇怪,还不如说是鳝鱼罢。那么,这碗‘龙虎斗’是蛙和鳝鱼所做的了。他们同时夹出一块鳝鱼来,一样大小,五五二十五,三五……不管他,同时放进嘴里去,……”他不能自制的只想回过头去看,因为他觉得背后很热闹,有人来来往往的走了两三回。但他还熬着,乱嘈嘈的接着想,“这似乎有点肉麻,那有这样的家庭?唉唉,我的思路怎么会这样乱,这好题目怕是做不完篇的了。——或者不必定用留学生,就在国内受了高等教育的也可以。他们都是大学毕业的,高尚优美,高尚……。男的是文学家;女的也是文学家,或者文学崇拜家。或者女的是诗人;男的是诗人崇拜者,女性尊重者。或者……”他终于忍耐不住,回过头去了。 |
鲁迅《幸福的家庭》(日汉对照)(二)
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