身を起して灯火(あかり)を点けると室内はいよいよ静まり返った。そこでふらふら歩き出し、門を閉めに行った。帰って来て寝台の端に腰掛けると、糸車は静かに地上に立っている。彼女は心を定めてあたりを見廻しているうち居ても立ってもいられなくなった。室内は非常に静まり返った、のみならずまた非常に大きくなった、品物が余りになさ過ぎた。
非常に大きくなった部屋は四面から彼女を囲み、非常に無さ過ぎた品物は四面から彼女を圧迫し、遂には喘ぐことさえ出来なくなった。
寶兒はたしかに死んだのだと思うと、彼女はこの部屋を見るのもいやになり、灯火(ともしび)を吹き消して横たわった。彼女は泣いているあの時のことを想い出した。自分は綿糸を紡いでいると、寶兒は側(そば)に坐って茴香豆(ういきょうまめ)を食べている。黒目勝ちの小さな眼を瞠(みは)ってしばらく想い廻(めぐ)らしていたが、「媽(マ)、父(ちゃん)はワンタンを売ったから、わたしも大きくなったらワンタンを売るよ。売ったら売っただけみんなお前に上げるよ」といった。あの時はわたしも紡ぎ出した綿糸がまるで一寸々々皆意味があるように思われた。一寸々々皆生きていた。
だが現在どうであろう。現在のことは実際彼女に取っては何の想出(おもいで)の種ともならない。――わたしは前にも言ったが、彼女は感じの鈍い女だ。感じの鈍い女に何の想出があろう。ただこの部屋は非常に静かだ。非常に大きい。非常にガランとしているとだけ、感じればそれでいいのだ。
他站起身,点上灯火,屋子越显得静。他昏昏的走去关上门,回来坐在床沿上,纺车静静的立在地上。他定一定神,四面一看,更觉得坐立不得,屋子不但太静,而且也太大了,东西也太空了。太大的屋子四面包围着他,太空的东西四面压着他,叫他喘气不得。
他现在知道他的宝儿确乎死了;不愿意见这屋子,吹熄了灯,躺着。他一面哭,一面想:想那时候,自己纺着棉纱,宝儿坐在身边吃茴香豆,瞪着一双小黑眼睛想了一刻,便说,“妈!爹卖馄饨,我大了也卖馄饨,卖许多许多钱,——我都给你。”那时候,真是连纺出的棉纱,也仿佛寸寸都有意思,寸寸都活着。但现在怎么了?现在的事,单四嫂子却实在没有想到什么。——我早经说过:他是粗笨女人。他能想出什么呢?他单觉得这屋子太静,太大,太空罢了。
しかし感じの鈍い單四嫂子も魂は返されぬものくらいのことは知っているから、この世で寶兒に逢うことは出来ぬものと諦めて、太息(といき)を洩らして独言(ひとりごと)をいった。
「寶兒や、わたしの夢に現われておくれ、お前はやっぱりこの土地に残っていてね」
そこで眼をつぶって早く眠って寶兒に会おうとすると、自分の苦しい呼吸がこの静かなガランドウの中を通過するそれがハッキリ聞こえた。
單四嫂子は遂にうつらうつらと夢路に入(い)った。室内は全く森閑とした。
この時、隣の赤鼻の小唄がちょうど終りを告げた頃で、二人はふらふらよろよろと咸亨酒店を出たが、老拱はもう一度喉を引搾って唱い出した。
「憎くなるほど、可愛いお前、一人でいるのは淋しかろ」
但单四嫂子虽然粗笨,却知道还魂是不能有的事,他的宝儿也的确不能再见了。叹一口气,自言自语的说,“宝儿,你该还在这里,你给我梦里见见罢。”于是合上眼,想赶快睡去,会他的宝儿,苦苦的呼吸通过了静和大和空虚,自己听得明白。
单四嫂子终于朦朦胧胧的走入睡乡,全屋子都很静。这时红鼻子老拱的小曲,也早经唱完;跄跄踉踉出了咸亨,却又提尖了喉咙,唱道:
“我的冤家呀!——可怜你,——孤另另的……”
「アハハハハハ」
藍皮阿五は手を伸ばして老拱の肩を叩き、二人は笑ったり押合ったり揉み苦茶になって立去った。
單四嫂子はもう睡ってしまった。老拱等が出て行ったので咸亨酒店は店を閉めた。この時魯鎮は全く静寂の中に落ち、ただこの暗夜が明日(あす)に成り変ることを想わせるが、この静寂の中にもなお奔(はし)る波がある。別に幾つかの犬がある。これも暗闇に躱(かく)れてオーオーと啼く。
蓝皮阿五便伸手揪住了老拱的肩头,两个人七歪八斜的笑着挤着走去。
单四嫂子早睡着了,老拱们也走了,咸亨也关上门了。这时的鲁镇,便完全落在寂静里。只有那暗夜为想变成明天,却仍在这寂静里奔波;另有几条狗,也躲在暗地里呜呜的叫。