阿Qの記憶ではおおかたこれが今まであった第二の屈辱といってもいい。幸いピシャリ、ピシャリの響(ひびき)のあとは、彼に関する一事件が完了したように、かえって非常に気楽になった。それにまた「すぐ忘れてしまう」という先祖伝来の宝物が利き目をあらわし、ぶらぶら歩いて酒屋の門口(かどぐち)まで来た時にはもうすこぶる元気なものであった。
折柄(おりから)向うから来たのは、靜修庵(せいしゅうあん)の若い尼であった。阿Qはふだんでも彼女を見るときっと悪態を吐(つ)くのだ。ましてや屈辱のあとだったから、いつものことを想い出すと共に敵愾心(てきがいしん)を喚起(よびおこ)した。
在阿Q的记忆上,这大约要算是生平第二件的屈辱。幸而拍拍的响了之后,于他倒似乎完结了一件事,反而觉得轻松些,而且“忘却”这一件祖传的宝贝也发生了效力,他慢慢的走,将到酒店门口,早已有些高兴了。
但对面走来了静修庵里的小尼姑。阿Q便在平时,看见伊也一定要唾骂,而况在屈辱之后呢?他于是发生了回忆,又发生了敌忾了。
「きょうはなぜこんなに運が悪いかと思ったら、さてこそてめえを見たからだ」と彼は独りでそう極めて、わざと彼女にきこえるように大唾を吐いた。
「ペッ、プッ」
若い尼は皆目(かいもく)眼も呉れず頭をさげてひたすら歩いた。すれちがいに阿Qは突然手を伸ばして彼女の剃り立ての頭を撫でた。
「から坊主! 早く帰れ。和尚が待っているぞ」
「お前は何だって手出しをするの」
尼は顔じゅう真赤にして早足で歩き出した。
“我不知道我今天为什么这样晦气,原来就因为见了你!”他想。
他迎上去,大声的吐一口唾沫:
“咳,呸!”
小尼姑全不睬,低了头只是走。阿Q走近伊身旁,突然伸出手去摩着伊新剃的头皮,呆笑着,说:
“秃儿!快回去,和尚等着你……”
“你怎么动手动脚……”尼姑满脸通红的说,一面赶快走。
酒屋の中の人は大笑いした。己れの手柄を認めた阿Qはますますいい気になってハシャギ出した。
「和尚はやるかもしれねえが、おらあやらねえ」彼は、彼女の頬(ほっ)ぺたを摘(つま)んだ。
酒屋の中の人はまた大笑いした。阿Qはいっそう得意になり、見物人を満足させるために力任せに一捻りして彼女を突放した。
彼はこの一戦で王※[#「髟/胡」、138-9]のことも偽毛唐のことも皆忘れてしまって、きょうの一切の不運が報いられたように見えた。不思議なことにはピシャリ、ピシャリのあの時よりも全身が軽く爽やかになって、ふらふらと今にも飛び出しそうに見えた。
「阿Qの罰(ばち)当りめ。お前の世継ぎは断(た)えてしまうぞ」遠くの方で尼の泣声がきこえた。
「ハハハ」阿Qは十分得意になった。
「ハハハ」酒屋の中の人も九分(くぶ)通り得意になって笑った。
酒店里的人大笑了。阿Q看见自己的勋业得了赏识,便愈加兴高采烈起来:
“和尚动得,我动不得?”他扭住伊的面颊。
酒店里的人大笑了。阿Q更得意,而且为了满足那些赏鉴家起见,再用力的一拧,才放手。
他这一战,早忘却了王胡,也忘却了假洋鬼子,似乎对于今天的一切“晦气”都报了仇;而且奇怪,又仿佛全身比拍拍的响了之后轻松,飘飘然的似乎要飞去了。
“这断子绝孙的阿Q!”远远地听得小尼姑的带哭的声音。
“哈哈哈!”阿Q十分得意的笑。
“哈哈哈!”酒店里的人也九分得意的笑。