次の文章を読んで、それぞれの問いに対する答えとして、最も適当なものを1.2.3.4から一つ選びなさい。 ぼくは、恐る恐るいちばんすみっこの窓口へ行って、教えられた列車の寝台券を申し入れた。 「①……。」 そろばんをはじいていた駅員は、窓口の鉄格子越しにぼくの顔を見返した。ぼくは、もう一度、同じことを言った。 「何枚?」 と駅員は言った。ぼくは②一瞬ためらった。寝台券を一枚しか買わないということが、非常に愚かな、貧乏くさいことのようにも思われた。 「一枚だけでいいんですが。」そう答えた後で、ぼくは慌てて、付け加えた。 「下、下の段のやつが、できたらほしいですが、なければ上でもかまいません。」 聞こえているのか、いないのか、駅員は顔を横に向けたまま、古びた手垢だらけの棚からノートを出して、何か書き込み、それからおもむろに青い切符に判を押したり、数字を書き入れたりして、 「……円……十銭。」 と、ぼくの出した金と引き換えに寝台券をよこした。やれやれ、とぼくは珍しく一度で用が片付いたことに、ひとまずホッとして、受け取った寝台券をたもとに しまいながら、すぐまたそれが、ちゃんとたもとの中に納まっているかどうかが気になった。その瞬間、ぼくはドキリとした。柔らかいたもとを探った手に、堅いボール紙の感触があって寝台券のあることは確かめられたが、窓口の台の上に、さっきぼくが出した五円紙幣がまた載っていたからだ。いや、それはさっき出 した札とは違う、確かに別の五円札だ。 駅員の頭の真上のあたりに、長いコードでつるされた電燈が緑色のかさをかぶってぶら下がっていた。しかし、石の台の上に置かれた五円札は、明らかに、ぼく が家を出る時、母から渡されたものとは同じでない。駅員は、その紙幣の上に何枚かの五十銭銀貨や十銭、五銭の白銅貨を、物慣れた手つきで重ねていた。 ちゃりん、と最後の銅貨が石の台に当たってたてる音が、ぼくの胸の底まで刺すように響いた。③ぼくは心臓の血が全部いっぺんに頭の中に込み上げてくる気がした。そして台の上の金を手の中に握り締めるが早いか、大急ぎで窓口を離れた。――しめた、駅員のやつ、つり銭を間違えやがった。 ぼくは、ほとんど夢中で駅前の人込みの間を擦り抜けた。 (安岡章太郎 やすおかしょうたろう『幸福』から) ①「......。」の言葉は書いてありませんが、「ぼく」は何と言ったのですか。 1 もしもし、お願いします。 2 寝台券をください。 3 ○○号の寝台券をください。 4 寝台券ありませんか。 ②「一瞬ためらった」のはなぜですか。二十五字以内で答えなさい。 ③のようになったのはなぜですか。 1 売り切れていなくて、買えたうれしさでいっぱいで。 2 台の上の五円札をぬすんでやろう、とひそかに思ったので。 3 石の台に当たった銅貨のちゃリンという鋭い音で。 4 台の上の五円札が、母から渡されたのとは違うと思って。 本期翻译答案与讲解: ①3 ②一枚しか買わないことが恥ずかしかったから。 ③2 |
日语N1考试读解练习27
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