典子の日記を読みながら、携帯を耳に当てる亮司。
『恥ずかしい。
子どもをおろしたのも』
『同じような暮らしができるわけな・・・
何の罪もないのに、私はひどい
結局大事なのは自分だけ』
「そう。お母さんそんな話してたの。」
「あんな風に言ってくれるとは、思わなかった。」公衆電話の雪穂。
「あのさ、子どもが出来ないっていうのは・・・」
「ほんとだよ。
昔一度、あんまり具合が悪いから病院行ったら、言われたの。
自然な妊娠はまず無理だって。」
「高宮の時は?」
「ちょっと偽造した。」
「それって昔のこととは関係あるの?」
「どっちでもいいよ、そんなこと。
それ聞いた時、私、ほっとしたんだから。
ごめん。くだらないことしゃべって。
今どこにいるの?」
「メモリックスにいるよ。」
「本当に、平気なの?何もないの?笹垣は?」
「何だかんだ言ったところで、あいつもう刑事じゃないしさ。
案外このままかもよ。」
「私、頑張るからね、亮。」
「うん。」
電話を切ると、男が話しかけてきた。
「あんた?これ買ってくれるっていう人。」
紙袋を受け取る亮司。中には、硫酸の瓶が。
その瓶を手に歩く亮司。
思い浮かべるのは、笹垣の顔・・・。
亮司は典子に、小説を書くために、本物が見たいから青酸カリを持ってきて
欲しいと頼む。
「置いてあるだろ?典子さんとこみたいな大きな病院なら。」
「あるけど・・・。」
「いい方法を思いついたんだ。見ないと書けないからさ。」
「そんな面倒臭いことしなくても、刺したり殴ったりすれば
いいじゃない。
なんで、わざわざ、薬で殺すの?」
「・・・ミステリーだし。」
「別に、普通の無色の粉末だよ。
アーモンドの実の匂いがして。
そのくらいわかればいいでしょ?」
「・・・もういいよ、他の人に頼むから。」
「他の人って。」
「前の会社のルート使えば手に入らないこともないし。
偉そうに心配するようなこと言って、ちょっと手を汚すのはゴメンって
ことだろ?」
「そういうことじゃ。」
「ペットは飼いたくても面倒はごめんなタイプ?
結局大事なのは自分だけ?」
典子の顔色が変わる。
「違う?」
典子は財布を手に黙って出て行ってしまう。
「効きすぎたかな・・・。」
彼女の日記を見ながら亮司が呟く。
コンビニでかごを手に取った典子は、目の前の親子連れを見つめ・・・。
典子の嘔吐する物音で目を覚ます亮司。
テーブルの上には食べ散らかしたゴミの山。
「何これ・・・。典子さん!?
どうしたの、これ!?」
トイレから出てきた典子に亮司が言う。
「うるさい!!」
「気がつけば、もう明日は笹垣が戻ってくる日だった。
いざとなれば、計画を変更すればいいだけの話だが・・・」
亮司は笹垣家の浴室の換気扇を開き・・・。
あのハサミを見つめる亮司。
父と、松浦を刺した時のことを思う。
「俺はもう・・・リアルな死を感じるのが嫌だった。」
典子は迷いながらも、薬を手に入れ亮司に渡す。
「保管庫には別のもの入れておいたし、
まず、触る人もいないから。
本当に、見るだけだからね。」
「怒ってたんじゃなかったの?」
「私ね、子供、おろした事、あるの。
前の、不倫相手の。
私一人でも経済的に育てていけないわけじゃなかった。
ただ、子育てで苦労したり、生活レベル下がったりするのが
嫌だっただけ。
雄一君の言うとおり、結局、自分が一番大事だった。
だいぶ治まったんだけど・・・食べちゃうの。
いなくなった子供の分、詰め込むみたいに。
たまに、今でも。
嫌なんだけど、自分じゃどうしようもない。
だからね、信じることにした。」
「え?」
「何があったか知らないけど、雄一君、何かものすごく後悔していること
あるんじゃない?
だから、他人と命を紡いじゃいけないって、
体が連動しているんだよ。
それが、本気の後悔だと、私は思う。
もう後悔するようなことはしないって、信じてもいいんじゃないかって。」
「ありがと。」
「私も信じてほしいの!
ペットだなんて思っていないし、面倒だからって放り出したりしない!
手でも口でも、いくらでも汚してあげるよ。」
唐沢家を訪れる笹垣。
「雪穂はおりませんけど。」
「一つだけ、お伺いしたいことがあるんですけど。
昔、雪穂さんには気になる人がおるって言ってはったでしょう?
その方、篠塚一成さんいう人ですか?」
「大学のサークルの先輩やったら、そうかもしれません。
はっきりは知りませんので、これで、よろしいですか?」
「ありがとうございます。」
帰っていく笹垣を追う礼子。
「ほんまに、もうええかげん止めてもらえまへんやろか?
あの子、やっと自分らしく生きられるようになってきたんです。
少しは、本音も言えるようになってきましたし。」
「本音ですか?」
「自分の子供を愛せる自信がないって。」
「どうしてそこまで自分のこと、嫌うんでしょう。」
「母親があんなことしでかしたからに決まってますやないか!」
「いや!ほんまにそれだけなんでしょうか。
あ、失礼します。」
笹垣を見送る礼子。
そこへ近所の女性がやって来て、サボテンの鉢を礼子に託す。
庭に咲く6本のサボテン。
仕事をする雪穂の元に、礼子から電話が入る。
「どうしたの?お母さん。」
「なんでもないの。・・・元気?」
「今ね、お母さんのリスト使わせてもらってる。」
「そう・・・。」
「どうしたの?」
「なんでもないの。
ちょっと声を聞きたかっただけよ。
ほなな。」
一つの布団に包まる二人。典子は亮司に背を向けていた。
「典子さんのせいじゃないよ。」
「なーんでダメなのかな・・・。」
「手だよ。
手が小さい。
子供の手みたいじゃない?」
「雄一君の手だって小さいよ。」
手をつないだまま語り合う二人。
「焦ることないよね。明日もあさってもあるもんね。」
亮司は幼い頃、雪穂と手をつないだときのことを思い出す。
亮司の父の姿に、慌てて放した雪穂のことを。
「これはバツなんだよ。」
「何の?」
「なんだろう。色々ありすぎて。
・・・また明日。」
そう言い亮司は目を閉じた。
「それはきっと、あの日、父親を殺した罰。
雪穂を置き去りにした罰。
その小さな手から未来を奪い取った罰。
暗闇の中、迷いながら、間違いながら、
雪穂がやっと掴んだ明日を、
もう二度と失わせるわけにはいかないんだ。」
亮司はぐっすり眠った典子のことを暫く見つめ・・・。
翌朝、亮司は青酸カリと共に消えていた。
近所の人から貰ったサボテンを植えようと庭の土を掘る礼子。
何かに気付き、掘っていくと・・・。
恐ろしいものを見てしまった礼子は、無我夢中でサボテンを植えていく。
雪穂の今までの言葉を思いながら・・・。
そして部屋に戻ろうとした礼子は、その場に倒れてしまった。
亮司は青酸カリを手に笹垣の家の前に立っていた。
その時、雪穂から連絡が入る。
「亮。お母さん倒れたの。」
「え?」
「発見したのは生徒さんなんだけど、
さっき家に戻ってみたら、
私の知らないサボテンが・・・一つ増えてる!」
「それって・・・」
「わからない。今は意識不明だから・・・。
大丈夫だよ。
そう、祈ってて。」
亮司が笹垣の家の前から走り出す。
家に戻った笹垣は、自分の部屋に異変を感じる。
「やっと、遊びに来たんか・・・。」
篠宮が笹垣を訪ねてくる。
「高宮から、東西電装のシステムが盗まれた話を聞いて、
気になって、調べてみたんです。」
「秋吉雄一・・・」
「その男、桐原亮司ですよね!?
一週間前に、メモリックス辞めたみたいですけど。
その秋吉雄一に手引きしたのは、唐沢じゃないでしょうか?」
「これを、ご自分で調べはったんですか?」
「会社のシステム部に行って、調べてもらいました。
笹垣さんの方は?」
「ええ。まず、二人がやったと見て間違いないと思います。
彼らの手口には、独特の特徴がある。
それを、川島さんに言うたら、明かに動揺してはりました。
多分、薄々感じてはったんでしょうな。」
「理由は?」
「唐沢雪穂は、あなたが、好きやったんです。
ほう。あまりびっくりしていませんな。」
「一つの可能性としては、考えたこともありましたから。
ただ、どう考えても、目的がわからないんです。
江利子を傷つけたからといって、俺の気持ちが唐沢に
向くわけじゃないし。
それなら、普通に接していた方が可能性があるとは考えませんか?」
「最終的には、ただ傷つけたかった、だけかもしれませんなー。」
「そのためだけに、わざわざ強姦ですか!
ご丁寧に写真まで撮って。」
「それが、人間の魂を奪う一番の確実な方法やと、
思ってるんでしょう。」
「魂を、奪う?」
「はい。同じ目に合ったことがあるんです、唐沢雪穂は。」
「誰にですか?」
「11歳の時、桐原亮司の父親に。
多分、母親に売られたんでしょうな。
11歳の女の子には、売春も、強姦も、同じもんですわ。」
「桐原亮司は、その償いをしたってことですか?
父親と同じことを、江利子に、することでですか?
でもそれだけでは、説明がつかないじゃないですか。
俺には、唐沢が、桐原亮司を守っているようにさえ、
思えるんです。
普通なら、もう関わりたくないような男ですよ。
あなたのおっしゃった、共生する意味が、二人にはない。」
「いや、もう一つ、欠けてる要素が、あると思うんです。」
「何ですか?」
「それはまだ、確証が得られませんので・・・。」
古賀家族の写真を見つめたあと、
「お願いがあるんです。
彼らの思考には、特徴があるんです。
自分たちの真実に触れた人間には、死を与えるんです。」
礼子が意識を取り戻す。
「お母さん。」
「雪穂?
庭の、あれ・・・何?」
「あれ?」
「しらばっくれるの、いい加減にし。
一生懸命、隠してたやないの。
あんた、ほんまのお母さん、殺したんか?
あの人は、関係あるの?
言うてくれたら良かったのに。
あんた、何も言わへんから・・・。
しんどかったやろ?
堪忍な・・・。
気付いてあげられんと・・・。
もっと、ちゃんと気付いてやれんとな・・・。
あんたも、言われへんわな。
けどな、あんたのいてるとこは、生き地獄。
ほんまはもっと、楽しいねんよ。
笑ったり怒ったり、泣いたりするのに、
遠慮なんかいらへんのよ。
損してえ、あんた。
大赤字や。
自首し。
長生きするから。待っててあげるから。
あんたの帰るとこは、いつでもあるんやから。」
雪穂の瞳から涙がこぼれる。
「一人じゃないから・・・。
一人じゃないから。行くわけにもいかないの。
戻るわけにもいかないの。」
「白い花の、幼馴染か・・・。」
「ごめんね、お母さん。」
雪穂がチューブに手をかけるのを、礼子は黙って見つめる。
ガスの元栓をひねった時のことを思いながら、それを引き抜こうとした時、
誰かが雪穂の手を掴む。亮司だ。
「二度目はダメだよ。
なしだよ。
行って。
行けって。」
雪穂は涙をこぼしながら病室を去る。
礼子も涙をこぼしながら雪穂をただ黙って見送った。
亮司と礼子は見つめあい・・・。
『投稿者:幽霊からの遺言
どうか子どもたちに
本当の罰は心と記憶に下されると伝えてください。
飲み込んだ罰は魂を蝕み、やがて、その身体さえ
命さえ食い尽くす
どうか、その前に
どうか、親たちに伝えてください』
書き込みを読んだ谷口真文は亮司が通っていた小学校に連絡し、
卒業証書を預かっているので住所を教えてほしい頼む。
卒業証書を抱え夜道を走る真文。
「桐原亮司君の、お母さんですか?
息子さん、今、どうしていますか?
ちょっと、心配で。
私、あの子大好きだったんですよ!
それで、あの、」
「いい子だったでしょう!?
賢い、優しい、子だったでしょう!?
殺したんです・・・。私が、あの子殺したんです・・・。」
弥生子はそう言い泣き崩れた。
「リョウコ?私だけど。
今夜が峠なの。ちょっと疲れちゃって。
話してもいい?」
病院の公衆電話から話す雪穂の姿を看護師が見かける。
『微量ガス損失アラーム機能停止中』
「白い花の、子か?あんた。
二人して、そのざまか。
哀れやな・・・。」
「正しいことなんて、言われなくてもわかってるんです。」
亮司は手袋をつけた手で、チューブを取り・・・。
『こぼれ落ちた過去』
「なぁ・・・雪穂。
俺は幸せだったから、いつ死んでも構わないと思ったんだ。」
2004年冬
栗原典子(西田尚美)は自分の住むアパートの前で座り込んでいた
亮司(山田孝之)に白湯を持ってきて飲ます。
病院に行った方がいい、と言う典子の腕を掴んで止め、
「大丈夫そうなんで。ありがとうございました。」
亮司はそう言い咳き込みながら立ち上がり、典子に背を向け歩き出す。
小さく笑いながら・・・。
笹垣探偵事務所前。
亮司は新聞受けに新聞が溜まっていることを確認すると、
鍵の業者に電話をする。
「すいません。カギ失くしちゃって。
笹垣と申しますが、入れなくなっちゃったんです。」
上手く部屋に上がりこんだ亮司。
綺麗に整頓された部屋。
カレンダーには11月23日から30日まで、布施、と線が引いてあった。
篠塚(柏原崇)から江利子(大塚ちひろ)の強姦事件を調べるよう依頼を受けた
笹垣(武田鉄矢)、
「わかりました。1週間いただけますか?」と引き受けた。
笹垣は江利子に会いに行き、笑みを見せながら名刺を差し出す。
『株式会社繊維研究所
編集部・ライター
笹垣潤三』
「あの・・・電話で話したと思うんですけど・・・」
「雪穂の高校時代のことですよね?」
「はい、はい。
このたび唐沢雪穂さんを私共の方で特集やろうという話になりまして、
私、取材しておったんですけども、
妙な噂を聞いてしまって。
それが本当だったらその特集止めておこうって、編集部のほうから。」
「妙な噂って?」
「唐沢雪穂さんと、あなたが目撃なさった暴行事件。
聞くところによると、唐沢雪穂さんの生い立ちについて
学校中に広まって、それを広めた張本人に、唐沢雪穂さんが
暴行事件を仕掛けた。
元クラスメートで、そう言っておられるかた、おられますよね?」
当時の新聞の切り抜きと、雪穂への嫌がらせのメモを見せる笹垣。
「そういう噂もありましたけど、女子高生の妄想ですよ。」
動揺を抑えながら答える江利子。
「だけど、実に不思議な手口だったらしいですな。
暴行された写真が送りつけられてきたのに、
強姦された痕跡がなかった、ゆうようなね。
口封じのための犯行やないか、というような、ええ。」
江利子は笹垣の言葉を聞きながら、自分の身の上に起きたことと重ねる。
「そこまでは私、よく知らないんで。」
だが笹垣はカップを握り締める彼女の震えを見逃さなかった。
江利子が帰ったあと、江利子の話をノートに書き込む笹垣。
礼子(八千草薫)が言っていた、雪穂には気になる人がいるらしい、という
言葉を思い返す。
ある日、雪穂を心配した礼子がやってきた。
「なんか・・・怒ってるよね?
何か、あったの?」
「何かあったんは、あんたの方よ。」
礼子は高宮(塩谷 瞬)の母親から電話があり、雪穂の離婚を初めて知ったのだ。
「ま・・・元気そうやな。」
「それ心配してわざわざ来てくれたの?」
「半分はヒルズ見物やけどな。」
二人が笑いあう。
雪穂は亮司に礼子が来たのは離婚を心配してだけのようだと電話で
報告する。
「そっちは?」雪穂が聞く。
「企業調査の話は蒸し返されてないし、
篠塚が笹垣に頼んだのは、高宮絡みじゃないな。」
「・・・江利子か。
ごめんね。私のせいだ。」
「そう思うなら店しっかり守って。
笹垣は俺が何とかするから。」
亮司はそう言い電話を切る。
笹垣の恐ろしい笑みを思い浮かべる亮司。
次に思い浮かんだのは、「幽霊みたいなもんだから。」と言った典子。
亮司は以前会った総菜屋で典子に声をかけた。
「すいません。
やっぱりそうだ!
夕べはありがとうございました。」
「もう、大丈夫なの?」
「今から、一緒に食事でもしませんか?」
惣菜を指差し亮司が言う。
典子が笑い、亮司も又微笑んだ。
公園のベンチで惣菜を広げる二人。
「典子さん、病院の薬剤師やってるんだ。」
「手に職つければどうなっても生きていけるって、親が。
生きてはいけるけど、行き遅れちゃった!
秋吉君は?何やってんの?」
「システムエンジニア。今日でもう辞めちゃったけど。」
そう言い名刺を差し出す。
「小説書こうと思って。」
「どんな小説!?」
「幽霊の話。」
「幽霊・・・」
「どうしたの?」
「私、昔不倫してたことあって、
その時自分が幽霊みたいだって、思ったことがあるの。」
「・・・そう。」亮司が優しく微笑んだ。
被害者郁子、そして江利子の様子を考える笹垣。
「何でもかんでも強姦や・・・。
なんでや・・・。
弥陀の本願 悪人成仏のためなれば・・・。」
公園での食事会が続く。空のビール缶は既に6本並んでいる。
「一緒になるって言葉信じて、金まで貸してたのよ、私!
300万!!300万!!」そう言い怒りを空き缶にぶつける。
「・・・寒くない?
寒くない?典子さん。」
「寒い!」
微笑みあう二人。
「なぁ・・・雪穂・・・。
こぼれ落ちた過去の断片を、全て拾い集めるのは無理だから、
拾うやつを消そうと思ったんだ。」
川沿いの道を歩く笹垣。
川を一本の白い百合が流れていく。
亮司は典子が眠るベッドの横に座り、雪穂のくれたケースを見つめていた。
「いつか海へ出る、あなたの未来の為に・・・。」
帝都大学病院
典子は同僚に、亮司と同棲し始めたことを話す。
「会社の寮出なきゃいけないって言うから。」
「その人、昼間何してんの?」
「うちで小説でも書いてるんじゃない?」
その頃、亮司は典子の部屋の引き出しなどを探っていた。
そして、『負け犬日記』と表紙に書かれた彼女の日記を見つける。
「またロクでもないのに騙されてるんじゃないの?」
「今回は不倫じゃないし!」
「泥棒だったりして。
知らない間に預金盗まれて、姿消されてたりして。」
典子に不安が広がっていく。
慌てて帰宅すると、亮司はパソコンに向っていた。
「お帰り。どうしたの?」
「何でも・・・。」典子に笑顔が戻る。
時間をチェックする亮司。まだ5時前だ。
「仕事終わったの?」
「うん!何やってんの?」
「小説のネタで薬のこと調べてるんだけど、
結構ややこしいね。」
「教えてあげるよ、薬のことなら。」
「ほんとに?助かるよ。」
「何が知りたいの?」
「青酸カリ。」
「え!?」
「小説のトリックで使うんだけど。」笑顔でそう言う亮司。
「・・・そうだよね。」
典子から驚きの表情が消えた。
その頃、礼子は雪穂と高宮の離婚の詳細が書かれた書類を読んでいた。
食事をしながら、雪穂は来年にはもう一店舗出そうと思っていると
嬉しそうに語る。
「お商売好きなんやね。」
「もう、店しかないからね。」
「・・・」
こたつでタバコを吸いながら典子が説明をする。
「青酸カリは、それ自体は安定した物質なの。
それが胃の中に入って、酸と反応して、青酸ガスになって、
初めて毒性を発揮するの。」
「飲み物に混ぜて飲ますっていうのは?」
ベッドから亮司が言う。
「現実的じゃないよ。
独特のにおいがあるから、鼻のいい人はすぐ気付くだろうし。
舌もしびれるし。」
「ガスを発生させて吸わすっていうのは?」
「犯人が先に吸っちゃって死ぬんじゃない?」
「・・・そうか・・・。」
「雄一君さー、私の体、好き?」
「え・・・好きだよ。」
「じゃあ、何でいかないの?
たまたまかと思ったけど、ずっと・・だよね。
私じゃ、ダメってこと?」
「典子さんだけってわけじゃないよ。
今までもずっとそうだったし。」
「出来たことないってこと?」
「・・・あるよ。一回だけ。」
「どんな人?」
「絶対妊娠しない相手。」
亮司は花岡夕子の死体を抱いたことを思い出していた。
「男!?」
「男じゃないよ。
冷たい人だったけど。」
「え・・・冷たい人が好き、なの?
M系?」
「好きじゃないよ。」
「好きな人とは?」
雪穂とのことを思う亮司。
「・・・何も出来なかった。」
「それ、治した方がいいんじゃないの?」
「きっと残すなってことなんだよ。
俺の遺伝子なんか・・・。」
「何で?」
「ろくでもないから。」微笑みながらそう答える亮司・・・。
笹垣は菊池(田中圭)に会い、工場へやって来た。
「何で強姦なんか・・・そう思ってな。
君あん時、桐原にはめられたって言っとったやろ?
だけど君ハメるにしてはえらい手の込んだことしたと思わへんか?
あいつ、何か君に恨みでもあったんか?」
「それは・・・わかりませんけど。
俺、桐原のこと脅してたんです。
「軽く保護観だったんで、あの時は言えませんでした。すみません。」
「いやいや。脅しのネタは?」
「写真なんですけど、秋吉雄一のおじさんが撮った風景写真。
けどそこに映ってたのは、桐原の親父と、女の子だったんです。」
「女の子!」
「桐原は、親父の隠し子だって言ってましたけど。
まあ、ね。
想像することは、一つじゃないですか。」
「もしかして、その女の子っていうのは、この子?」
雪穂の小学生のアルバム写真のコピーを見せる笹垣。
「後姿だったんで・・・すいません。」
笹垣が弥生子を店を訪ねると、弥生子はまた泥酔していた。
「おい。聞きたいことがあんねん!
ダンナの愛人、西本文代やのうて、娘の方やったんやろ!?
息子は!?息子はそれ、知っとったんか!?」
グラスを持つ弥生子の手首の切り傷に気付き、笹垣は目をそらす。
「誰にも言われへんの、苦しいやろな?
気ー変わったら、電話してくれや。」
そう言いカウンターに名刺を置いた。
弥生子は笹垣が出ていくのをじっと見つめ・・・。
雪穂はブティックをもう一店舗増やす目標で、一生懸命商売に
励んでいた。
DMの発送準備をしていると、礼子がやって来た。
「商売熱心どすな。」
「どうしたの?」
「帰る前に、売り上げに協力してあげよう思ってな。」
雪穂が片付ける姿を心配そうに見つめる礼子。
「お金払ったのに。」
「新幹線代だよ。」
「なあ、一つだけ聞いてもええ?
あんた、中絶して、それが元で子供できへんってほんま?
ほんまなんか?」
「・・・でも、それでよかったと思ってる。
やっぱり、私、自分の子供を愛せないと思うし。
その代わりっていうのも何だけど、
店、育てていこうかなって。
ごめんね。」
「なんか、初めて、あんたの本音聞いたような気がするわ。
私も子供できへんかったし、
なんか、妙なとこだけ血がつながってるみたいやな。
これ、こちらで教室開いてる先生方の連絡先や。
中にはぎょうさんお金持っていはる方も。
頑張りなさい!
それが、あんたの生き方なんやったら。」
礼子の優しさに感謝するように、雪穂は優しい笑顔で母の背中を見送った。
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