少し前のことになるが、①フインランドの保護当局が実施したという調査の結果が興味深い。食事の指導や健康管理の効果がどのようなものであるかを、科学的に調べようという調査である。
四十歳から四十五歳の管理職を約六百人選ぶ。彼らには、承諾を得た上で定期検診、栄養学的な調査などを受けてもらう。また、運動を毎日すること、煙草、アルコール、砂糖などの摂取を抑えることを約束してもらう。そして、そういう健康管理を十五年間続けた。
その効果を比較して調べたために、同じ職業分野に属する別の六百人の群れを選んだ。これは同じ年月、いかなる健康管理の対象にもされない人々である。彼らには、何の説明もせずに定期的に健康調査表に解答を書き込んでもらった。
そして両方の群れを比較した。はっきりした違いが現れた。心臓血管系の病気、高血圧、死亡、自殺......いずれの数も一方の群れが少なかった。何と、それが健康管理の対象ではなかった人々だったというのである。②医師たちは仰天し、③実験結果の公表を控えたそうだ。
R.ジャカール、M.テブオス共著、菊地昌美訳「安らかな死のための宣言」に紹介されている話である。健康管理は不要だ、などと速断するわけには行くまいが、調査結果の含意はまことに意味深長だと思われる。
本は「治療上の過保護と生体の他律的管理は、健康を守ることにはならず、逆に、依存、免疫不全、抵抗力の低下、要するに不健全な状態をもたらす」と指摘している。私たちの④生き方万般についても考えさせるものを含む言葉だ。
過保護が依存を生む。そのまま、⑤子供の育て方や教育の在り方に通じる話である。そして自律が自立につながる。むろん必要な医療を受けなければならないが、健康保持には、平生、自ら抵抗力をつけ、免疫機能を高める工夫が肝要だと知らされる。
問1 ①フインランド保護当局が実施した調査はどのような目的で始められるか。
1 健康管理を人々に徹底したい
2 健康管理が本当に有効かどうかを調査したい
3 健康管理の有効性を詳しく知りたい
4 健康管理が人々の自律につながることを知らせたい
問2 ②医師たちは仰天したのはなぜか。
1 調査結果が期待した結果と違うものだったから
2 調査結果で病気や自殺が予想より多かったから
3 調査結果がまさに予想通りだったから
4 調査結果が説明不可能なものだったから
問3 医師たちが③実験結果の公表を控えたのはなぜか。
1 仰天して公表する精神的余裕がなかったから
2 健康管理をしない方がいいということにつながるから
3 健康管理をさせた人の健康状態が悪化したので責任を感じたから
4 医師たちがショックを受け公表どころではなかったから
問4 ④生き方万般の例としてあげられているものはどれか。
1 健康管理 2 子育て 3 医療 4 自律
問5 ⑤子供の育て方や教育の在り方に通じるとはどういうことか。
1 教育において過保護は逆効果であることが多いということ
2 教育において何も管理をしない方がいいということ
3 教育において必要に応じて過保護と依存が存在するということ
4 教育において過保護は自律的な人間を生み出すということ
問6 この文章の題として最も適当なものはどれか。
1 健康管理と過保護
2 仰天したフインランドの医師たち
3 過保護と自立
4 依存と過保護