拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申しあげます。
このたびは愚息光英の縁談につきましては、ひとかたならぬお骨折りにあずかり、厚くお礼申しあげます。
来春3月挙式予定ということが決まり、私どもも大変安堵いたしておりましたが、愚息のアフリカ転勤の内示があり、困惑している次第です。すぐさま、のり子様にお伝えしたところ、「そんなところにいくなら結婚なんてしない」と申された由で、光英もずいぶん悩んでいたようですが、この際、婚約を解消したいので、その旨あなた様にお伝えしてほしいとのことでございます。何があっても自分についてくるという気構えがなければ、結婚しても、とうていうまくいかないという光英の話でございます。
アフリカというので、のり子様も不安を感じられたのだと推察いたしますが、大変不機嫌になられて、先にお帰りになられたとか。また、「アメリカやヨーロッパならいいのに。友達になんていわれるかしら」ともおっしゃったので、光英といたしましては、職業や勤務地で見栄を張るというのは自分の考えと合っていないので、この際、このお話ははじめからなかったことにしてほしいと申します。
明るくて、私どもも大変気に入っていたお嬢様ですし、光英にも、きっと驚きのあまりいわれたにちがいないのだからと申しきかせたのでございますが、よくよく考えた末のことだからと申しています。
誠に残念な結果に相成り、あなた様には重ねてご迷惑をおかけいたし、申しわけなく存じております。
いやなお役目で誠に申しわけありませんが、婚約解消を希望している由、先様にお伝えくださいますようお願い申しあげる次第です。
ご無礼の段、幾重にもおわび申しあげますとともに、今後とも変わらぬご鞭撻をいただきますよう、伏してお願い申しあげます。
なお、後日光英ともども参上いたしまして、改めておわび申しあげます。
まずはお知らせかたがたおわび申しあげます。
敬具
仲人に宛てたもの。断る理由をあやふやにせず、はっきり記すこと。 |