この文章は、中学生の約60%ができない数学の問題(図形の論証)を中学校のカリキュラムに入れるべきかどうかについて論じたものです。
教育は本来平等を目指すべきものだが、しかし残念ながらある局面では平等たり得ない。ここに教育の矛盾があると思う。二つの理由で、「図形の論証」のような難解な教材がカリキュラムに組み入れられるのもやむを得ないし、むしろそれがときに必要な措置だとさえ私が考えている所以を述べたい。
第一に、教材は現在の社会の現実にだけ合わせるべきものではなく、...第二には文化とは何か?ということと深く関係がある。...。教育の中に分からないもの、及ばないものが入ってきてはいけないという考えが、教育を狭めてしまうことになる。...物理の教科書は分かったこと、解明済みのことしか記述しない。このような教科書の記述の仕方は間違っているのではないだろう。...。分かったことや分り易いことだけで教育を限定すると、教育を結局はし死滅させることにつながりかねない。...(西尾幹ニ「教育と自由」)
*カリキュラム:教育の内容。 所以:理由。
問:「教育を狭めてしまう」とあるが、どのような意味か。
1. 教育を受ける機会が平等でなくなってしまう。
2. 内容を理解できない中学生が増えてしまう。
3. 本来の教育の意味が損なわれてしまう。
4. 正確に教えられる教師が減ってしまう。
正解:3
20年も前、初めて米国に留学した際、週末にホームステイに招いてくれた老婦人が、こんなことを私に言った。
「あなたはこれからこの国で様々な人にであうことでしょう。親切にしてくれる人もたくさんいるとは思うけれど、あなたの心を傷つけるような冷たい言葉や態度に出会うこともあるでしょう。そんな時悲しんだり怒ったり相手を責めるのではなく、難しいことだとは思うけれど、その人を許し、その人のために祈ってあげてください。不親切な人というのは実は暖かい心の触れ合いを知らない不幸な人なのですから。」
その後アメリカでも、また帰国後も、様々な人に出会い、様々な経験を重ねるにつれて、この老婦人の言葉は本当だと今更ながら私は思うのだ。
* ホームステイ:よその家庭に滞在すること 今更ながら:あらためて。
問:「老婦人の言葉は本当だ」というのはどういう意味ですか。
1. アメリカには、本当に親切な人もたくさんいるが、不親切な人もたくさんいる。
2. 人を許し、その人のために祈るのは本当に難しい。
3. いつの世にも、人は本当にいろいろな人に出会って、学びながら生きていくものだ。
4. 本当に、不親切な人は皆、不幸な人なのだ。
正解:4
旅というのは一般的に見れば人間の空間的な移動であるが、空間移動と時間移動の間に一つの類推をたててみた場合、例えば東京から仙台まで移動するのが旅であるように、少年期から老年期までの時間経過も一つの旅と考えることができよう。人が目的地に向かって旅する時、必ずたどるものは道であり、我々日本人はしばしば生きる態度そのものを「道」に託する。花道、茶道、書道、柔道という言葉も、単なる技能としてとらえられたものではなく、それらの技能の習得を通して、我々日本人が日々、それぞれ生きる「道」を求めて行こうとしていることを表す言葉なのである。 (加藤秀俊「新旅行用心集」)
*託する:たとえる。 習得:習って自分のものにすること。 日々:毎日の生活の中で。
問:「生きる態度そのものを「道」に託する」とはどういうことか。
1. 道徳的に正しく生きるように心掛けようとする。
2. 何を目指すのかはっきり決めて歩こうとする。
3. 人生の目的はいろいろな技能を習得することだと考える。
4. 人生を一日一日の積み重ねとしてとらえる。
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