天皇ご夫妻が訪問されたインドの詩人タゴールに、次の言葉がある。「人間の歴史は虐げられた者の勝利を忍耐強く待っている」。この至言に最もふさわしい人であったろう。南アフリカのネルソン·マンデラ元大統領が、95歳で天に帰っていった▼大仰でなく、虐げられた人々の勝利のために天が用意したような人だった。白人による支配と差別は4世紀に及び、黒人は憎しみをたぎらせた。長かった暗黒の歴史を、双方の融和のうちに終わらせた。まれな政治家にして、「許し」を説く慈父のような指導者でもあった▼若くして人種隔離政策への抵抗に身を投じ、捕まる。悪名高い刑務所ロベン島などで27年の獄中生活に耐えた。閉ざされた歳月はマンデラ氏を不屈のイメージで染め、生きながら伝説になっていった▼71歳で釈放されて4年後、島を再訪した。「一番悲しかったのは、母と息子が相次いで亡くなり、葬式にも行けなかったことだ」と語り、不屈の人が記者の前で初めて涙を見せたという▼闘い続けたその生涯に、人が人らしく生きる権利を思ってみる。自由と平等にせよ、参政権にせよ、いまでは当たり前のことを勝ち取るために史上流された血と涙の量はどれほどになろう。むろん「知る権利」もである▼大統領就任演説で「人種が融和する虹の国をつくろう」と語った姿は忘れがたい。遠い夜明けへ歩む抑圧された人々を、言葉と行動で勇気づけてきた。掲(かか)げるこぶしのあれほど高かった人を、ほかに知らない。
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