昔々のある日。
お日さまが西に沈んで、日が暮れました。
トリ小屋のニワトリは、みんな止まり木にとまりました。
そして、目を瞑りました。
「明日の朝まで、お休みなさい。」
でも、すぐには眠れません。
一羽のメンドリが、くちばしで羽をつついていました。
このメンドリは、毎日、きちんと卵を産む、とてもいいメンドリでした。
ただ、時々お面白い事を言っては、みんなを笑わせるくせがありました。
羽をつついているうち、白い羽が一枚、ポロリと下に落ちました。
「あら、羽が一枚落ちたわ。」
と、メンドリは言いました。
「でもいいわ。私は羽が落ちると、それだけ体がスラリとして、きれいになるんですもの。」
メンドリは、みんなを笑わせようと思って言ったのです。
けれど、ほかのトリたちは遊び疲れて、みんなスヤスヤと眠ってしまいました。
ところが、近くの木の枝に、目玉をクルクルさせたフクロウが留まっていました。
夜になって暗くなればなるほど、目がよく見えてくるフクロウです。
「私は聞きましたよ。この耳で。耳が落ちてしまわないうちは、できるだけたくさん聞いておかなければなりませんからね。」
フクロウはハト小屋のハトに話しかけました。
「お聞きなさい。トリ小屋のメンドリさんは、きれいになりたいと言って、自分の羽を抜いたんだそうですよ。」
「クックー、クックー。」
ハトは、隣のアヒルに話しました。
「アヒルさん、アヒルさん。なんと驚いた事に、ニワトリさんが、きれいになる競争をして、羽をみんなむしりとったんですって。」
「ガア、ガア、ガア。」
アヒルは驚いて鳴きました。
「大変なことをするもんだ。羽をむしってしまっては、風邪を引いて、熱をだすに決まっている。」
アヒル小屋の軒下に、コウモリが止まっていました。
コウモリは、この話を聞いてビックリしました。
「ひどい話だ。こんな話を黙っているわけにはいかない。みんなに知らせなくっちゃ。」
ヒラヒラヒラと、コウモリは月夜の空へ飛んでいきました。
明くる朝になりました。
「チュン、チュン、チュン。」
朝早くから、ニワトリ小屋の前で、スズメが喧しく騒ぎました。
ニワトリたちは、変に思って。
「もしもし、スズメさん。どうかしたのですか?」
「これは驚いた。チュン、チュン、チュン。」
と、スズメは鳴きました。
「どうしたどころではありませんよ。メンドリさんが羽を抜いて、五羽もなくなったというではありませんか。」
「あら、まあ。それはお気の毒ね。一体どうしたというのでしょう。そんなに羽を抜いて、五羽もなくなるなんて。驚きましたわ。」と、一羽のメンドリが言いました。
なんとそのメンドリは、一番始めに羽を落としたメンドリだったではありませんか。
たった一枚羽を落とした事が、おしまいにはメンドリが五羽もなくなったと、途中から話がひどく変わってしまったのです。
「どこのメンドリさんでしょうね?」
「ここのメンドリさんではないのですか?」
「いいえ、ここではありませんよ。」
「おかしいなあ、どこだろう?」
「ほんとに、どこでしょうねえ?」
「おかしいなあ。」
風が吹いて、夕べメンドリが落とした一枚の羽を、ヒラヒラとどこかへ持っていきました。