佐藤さんと田中さんは自動車の会社を一緒に経営していた。ところが、ある日、佐藤さんは急病にかかり、医者には、もう助からないと言われた。彼は苦しい息の下から、田中さんに言った。
「僕はどうしても君に謝らなければならないことがある。君とは、30年間、会社を一緒にやってきた。君は25年前、日本でははじめてのスポーツ・カーを作ったね。でも、競争相手の会社が、同じような車を、一週間早く売り出した。僕が設計図を相手の会社に売ったからなんだ。」
「ああ、そんなこと、いいよ。許すから。忘れてくれ」
「もう一つ、謝らなければならないことがある。20年ぐらい前、①君の奥さんが、とても怒って、会社に来たことがあったね。君は秘書の花子君と、ドライブに出かけるところだった。あれは、ぼくが、奥さんに言いつけたんだ。それからまだあるんだ。君の金庫からお金がなくなったことがあったね。君は中野君が金庫の番号を知っていると疑って、彼をクビにしたね。だけど、②あれも、僕だったんだ。」
「ああ、許すよ。もう君には、なにも、怒っていないよ。」
「それから、15年前だったかな、君は旅行へ行って、ダイヤを買ってきたね。そして会社でみんなに見せた。ところが、次の日、無くなったよね。あのダイヤをとったのも、ぼくなんだ。妻にやってしまったんだ」
「そうだったのか。でも、それもいんだ。とにかく、君のことは、もうすべて許したんだから」
「まだ……」と佐藤さんは苦しそうに言った。
「まだ、200や300は言われなければならないことがあるんだ。聞いてくれるかい」
「いや、もうすべて許したんだ。ただ、③その代わりに、一つだけ許してもらいたいことがあるんだ。」
「もちろん、なんでも許すよ。いったい、なんなんだい」
「君に毒を飲ませたのは、ぼくなんだ」
練習問題
1、②「あれ」は何を指すか。
金庫の番号を奥さんに教えたこと。
金庫の中のお金をとったこと。
中野君に金庫の番号を教えたこと。
中野君をクビにしたこと。
2、「君の奥さんが、とても怒って」とあるが、奥さんが怒ったのはなぜか。
夫が買ったダイヤがなくなったから
夫が外の女性と遊びに行ったと聞いたから
夫の金庫のお金がなくなったから
花子さんと喧嘩したから
3、③「その代わりに」とは何の代わりか。
相手に話を聞いてもらう代わりに
相手に許してもらう代わりに
相手のしたことを許す代わりに
相手の話を聞く代わりに