1级読解の練習(3)
人間が心に思うこと他人に伝え、知らしめるのには、①いろいろな方法があります。例えば悲しみを訴えるのには、悲しい顔つきをしても伝えられる。ものが食いたい時は手まねで食う様子をして見せてもわかる。その他、泣くとか、うなるとか、叫ぶのか、にらむとか、嘆息するとか、殴るとかいう手段もありまして、急な、激しい感情を一息に伝えるのには、そういう( ② )な方法の方が適する場合もありますが、しかしやや細かい思想を明りょうに伝えようとすれば、言語によるより他はありません。言語がないとどんなに不自由かということは、日本語の通じない外国へ旅行してみるとわかります。
なおまた、言語は他人を相手にするときばかりでなく、「 ③ 」にも必要であります。われわれは頭の中で「これをこうして」とか「あれをああして」とかいうふうに独り言を言い、自分で自分に言い聞かせながら考える。そうしないと、自分の思っていることがはっきりせず、まとまりが付きにくい。皆さんが算術や幾何の問題を考えるのにも、必ず頭の中で言語を使う。われわれはまた、孤独を紛らすために自分で自分に話しかける習慣があります。しいてものを考えようとしないでも、1人でぽつねんとしている時、④自分の中にあるもう1人の自分が、ふとささやきかけてくることがあります。それから、他人に話すのでも、自分の言おうとすること一遍心で言ってみて、しかる後口に出すこともあります。普通、われわれは英語を話す時は、まず日本語で思い浮かべて、それを頭の中で英語に訳してからしゃべりますが、母国語で話す時でも、難しい事柄を述べるには、しばしばそういうふうにする必要を感じます。されば言語は思想を伝達する機関であると同時に、⑤思想に1つの形態を与える、まとまりをつける、という働きを持っております。
そういうわけで、言語は非常に便利なものでありますが、しかし人間が心に思っていることならなんでも言語で表せる、言語を持って表白できない思想や感情はない、どういうふうに考えたが間違いであります。今もいうように、泣いたり、笑ったり、叫だりする方が、かえってその時の気持ちにぴったり当てはまる場合がある。「 ⑥ 」ほうが、くどくど言葉を費すよりも千万無量の思いを伝える。もっと簡単な例をあげますと、鯛を食べたことがない人に入りの鉢を分からせるように説明しろと言ったらば、皆さんはどんな言葉を選びますか。恐らくどんな言葉をもっても言い表す方法がないでありましょう。さように、たった1つのもので伝えることができないのでありますから、言語というものは不自由なものであります。
問1「①いろいろな方法」に当てはまらないものはどれか。
1 おなかが痛い時におなかに手を当ててみせる
2 気に入らないものを投げ付ける
3 嫌いな食べ物を我慢して食べる
4 うれしいときに飛びあがる
問2(②)に入るものとして適当なものはどれか。
1 近代的 2 現代的 3 原始的 4 過去的
問3( ③ )に入るものをして適当なものはどれか。
1 みんなで話をするとき 2 寂しくて独り言を言うとき
3 静かに読書をするとき 4 1人でものを考える時
問4 「④自分の中にあるもう1人の自分が、ふとささやきかけてくる」とはどういうことか。
1 自分の中にだれかの意思が入り込んできて、それと対話するということ
2 自分の中で役割りを決めて、1人2役を演じるということ
3 自分が気が付かない性格が、自然と現れて話し出すということ
4 自然と、頭の中で言葉を使って自分自身で対話するということ
問5なぜ言語は「⑤思想に1つの形態を与える、まとまりをつける」ことができるのか。
1 言語を使うことによって、思想や考え方が頭の中でまとめられるから
2 どの言語であっても、ある決まった形態を持っているから
3 言語は、それ自体まとまりを持った体系を形作っているから
4 言語を使用することが、だれでも一人前の社会生活者になれるから
問6「 ⑥ 」に入るものをして適当なものはどれか。
1 黙ってさめざめと涙を流している
2 怒ってぶつぶつ文句を言っている
3 楽しくてべらべらしゃべっている
4 不安な気持ちをとつとつと訴えている
問7 言語に対する筆者の考え方とあっているものはどれか。
1言語は思想を伝達する唯一のものであり、かつ複雑な思想も1つに形作ることができる優れたものである
2言語は思想を伝達したり思考をまとめたりする機能を持つ一方で、内容を伝えきれないという限界を有している
3言語は急な、激しい感情一息に伝える際に有効ではなく、言い表す方法がないこともある役に立たないものである
4言語は非常に便利なものであり、人間が心に思っている思想や感情なら、言語を持って表白できないものはない