なり
(格助詞「に」に動詞「あり」の付いた「にあり」の変化。活用は「なら.なり、に.なり.なる.なれ.なれ」。用言.助動詞の連体形や、名詞.副詞などに付く。断定の助動詞)
1 場所や方角などを表す名詞に付いて、その場所に存在している意を表す。…に在る。中古以降では、主として連体形だけが用いられる。*万葉‐三六八六「旅奈礼(ナレ)ば思ひ絶えてもありつれど家にある妹(いも)し思ひ悲しも」*源氏‐夕顔「この西なる家はなに人の住むぞ」
2 ある事物に関して、その種類.性質.状態.原因.理由などを説明し断定することを表す。…である。上代では、名詞またはこれに準ずる語に付くが、中古以降、用言.助動詞の連体形や句末などにも付くようになる。*古事記‐中.歌謡「この御酒(みき)は我が御酒那良(ナラ)ず」*古今‐仮名序「心に思ふことを見るもの聞くものにつけて言ひ出だせるなり」*土左「都へと思ふをものの悲しきは帰らぬ人のあればなりけり」
3 ある名を持つことを表す。連体形だけが用いられ、江戸時代の漢文訓読に始まる語法という。…という名の。*俳.おらが春‐四山人跋「此の一巻や、しなのの俳諧寺一茶なるものの草稿にして」
4 金額の切れ目を示す。証書や帳簿で金額を書くのに「一金壱百万円也」のように「也」字を用いて、以下の端数のないことを示し、また、珠算の読みあげ算で一項の数値ごとに付けて句切りを明らかにする。
補注 (1)(1)の意味については、近世以来、詠嘆としてとらえられてきたが、近年、「伝聞推定」と説くのが一般である。(2)(1)の「なり」と(2)の「なり」とは、接続形式を異にするほか、各活用形の用法や他語との呼応にちがった傾向が見られ、また上代の漢字表記では、断定の「なり」に用いられる「在.有」などが、伝聞推定の「なり」に用いられず、逆に断定の「なり」には用いない「鳴」などが伝聞推定の「なり」に用いられている。(3)(1)の「なり」がラ変型活用語に付く時は、上代では「ありなり」のように終止形に付くが、中古の用例はほとんど「あなり」と書かれている。これは、音便化した「あんなり」の「ん」が表記されなかったものである。この「あん」は従来、連体形「ある」の音便化したものと考えられていたが、「あるなり」と書かれた確証に乏しい。ただし、後世には、連体形に接する例もあらわれてくる。(4)中古では、(2)の「なり」に「めり」「なり」などが付く時は、他のラ変型の活用語と同じく、「なンめり」「なンなり」と撥音便化する。ただしこの撥音は表記されないことが多い。(5)(2)の未然形「なら」が、「ば」を伴わないで仮定条件を表す用法は、近世初期以降の口語にあらわれる。また、連体形「なる」が「な」に転じて、室町以降の口語で、終止法.連体法に用いられる。
たり.1
〔助動〕(活用は「たら.たり、と.たり.たる.たれ.たれ」(ラ変型活用)。体言に付く。格助詞「と」に動詞「あり」の接した「とあり」の変化)断定の助動詞。事物の資格をはっきりとさし示す意を表す。…である。*西大寺本金光明最勝王経平安初期点‐七「現の閻羅の長姉たりと、常に青色の野蚕の衣を著たり」*蜻蛉‐下「兄(せうと)たる人、ほかよりきて」*平家‐一「忠盛備前守たりし時」
補注 平安朝の和文にはほとんど例がなく、漢文訓読文にもっぱら用いられた。中世以後は和漢混交文、抄物などに現れるが、室町中期以後はまれになり、江戸時代にかけて「何たる」のような複合語の用例に限定される。なお江戸前期の上方文学では、「何たる」のほかに「親たる人」のように、身分を表す名詞に付くものがほとんどである。ただし明治以後の文語文にはまた例が見える。
たり.2
〔助動〕(活用は「たら.たり.たり.たる.たれ.たれ」(ラ変型活用)。動詞型活用の連用形に付く。接続助詞「て」に動詞「あり」の接した「てあり」の変化)完了の助動詞。
1 動作.状態の存続すること、または動作の結果の存続することに対する確認の気持を表す。…ている。…ておく。*万葉‐三九一〇「楝(あふち)を家に植ゑ多良(タラ)ば」
2 動作.作用が完了したことを確認する気持を表す。…た。*拾遺‐八二二「たたくとて宿の妻戸をあけたれば人もこずゑのくひななりけり」
3 未来の事柄の実現に対する強い判断をあらわす。きっと…する。必ず…するものだ。*今昔‐一三.六「弥(いよいよ)信を凝(こら)して彼の持者を供養せば、三世の諸仏を供養せむよりは勝れたり」
4 →副助詞「たり」
5 (終助詞的用法)命令、勧誘の意を表す。*滑.浮世床‐初「気障な話は止たり止たり」
補注 (1)「たり」の原形は「万葉‐八九七」の「老いに弖阿留(テアル)吾が身の上に病(やまひ)をと加え弖阿礼(テアレ)ば」などの「てあり」であるが、その「て」については、接続助詞とするほか、助動詞「つ」の連用形が接続助詞に転じたもの、また「つ」の連用形そのものとする説がある。(2)中古の「たなり」「ためり」は、「なり」「めり」が「たり」の終止形(一説に連体形)の撥音便形「た(ン)」を受けているものを表す。中世には「き」「けり」に続く場合「たっし」「たっける」のように促音便形「たっ」が用いられた。(3)バ行マ行の動詞が「たり」を伴うとき、動詞の語尾が撥音便化またはウ音便化するとともに、「たり」が「だり」となることが多い。(4)並列を表す「…たり…たり」は、「…ぬ…ぬ」が文語的であるのに対して、口語として長く用いられ、固定化したものは助詞として扱われる。その固定するまでの例として、「平治‐中」の「大の男の、大鎧はきたり、馬は大きなり、乗りわづらふうへ」のような中止用法が、中世以後に多くみられる。(5)命令形「たれ」は古くは用いられたが、中世以降は衰え、それに代わってもとの形「てあれ」が復活。連体形「たる」の「る」は鎌倉時代から脱落の傾向を生じて「た」となり、現代の口語の助動詞「た」の終止.連体形となる。
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