昔々、一人ぼっちの女の人が、魔法使いに頼みました。
「私には子供がいません。小さくてもかまわないので、かわいい女の子がほしいのです。」
すると魔法使いは、種を一粒くれました。
女の人が種を撒くと、たちまち芽が出て、つぼみが一つ膨らみました。
「まあ、なんてきれいなんでしょう。」
女の人が思わずキスをすると、つぼみが開きました。
そしてなんと、そのつぼみの中に、小さな女の子が座っていたのです。
「はじめまして。貴方の名前は、親指姫よ。」
女の人は、親指姫を大切に育てました。
親指姫は、お皿の海で泳ぎます。
葉っぱの船を漕ぎながら、きれいな声で歌いました。
夜になると、胡桃の殻のベッドで眠ります。
お布団は、花弁でした。
さて、ある晩のことです。
ヒキガエルのお母さんが、寝ている親指姫を見付けました。
「息子のお嫁さんにちょうどいいわ。ゲロゲロ。」
ヒキガエルのお母さんは親指姫を連れていくと、スイレンの葉っぱに載せました。
「さあ、起きるんだよ。今日からお前は私の息子のお嫁さんだよ。そしてこの沼がお前の家さ。息子を連れてくるから、ここにいるんだよ。ゲロゲロ。」
ヒキガエルのお母さんは、そう言ってどこかへ行ってしまいました。
「ヒキガエルのお嫁さんになるのはいや。ドロの沼も嫌いだわ。」
親指姫は泣き出しました。
「かわいそうに。逃がしてやろうよ。」
近くにいた魚たちが、スイレンの茎を噛み切りました。
「ありがとう。魚さん。」
スイレンの葉っぱは、流れに流れていきます。
親指姫は、飛んでいた蝶蝶を葉っぱに結びつけました。
蝶蝶はヒラヒラ飛んで、葉っぱはどんどん川を下っていきます。
「おや、珍しい虫がいるぞ。」
コガメムシが親指姫を捕まえて、森の奥へ連れて行きましたが、そのままどこかへ行ってしまいました。
森の奥で、親指姫は一人ぼっちで暮らしました。
花の蜜を食べて、草に溜まった露を飲んで、葉っぱに包まって眠ります。
やがて冬が来て、空から雪が降ってきました。
「ああ、なんて寒いのかしら。。」
震えながら歩いていた親指姫は、野鼠の家を見付けました。
「おやおや、寒い中をかわいそうに。さあ、お入り。中はあったかいし、食べ物もたくさんあるよ。」
親指姫は、野鼠と一緒に暮らすことになりました。
さて、野鼠の家のさらに地面の奥には、お金持ちのモグラが住んでいました。
「なんてかわいい人だろう。」
親指姫が気に入ったモグラは、毎日遊びに来ます。
ある日のこと、親指姫は倒れているツバメを見付けました。
やさしい親指姫は、毎日ツバメの世話をしました。
「どうか元気になって、もう一度歌って、ツバメさん。私は、貴方の歌が大好きよ。」
春になると、ツバメはすっかり元気になって、親指姫を誘いました。
「一緒に、南の国へ行きましょう。南の国は、とってもいいところですよ。」
「ありがとう。でも、いけないわ。」
「どうして?」
「だって、私がいなくなったら、お世話になった野鼠のおばあさんが寂しがります。」
「そうですか。では、さようなら。」
ツバメは、親指姫にお礼を言うと、南の国へ飛んで行きました。
夏が来ると、野鼠が言いました。
「よかったわね。お金持ちのモグラさんが、貴方をお嫁にほしいんですって。秋になったら、モグラさんと結婚するんですよ。」
親指姫は、びっくりしました。
モグラと結婚したら、ずっと地面の底で暮らさなければなりません。
モグラは、お日さまも花も大嫌いなのです。
夏の終わりの日、親指姫は野原で言いました。
「さよなら、お日さま。さようなら。お花さんたち。私は地面の底に行って、もう二度と貴方たちに会えません。」
親指姫は悲しくなって、泣き出しました。
その時、空の上から明るい声が聞こえました。
「お迎えにきましたよ。」
あの時のツバメが飛んできたのです。
「さあ、今度こそ一緒に行きましょう。」
「ええ、行きましょう。」
ツバメは親指姫を背中に乗せて、飛んで行きました。
南へ南へ何日も飛んで、着いたのは花の国です。
ツバメは花の上に親指姫を降ろしました。
「ようこそ、かわいい人。」
声に振り替えると、親指姫と同じくらいの男の子が立っていました。
花の国の王子さまです。
「さあ、これをどうぞ。」
王子さまは、親指姫の背中に羽をつけてくれました。
それから親指姫は、花の国の王子と結婚しました。
二人は花から花へと飛び回りながら、幸せに暮らしました。