登場人物:
お客さん――アメリカからの留学生プウラン君ご主人――鈴木さんと妻の佳子さん、母の冨美江さん。
場所: 鈴木さんの家。
(玄関で)
プウラン:ごめんください。
佳子:は-い。あらっ、プウランさん、ようこそいらっしゃいました。
(奥へ向って) お母さん、お客様がお見えになりましたよ。
冨美江:お待ちしておりました。
佳子:道はすぐわかりました。
プウラン:それがちょっと……
佳子:やっぱりそうでしたか。
プウラン:でも、そこの交番で聞きました。
冨美江:どうぞおあがりください。
プウラン:お邪魔します。
(プウランさんは玄関で靴を脱ぎ、和室に入って正座する)
(家の中で)
鈴木:さぁ、どうぞお楽になさってください。
プウラン:はい、そうさせていただます。(あぐらをかく)
佳子:プウランさん、畳ははじめてですか。
プウラン:はい、はじめてです。日本の家にはこういう畳の部屋が多いのですか。
鈴木:最近の家には洋間が増えていますが、やはりどの家にも、ひとつは畳の部屋が
あるようです。
プウラン:あのすこし奥まったところに、墨絵がかけてありますね。そして花も生けてあり
ます。あそこはなんというところですか。
佳子:床の間と申します。お気づきのように軸物をかけたり、季節の生け花を飾ったり
するところです。
プウラン:この白い紙を貼った戸が障子というものですか。
佳子:そうです。よくご存じですね。
プウラン:障子の柔らかい光のなかで、生け花と墨絵を眺めていると、ほんとうに気分
が落ち着きますね。
冨美江:もうお食事は用意できましたので、こちらへどうぞ。
(食堂で)
冨美江:なにもありませんが、どうぞめしあがってください。
プウラン:おいしそうですね。これはお刺し身ですね。
鈴木:はい。そうです。
プウラン:これはなんという魚ですか。
佳子:これはマグロです。これはハマチです。これはイカです。
冨美江:プウランさん、お刺し身もめしあがるんですか。
プウラン:ええ、何でも食べられます。アメリカでも日本の料理の店によく行きます。
冨美江:そうですか、じゃあ、遠慮なくどうぞ。
プウラン:いただきます。
冨美江:はい、どうぞ。
………
鈴木:プウランさん、日本のお酒は飲めますか。
プウラン:え、飲めますけれども、そんなに強くないですよ。
鈴木:じゃあ、すこしを飲みましょうか。
おーい、佳子、お酒を持って来てください。
佳子:は-い。
お待ちどうさま。お酒は来ましたよ。
………
プウラン:あ~、おいしかったです。ごちそうさまでした。
冨美江:いいえ、お粗末さまでした。
………
プウラン:あ、もうこんな時間になった。そろそろ失礼しなくては…
佳子:え、まだ九時ですよ。もうすこし…
プウラン:ええ…。でも明日は仕事がありますから…
佳子:そうですか。
プウラン:今日はほんとうにありがとうございました。
冨美江:いいえ。
佳子:じゃあ、また遊びに来て下さい。
プウラン:はい、ありがどうございます。
冨美江:じゃ、外は暗いですから、お気をつけてください。
プウラン:はい。お邪魔しました。