それから一時間たって、ジョンジーはこう言いました。
「スーちゃん。わたし、いつか、ナポリ湾を描きたいのよ」
午後にあの医者がやってきました。帰り際、スーも廊下に出ました。
「五分五分だ」と医者はスーの細く震えている手をとって言いました。「よく看病すればあなたの勝ちになる。これからわたしは下の階にいる別の患者を診なければならん。ベーアマンと言ったな ―― 画家、なんだろうな。この患者も肺炎なんだ。もう高齢だし、体も弱っているし、急性だし。彼の方は、助からんだろう。だが今日、病院に行って、もう少し楽になるだろう」
次の日、医者はスーに言いました。「もう危険はない。あなたの勝ちだ。あと必要なのは栄養と看病 ―― それだけだよ」
その午後、スーはベッドのところに来ました。ジョンジーはそこで横になっており、とても青くて全く実用的じゃないウールのショルダースカーフを満足げに編んでおりました。スーは、枕も何もかも全部まとめて抱きかかえるように手を回しました。
「ちょっと話したいことがあるのよ、白ねずみちゃん」とスーは言いました。「今日、ベーアマンさんが病院で肺炎のためお亡くなりになったの。病気はたった二日だけだったわ。一日目の朝、下の自分の部屋で痛みのためどうしようもない状態になっているのを管理人さんが見つけたんですって。靴も服もぐっしょり濡れていて、氷みたいに冷たくなっていたそうよ。あんなひどい晩にいったいどこに行ってたのか、はじめは想像もできなかったみたいだけど、まだ明かりのついたランタンが見つかって、それから、元の場所から引きずり出されたはしごが見つかったのよ。それから、散らばっていた筆と、緑と黄色が混ぜられたパレットも。それから、 ―― ねえ、窓の外を見てごらんなさい。あの壁のところ、最後の一枚のつたの葉を見て。どうして、あの葉、風が吹いてもひらひら動かないのか、不思議に思わない? ああ、ジョンジー、あれがベーアマンさんの傑作なのよ ―― あの葉は、ベーアマンさんが描いたものなのよ。最後の一枚の葉が散った夜に」
上一页 [1] [2] [3] [4] 下一页 尾页