「市場調査の概要」
1.市場調査の内容
市場調査とは、企業活動における特定の問題を解決するために、必要な情報を収集整理分析することです。したがって、目的が定まらない調査はありえません。市場調査の調査内容対象はその目的によって変わってきます。この目的は、大きく「現状の把握」と「企画開発のための基礎資料づくり」に分けられます。
2.市場調査の対象領域
(1)商品
(新商品アイディア探索調査、試作品評価調査、既存商品調査等)
(2)消費者の行動意識
(購入使用実態調査、イメージ調査、媒体接触調査、意識調査等)
(3)流通
(取扱販売量調査、販売経路調査、販売店調査、商圏調査等)
(4)販売計画
(広告効果調査、セールスマン調査等)
(5)業界
(特定商品の業界実体動向、競合調査等)
(6)需要予測
3.データの種類と調査対象の選び方
(1)データの種類
オープンデータ
官公庁の各種統計、民間企業や諸団体等の調査レポート、新聞や雑誌の記事および書籍から収集可能なデータ
フィールドソースデータ
アンケート調査やグループインタビューなどの定性調査から、独自に作成するオリジナルデータ
(2)調査対象の選び方
全数調査
条件に該当する全対象に対して行う調査(国勢調査など)
標本調査
条件に該当する調査対象の中から代表を選び出して行う調査
確率論に基づいた抽出を行う標本調査
(単純無作法抽出、層化抽出、集落抽出等)
確率論に基づかない抽出の標本調査
(恣意的抽出)
「市場調査の手法」
1.定量調査(統計調査)
(1)質問紙による面接法(調査員が面接で質問する)
〈利点〉回答者が本人、回答者の回答精度を確認できる
〈欠点〉コストが高い
(2)留置法(調査員が手渡し、後日訪問して回収する)
〈利点〉調査対象者が多い場合は有効
〈欠点〉回答が本人かどうか不明
(3)郵送法(基本的には郵送で配布し、郵送で回収する)
〈利点〉対象者が点在している場合は有効
〈欠点〉回収率が悪い(10~15%程度)代表性を欠く
(4)電話法
〈利点〉手早くできる、費用が安い、全国も可能
〈欠点〉質問量が限られる、代表性に欠ける
(5)集合法(調査対象者に集合してもらい、質問紙で調査)
〈利点〉商品等を具体的に提示できる、実験も可能
〈欠点〉大量サンプルは無理、代表性に欠ける
2.定性調査(典型調査)
(1)グループインタビュー(集団面接法)
調査対象条件に合う対象者5~7名程度に対し、座談会形式でディスカッションする面接調査方式。WHYインタビューとも呼ばれ、事実関係の底にある意識を探る。
〈利点〉アンケート等では得られない心理を探りうる
〈欠点〉条件にあった典型的の人を集めるのは困難
(2)ディプスインタビュー(深層心理面接法)
精神分析的面接方法で、臨床心理学者や社会心理学者が対象者と1対1で、面接調査を行う。1ケース2~4時間に及ぶ。
〈利点〉個人の行動分析としては最も手の込んだ手法
〈欠点〉インタビュー分析に高度な専門技術が要求される
「調査票作成(定量調査における調査票作成のチェックポイント)」
1.フェイスシート作成のチェックポイント
(1)フェイスシートとは
市場調査の中で、一般世帯や個人を対象とする場合には必ずフェイスシートがつく。これは、調査回答者の基本的な属性を問う質問で、データを集計分析していく切り口となる重要な部分。
(2)個人調査のフェイス項目
性、年齢、学歴、職業、未既婚、家族構成、収入、住居形態
(3)世帯調査のフェイス項目
世帯主性別、世帯主年齢、世帯主職業、世帯員構成、世帯収入、主婦年齢、主婦職業
(4)フェイスシート作成のチェックポイント
〈記名式調査票〉のときには、名前、性別、年齢、住所、℡№記入欄を用意する(℡№は調査票チェックの際に使用できる)
〈無記名式の調査票〉で、収入や学歴など極めて個人的な部分を尋ねる場合は、フェイスシートは一番最後におく
〈未既婚〉については、離死別者がいずれに含まれるのかを明記する
2.調査対象者に対する依頼状作成のポイント
定量定性調査を問わず、調査対象者に対して依頼状を作成する際には、以下の点を明確にする必要がある。
(1)調査の趣旨、目的
(2)調査主体がどんな機関であるか
(3)どうして調査対象者が選ばれたのか
(4)調査票が回収された後、それがどのように扱われるか
(5)調査対象者にとって不利益がないこと
(6)締切の日時、集合日時、訪問日時(目立つように大きく)
(7)不明点の問い合わせ先
3.調査票作成のチェックポイント
(1)1つの質問で2つ以上の質問項目を入れない
ex.あなたは、ブランデーの味や香りはよいと思いますか
(味は良いが香りは嫌いという人は答えられない)
(2)1つの選択肢の中に2つ以上の意味を入れない
ex.お中元にもらって嬉しいものを1つだけ選んで○を
1.海苔や缶詰 2.石鹸セット
(3)質問文そのものに評価基準を含ませない
ex.あなたは夕食を店屋物で済ませてしまうことがありますか。
(済ませてしまうという表現は手抜きという評価を含む)
(4)回答が単数回答なのか、複数回答なのかを明記する
(これがないといくつでも回答していいのか、1つだけなのか不明)
(5)複数回答の場合は「その他」を設ける
(「その他」という選択肢を設けておかないと、無回答か回答もれか該当項目なしなのかがわからない)
(6)金額の範囲については境界に注意する
ex.1ヶ月の食費(外食費を除く)はいくらですか
1.10,000円以下 2.10,000~20,000
(ちょうど10,000円の人はどちらに○をつけていいのか不明)
(7)事実をとらえる質問は先に聞き、意見を聞く質問は後にまわす
(この逆だと、先に答えた意見にしばられて事実が曲げられやすい)
(8)1つの質問の中で、選択肢は10個~15個以内が望ましい
(回答の選択肢はできるだけ少なく)
(9)必ずレテストを行う
(社内の人間や家族などに回答者となってもらい、答えにくい箇所、ワーティングのミス、質問量等をチェックする)
(10)この調査から得たい情報は明確となっているか。また、作成した調査票からその情報を得ることができるかを確認する
(11)調査項目を思いつくままに何もかも盛り込んではいないか
(12)回答の選択肢番号は正しいか
(選択肢番号にダブリがあると正しい集計が不能となる)
(13)文字は小さすぎないか
(特に高齢者も対象に含まれている場合)
(14)必要なフェイスシート(基本属性)項目に欠け落ちはないか
「調査データの見方」
1.データの分析
質問の選択肢ごとの単純な集計は、GT(Grand Total)と呼ばれる。集計にあたっては、男女別、年代別、職業別などの属性間クロス、質問同士をかけあわせる質問間クロスによってデータを分析していく。
2.特徴
集計計画の際には何別に特徴をみたいのかを考え、“何”の部分を表側にたてる(男女別の違いを見たい、年代別の特徴を見たい等)。このデータは通常は横%で表示される。
3.データの読み方
集計表のデータを読んでいく場合、それぞれの属性について横の%構成比の大小を比べることで特徴を見る(ex.男性で最も割合が高いのは(4)の選択肢である等)。次いで、選択肢の1つ1つについて、縦の%で属性間の特徴を見ていく(ex.各年代の%を縦に比べてみると30代の%が最も高い等)。この両方の見方から1つ1つの設問を読み込み、知りたい内容を把握していく。
4.母数
1つの属性の母数は最低でも100人以上である(男女別、年代別のデータを読む場合でも、男性と女性それぞれの母数が100人以上、20代~50代までいずれの年代も100人以上ということ)。分析の段階で加工されたデータは一人歩きすることが多い。報告書の段階では「60人中の25%」とわかっていても、オープンになった後はこの60人が割愛され 25%という数字だけがクローズアップされる。この場合、母数が100人以上であれば、25%という数字だけが取り上げられても100人中の25人ということで代表性を保つことができる。
「調査費用と報告書作成」
1.調査の外注費用
(1)定量調査
条件/首都圏で1000名の訪問留置調査を行った場合
(調査票の設計から集計分析まで含めて)500万円~700万円
(2)グループインタビュー
条件/首都圏で30代の主婦4グループ(各6人)に対して行った場合(調査企画から分析まで含めて)
1グループ40~70万円/4グループ合計で150~280万円程度
2.報告書作成のポイント
(1)報告書の備えるべき要件
調査の目的と問題点の所在調査を行った理由と調査課題を明記
調査概要具体的な研究計画、採用した調査方法、分析方法等の5W1Hを明記(定量調査であれば、調査対象者の属性、サンプリングの方法、調査期間、サンプル数、回収状況等)
調査結果得られたデータを、調査依頼者が知りたいと思っている事柄を論理的に凝縮した形でまとめる。たとえ当初の仮説を否定する結果が出たとしても、データを歪めずにありのままの情報を提供する
考察得られたデータについて報告者としての考察を行う
要約報告書全体の要約を必ず載せる
(2)報告書作成におけるポイント
「事実」としてデータから読み取れた部分と、それを土台にした報告者の主観を交えた「解釈」とは明確に区別する。
自分だけの知識経験だけから比較評価することは危険。
1ページ1テーマを原則とし、1行要点コメントを入れる。
感情的な表現は避け、客観的表現を心掛ける。
言葉で表現するよりも、図表を使って表現する。
図表の中のポイント部分は、○印や下線で強調する。
オープンデータに対しては、以下の点に十分注意する。
(1)時系列データは必ず3点以上でトレンドをみる。
(2)統計類の場合は、オリジナルデータレベルで入手する。
(3)オープンデータを利用した場合は必ず出典と発行年を記入する。
内容を補完できる関連データがあれば積極的に活用することで、データの客観性を高める。