ある日の夜、とつぜんウェンディーの部屋の窓から、男の子が飛びこんできました。
「あなたは、だあれ?」
「ぼくはピーター・パン。夢の国ネバーランドから迎えにきたんだ。さあ、一緒に冒険に出かけよう」
一緒にいた弟のジョンとマイケルも、冒険と聞いて大喜びです。
「ネバーランドって、どうやって行くの?」
「飛んでいくんだ。妖精の羽の粉をつけると、空を飛ベるんだよ」
「わあ、ほんとうだ。すごーい!」
「ネバーランドは、二つ目の角を曲がって、あとは、どこまでもまっすぐのところさ」
空高く飛んでいくみんなの目には、家が玩具のように小さく見えます。
いくつもの夜が過ぎ、いくつもの朝がきました。
とつぜん、ピーターがさけびました。
「ごらん、あれがネバーランドだ。あの黒い船は、海賊船だよ。あそこにいるのが、恐ろしいフック船長。むかし、フックは腕と時計をワニに飲みこまれたんだ。だからチクタク音をたててワニが出てくると、まっさおになって逃げ出すよ。アハハ」
島では、子どもたちが待っていました。
「ピーター、お帰りなさい。・・・この人は、だあれ?」
子どもたちがかけ寄ると、ピーターはいいました。
「ウェンディーだよ。ぼくたちのお母さんになってくれるんだ」
ピーターの家は、地面の下にあります。
せまいけれど、あたたかくて、すてきなところです。
たっぷり遊んでつかれると、ウェンディーお母さんが、お休み前のお話しをしてくれます。
昼間は、湖や森の探検です。
でも、海賊船が、いつも遠くからながめています。
フック船長が、子どもたちをねらっているからです。
ある日、ウェンディーが言いました。
「パパとママに会いたいな。おうちに帰りたい」
「フン!帰りたいなら、勝手にすればいい!」
ピーターはすねて、どこかへ飛んでいってしまいました。
「ウェンディー、いっちゃ、いやだ!」
子どもたちが、泣きだしました。
その時、突然フック船長が現れました。
「フフフフフフッ。ピーターはおらんな。よし、野郎ども、子供たちを捕まえろ!」
子供たちは、次々に捕まってしまいました。
「大変よ、ピーター。みんなが捕まったわ」
妖精が、大慌てで知らせました。
「よし。ワニになって、フックを脅かしてやる」
チクタク、チクタク。
ピーターは時計の音をたてながら、海に飛びこみ、泳ぎだしました。
「フフフフフフッ。もうすぐ、お前たちは、海の底だ」
後ろ手にしばられた子どもたちを見て、フック船長はごきげんです。
と、そこにふしぎな音が。
チクタク、チクタク・・・・・・。
「ワ、ワッ、・・・ワニだあー!」
フック船長は、あわてて隠れました。
子どもたちが、こわごわ海をのぞいてみると。
「あっ!」
船にあがってきたのは、ピーターでした。
ピーターは、子どもたちをつぎつぎに助け出しました。
もちろん、たいせつなウェンディーも。
「うぬぬ、ワニかと思えば、おまえだったか」
おこったフック船長がピーターに飛びかかり、船の上ですさまじい戦いがはじまりました。
身の軽いピ一ターが、短剣をビュン!
それをよけたフック船長が、バランスをくずして。
「うわああー!」
フック船長は、海で大口をあけていたワニに、食べられてしまいました。
これで海賊船は、ピーターのものです。
妖精の粉をかけると、海賊船は、フワリと空に浮かびました。
いくつもの夜が過ぎ、いくつもの朝をむかえ、船はウェンディーたちの家へと進みました。
そして、ようやく家へ着くと、ウェンディーたちは、窓から子供部屋に飛び込んで、待っていたお母さんに飛びつきました。
「黙って出ていって、ごめんなさい。ピーターと冒険に出ていたの」
後ろを見ると、ピーターと海賊船は、元来た道を帰るところでした。
飛んでいくピーターを見送りながら、ウェンディーたちは少し悲しくなりました。
そんなウェンディーたちに、ピーターは明るく手を振ると、
「冒険をしたいときは、いつでも呼んで。すぐに迎えに行くから。では、また会おう」
ピーター・パンは、今もネバーランドに住んでいます。
いつの日か、あなたの部屋にも、飛んでくるかもしれませんよ。