僕は顔の高さを合わせるために少し屈み、そっと手を伸ばす。彼女は小さくて白い、しろつめくさを思わせる手をその上に重ねる。僕はゆっくりと腕を引き上げ、彼女を立たせた。彼女は目を細め、消え入りそうなほど淡く微笑んだ。
そのままで歩き出し、階段の前で足を止める。彼女が不安そうにこちらを見上げる。
そろそろと、階段を上り出す。僕にとってなんてことはない、しかし彼女にとっては山登りにも匹敵する階段を上っていく。じっと見上げる瞳の中は、恐れと期待が溢れている。
これは、彼女のリハビリだ。
階段の上の空を見上げると、どんよりと、鉛筆でこすったような灰色の空があった。
一年前なら、顔をしかめつつ、晴れることを祈ったであろう空。今なら、僕はそんな空に何を望むのだろうか。
ふっと、彼女は僕の手を握り締めた。それが不安なのか、彼女は僕の指の中に、手のひらを入れるようにして重ねた。それだけで、満足そうに見えた。
僕は、何かを分かったように微笑んだ。
願いは、暗く陰る空に。祈りは、名も知らぬ神に。夢はいまだ見ぬ明日に。ずっとこのままでありたいと君の手のひらを重ねて。