花木蘭(4)
月日は流れていった。春が来ると草原の草花は一斉に芽を吹き始め、夏になると短い夏を惜しむように美しい花を咲かせた。また秋になるとそれらは強い寒風に吹き付けられ瞬く間に枯れてゆく。冬になると山々には雪が降り積もり軍勢の行く手を阻んだ。ムーランは草原に咲く花を見ては故郷の山水を思い、凍てつ山々を眺めては故郷の両親を案じた。異郷の地でこのような四季の移り変わりを何回見届けたことであろうか。戦況は一進一退を繰り返しながらも、ムーランたちの軍は徐々に失地を回復し、北方に進んでいた。
厳寒の季節が到来する頃、ムーランと兵士たちは本隊と離れて黒山頭というところに駐屯を命じられた。近隣の百姓たちが羊と美味しい酒をもって慰問してきてくれた。親切にも綿入れの差し入れまであった。ムーランは真夜中でも巡回を欠くかさず、兵士に食事や綿入れを届けたりした。兵士たちはこの若い隊長の配慮にいつも感激していた。
ある日黒山頭の前の雪の谷で大勢の敵軍を発見したという知らせを受けた。ムーランの隊は数百人しかおらず、敵の軍勢に比べ少数であることは明らかだった。李元帥に使者をを送った後、ムーランはどのように敵を退けたらよいか思案していた。夜の闇の中で牧羊犬の遠吠えが聞こえた。その時とっさにムーランは敵を打破る方法を考えついたのだ。百姓から差し入れられた百数頭の羊の尾に爆竹をつけ敵を驚かせ、敵軍勢の混乱に乗じて、攻撃を仕掛けるというものである。爆竹に火をつけると激しい音を立てて破裂し、驚いた羊たちはものすごい勢いで山のふもとに向かって突進し、兵士たちは旗をひらめかせて鬨(とき)の声を上げながら後を追って行った。雷鳴のような轟きが山全体にこだまし、突然険しい雪の峰が割れ、降り積もった雪が谷の方に崩れ落ちたのだ。敵兵はこの人工的な大雪崩で雪の中に生き埋めになり、必死でもがいていた。作戦は大成功だった。ムーランと兵士たちは山のふもとに急行し、雪の中から敵の首領であるハラハを生け捕りにしたのだ。ムーランは今までの戦いで犠牲になった兵士や百姓たちのことを思い浮かべ、感極まってハラハに弓を引こうとした。ハラハは観念して目を閉じた。
その時李元帥の援軍がやってきた。「やめなさい。殺してはいけない」李元帥はさけんだ。「朝廷に連行して、処罰を委ねよう」
やっと戦争が終わったのだ。「万歳! 万歳!」と兵士たちは歓呼し、軍全体が喜びに湧いた。国を後にしてから12年の歳月が流れていた。ムーランは故郷の家族を思い、羽があったら飛んで帰りたい心境だった。兵士たちは北方の山々に別れを告げ、高らかに凱歌を歌いながら、帰途についた。(つづく)
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